第39回整形外科リハビリテーション研究会報告
於:平成7年4月29日、30日 国立名古屋病院 会議室

 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院 理学療法士 山口光國先生を講師に迎え『肩関節の評価と治療』と言う演題で2日間に渡り研究会が開催された。会員の一部は事前にビデオにて山口先生の考え方については予習していたが、それでもすさまじいほどの基礎知識をまざまざと見せつけられ、戸惑った会員も多かったのではないかと思われる。しかしその詳細な解剖学、運動学、機能解剖学の知識を我々にもわかるように懇切丁寧に説明され、いままで疑問に思っていた事や明確に出来なかった問題がある程度は理解できたのではないだろうか。山口先生の観察力からもわかるように、これ程までの知識量があってもやはり中心にすべき事は患者からの情報をいかに確実に捉えるかと言う事であった。知識からの固定観念で患者を診る事は、逆にその病態を不明瞭にしかねないと言う事である。重要な事は目の前の患者がどの様な病態を我々に呈示しているかを確実に捉え、それを確実に理論的背景を持って説明できる事である。知識が不足している事はもちろんであるが、観察力が不足していても患者を十分には把握できない事を実感した。膨大な知識量に圧倒されてしまいがちではあるがそれを十分に活用できるだけの観察力が必要であると言う事である。そのためには多くの患者を診る事が重要である。ここで言う”多く”とは、ただ単に数の問題ではなく、いかに問題意識を持って患者を診るかと言う事である。時間に追われる日常診療の中ではなかなか困難な事ではあるが、これを機会に努力して行きたいものである。なかなか2日間を通しての知識を頭の中で整理するのは難しいが、焦らずに一つ一つをゆっくりと自分なりの言葉で整理して、今回の研究会が有意義なものとなるように各自努力して行きたい。また、いまだに明確にならない点などは今後の研究会にて明確にしていきたいため、随時呈示されたい。今後もこのような講演会を計画したいと考えている。今回は参加者が60名にのぼり盛況であったが、逆に会員の優位性等を考慮すると参加人数を制限した方がもう少し落ちついて受講できるのではないかと言う意見もあり今後の検討課題となったが、会員の意見をまとめ最良の方法にて行っていきたい。
 2日目には症例検討を山口先生を交えて通常通り行った。碧南市民病院の浅野先生より21才女性の反復性肩関節脱臼に対するBristow法を施行した症例が呈示された。新鮮例であり、術後3週の時点での後療法について検討された。手術手技については説明がなされ、ある程度は把握できたが直接の担当ではないため詳細の情報がないままであったため大まかな考え方が中心であった。手術ではC−Aligを部分切除している事から2nd jtでの影響が考えられた。C−A ligは棘上筋の滑車作用を担う重要な靭帯であり、これにより棘上筋の筋トルクが骨頭に対して回転方向に働くことから、それを部分切除する事で骨頭の通過障害が生じる事も考えられた。更にこの症例がバトミントンをしている事から、Slap leasionが考えられた。後療法としては、いかに術部を安静に保ちつつ可動域を維持するかと言う事であったが、G-H jtに対してはstooping-ex(codoman-ex)を三角巾のままで行う事が中心となった。肘については上腕二頭筋の緊張を出さないように注意する事が安静を保つ上では重要である。もちろん外旋運動については早期には行わない事に注意する。以上をふまえた上で平野総合病院の小野先生より6年前に受傷機転を持つ24才男性の反復性肩関節脱臼の症例が呈示された。これもBristow法を施行しており、術後10日よりリハ開始していたが、3週半の時点でスクリューの固定性が不良となり4週目に再手術を施行している。その後リハ再開しているが、shoulder flex80゜、G-H jtが30゜と制限を生じてしまった。これに対して、試行錯誤を繰り返しながら最終的にcapsuleに対するmobilizationを工夫することでflex160゜、ext-rot 1st40゜、2nd 80゜を獲得できた。この症例では関節造影が呈示され、そこから得られる情報が山口先生よりlectureされた。脱臼にも関わらずinferior pouchが小さいため、いわゆる前下方からの脱臼ではなく内旋挙上位からの前上方からの脱臼であり、後療法が難しいことが予想された。capusulは後下方の柔軟性が低下していると考えられるため、小野先生も最終的に苦労したcapsuleのmobilizatitionの必要性と、その方向の選択がここからも指摘された。ope前に、このような病態の情報を得ることでさらに術後の訓練内容の選択と、リスクが明確になることを改めて痛感させられた。 

 最後に碧南市民病院の浅野先生より上腕骨外科頚骨折の症例が呈示された。受傷後5日目にL字プレートにて骨接合術が施行されている。術後5日よりリハ開始しているが、浮腫と腋窩筋群の防御的収縮が非常に強かった。G-H jtで20゜しか動かない状態であった。プレートが可動域の制限因子になっているのではないかと言う疑問があったが、医師からは問題がないとの事であった。約2週の時点で防護的収縮は軽減してきているがROMは変化がない状態であった。先ずはX-pからの情報として受傷機転の説明があった。常に受傷機転を読む事が後療法を行う上でも重要になってくるとの事であった。またAHI(肩峰骨頭間距離)も減少している事から2nd jtにて通過障害が予測された。それに対してはリラクゼーションを行うと共に下方へのmobilizationを行っていくとの事であった。山口先生より防御的収縮による骨頭上昇がなぜ起こっているのかを考えた時に、逆にそうする事がこの肩関節の状態には適しているから生理的にそうしているのではないかと考え、逆にcompressionしてみる事で突破口が見えてこないかを試してみるのも一つの方法であるとの意見が出された。現象を捉える事は重要であるが、その現象が示している意味を深く理解していく事が重要であると痛感させられた。
 以上が2日間を通しての研究会の報告である。ご多忙の中講師としてこられた山口先生に深く感謝すると共に、この研究会で得られた知識を十分に活用できるよう各自努力していきたい。   (文責:国立名古屋病院 岸田)