第73回整形外科リハビリテーション研究会報告
於:1998.6.20 国立名古屋病院

 今回のlectureは「腰痛」をテーマに行われた。前半で平成医療専門学院 理学療法学科 鵜飼先生にて解剖学を中心とした基礎が行われた。特に脊柱の頸椎・胸椎・腰椎それぞれの形態・名称及びその特徴が説明された。又それぞれに付着する靱帯・筋が説明された。それらを基に運動学的説明もなされた。解剖学的なことは重要ではあるが、それと共に運動学が臨床では重要となってくると思われる。特にfacet jointの椎体別形態及び機能・脊柱起立筋群が臨床上では重要と思われた。facet jointについては、頸椎では関節面が前額面に対しては0゜、水平面に対しては約45゜の形態であり、様々な方向の動きに対応できているのに対して、腰椎は、前額面に対して後方へ45゜、水平面に対して90゜の形態であり、屈伸・側屈には対応するが、回旋には対応しないと言うことが説明された。またこの関節にも当然関節包があるが、その関節包に、腰椎部のみ脊柱起立筋群の多裂筋腱が付着しており、機能的に重要な働きがあるのではないかという指摘がなされた。また、椎間板・黄色靱帯・棘間靱帯は痛みを感じない・後縦靱帯・椎間関節(facet joint)は疼痛の原因になる等が説明された。資料も良くまとまっており、脊柱は当研究会でも始めて取り上げるテーマであるが、十分に有効な基礎的内容であった。
後半は臨床を中心として平成医療専門学院 理学療法学科 林先生が腰痛に対する私見として考え方や実際の治療法の説明がなされた。根底にある考え方は、脊柱であろうといわゆる”関節”で有ることが重要で、すなわち「安定した部位では疼痛は出現せず、不安定な部位で出現する」ということであった。そしてその内容としては、多くの場合が機械的刺激による疼痛の誘発で有るとのことであった。over movementは当然疼痛の原因になるが、例え生理的運動範囲であっても関節に拘縮が存在したり変性組織に対しては機械的疼痛誘発刺激になると説明された。理学療法の対象については、下肢痛を呈しており、なおかつ脱落症状(筋力低下・hypesthesia・反射低下)がある場合は、馬尾神経症状と言うことで運動療法の対象外としていた。椎間板由来の疼痛に対しては、椎間板自体は痛みを出さないが、変性に伴う機械的刺激は周辺組織や多の支持組織に対して不安定性を惹起し疼痛誘発因子となり得ることや、文献的に椎間板由来の疼痛は、髄核が後方へ移動しすぎている症例に多いことが説明されたが、その上で椎間板を治療するための理学療法は無いと考えられた。更に有意義な知識として、文献的データを基に、仙腸関節由来の疼痛の特徴として、知覚神経のL4・L5・S1神経の前枝、上殿神経・S2後枝外側枝、L5・S1後枝外側枝が分布することから、発生頻度の高い順に仙腸関節・大腿外側部・大腿後内足部・鼠径部・下腿後方部の自覚疼痛領域があると説明された。また、ゲンスレン・テストと併せて診断していくことが有効であるとのことであった。椎間関節(facet joint)由来の疼痛の特徴として、片側性であること、いわゆる腰痛もしくは腰痛+臀部痛が有ること、後屈(伸展)障害もしくは後屈(伸展)障害+前屈(屈曲)障害があること等が文献的に説明された。それぞれが文献的・実験的データであるが、複数の文献的考察をまとめることより、今回のような私見の裏付けになっていると思われる。これらを基にして、実際に腰痛治療の実技が行われたが、考え方は多の関節同様で、脊柱起立筋に対しては相反抑制を使い腹筋を活動させることで脊柱起立筋群のrelaxationを図っていた。また骨盤の運動を使って棘上棘間靱帯のmobilizationを行っていた。腰痛は実際の臨床場面では良く遭遇する疾患であろうし、なかなか機能的に評価・治療が行えていなかった分野でもあり、今回のlectureは非常に有意義なものであった。今回の情報を基にそれぞれの臨床場面で有効に効果を探りつつ治療に取り組んでもらいたいものである。
(文責:国立名古屋病院 岸田)