第77回整形外科リハビリテーション研究会報告
於:1998.11.28 国立名古屋病院
lecture
 今回は、症例を通してのlectureを行った。症例は、60歳女性の左肩鎖関節脱臼骨折で、ROM制限ではなく、筋力低下の原因追及に絞ったlectureであった。経過の詳細はレジュメに譲るが、問題となった筋力低下は、僧帽筋、三角筋、前鋸筋、小円筋、棘下筋、肩甲下筋、棘上筋であり、肩挙上位での保持不可であった。筋萎縮は三角筋、僧帽筋にあった。知覚障害も頸部から上腕外側部にあり、深部腱反射も上腕二頭筋にて軽度低下がみられた。Drより腱板断裂は無いという情報もあり、何らかの末梢神経障害が疑われた。肩で考えられる神経障害は、肩甲上神経麻痺、Quadri Lateral Space syndromeが多いが、今回の症例ではこれらがdoubleに起こったとしても合わない。基本的に腱反射の低下は見られず、僧帽筋、前鋸筋、小円筋、肩甲下筋の低下も起こらない。知覚異常についても、様々なパターンを示すようだが、一応三角筋部(上腕外側部)に知覚低下を認めるとされている。本症例はその範囲が頸部からと広く限定されていない。そのためそれ以外の神経麻痺を考慮する必要があった。各末梢神経レベルでは考えにくく、頸部が疑われた。C5.6を中心に低下が認められているため、頚椎症性筋萎縮症が考えられた。X-p上もC4-5、5-6に頚椎症性変化を認めた。知覚低下がそのエリアに沿って存在せず、軽度のものということもありこの症例を頚椎症性神経根症の中でも、特に運動神経のみが傷害され知覚障害の見られないtypeであるkeegan型神経根症と考えた。Keegan型神経根症についての詳細は、資料に譲る。しかし、この症例では、それでも僧帽筋の低下が見られることが問題となった。通常僧帽筋の低下は、副神経麻痺にて起こりうるものと考えられるが、名市大の研究論文では僧帽筋の神経伝達を調べた結果、神経支配領域が広いとの報告があり、今回のようなレベルでも合併する可能性があるのではないかと考えられた。肩挙上障害で、神経麻痺が考えられる場合に考慮するべき疾患であり、初めて聞いた会員も多かったようだが知識として整理しておく必要性を感じた。

症例報告
 平成医療専門学院 三年生 溝口君から71歳女性の大脳鎌髄膜種術後四肢麻痺に合併した右変形性膝関節症の症例が報告された。PT開始し、O-bein歩行を行うもgonalgiaにて歩行不能であった。ROM検査の結果を基に股関節の内旋制限に注目し、内旋制限を改善することで膝関節に対するストレスを排除し疼痛の軽減を図ろうと治療を行った結果、ROM改善と共に疼痛が軽減し、歩行が可能になった。大腿の回旋alignmentを変化させることで下腿の回旋alignmentにも変化を与えようという考え方である。同様の考え方として、足底板があるがこれは代替物を利用するものであり、今回の治療とは少し趣が違うと考えられる。直接骨alignmentの変化を期待する治療であり、サポータに回旋用ストラップをつけている先生もいるようで、膝自体に対する治療である。それぞれを使い分けて治療に望むことが重要ではないかと考える。Gonalgiaといっても、関節には二つありどちらの関節に由来する痛みなのかを考え、鑑別する必要がある。今回の場合は、立位時・荷重時に痛みが発生していることから、P-F jtよりもF-T jtと考えられた。OAによる痛みに対する治療も、すぐに足底板に走るのではなく、解剖学的に改善できうることがないかを評価していく必要もあると再認識させられた。

 平成医療専門学院 三年生 大橋君から59歳男性脳腫瘍ope後の片麻痺に合併した左肩関節周囲炎お症例が呈示された。詳細はレジュメに譲るが、ROM制限が改善してきているにもかかわらず、治療前の角度と治療後の角度に大きな差があることが問題とされた。いかに治療効果を持続させていくかが検討内容であった。今回の症例はspasticityがあり、途中よりリオレサールを投与している。挙上も腱板機能が不十分な方法で行っており、これらのことから緊張によるimpingementが発生し2nd jtでのぶつかりが起こっているのではないかとの指摘があった。治療後は筋緊張が低下しactiveでも上手く行えるようになるが、時間経過と共に筋緊張の亢進が見られ制限となっているのではないかとのことであった。自主トレも指導し行われているようであるが、治療後にチェックした状態では筋緊張も抑制されたよい状態であり、同様のことを自宅で行おうとしてもその時点で筋緊張の亢進状態が十分に考えられるため、有効な自主トレがで来ていないことが効果持続を阻害しているものと考えた。治療後のROMは改善傾向にあるため、治療方針としては間違っていない。拘縮とmuscle guardingとの区別を付け、拘縮自体はとれてきていると考えられるため、肩甲骨を含めた肩甲帯のactiveなコントロールをつけていくことが重要という意見であった。Cuff筋力が十分にあり上手く使えていたならば、肩甲帯の筋緊張の過剰な反応も軽減できるのではないかとのことであった。当然、ROM制限があるうちはどんどん筋緊張をあげてしまうので、結果的に恒常的な筋緊張の亢進を作り上げてしまう事が危惧される。そのため、ROM制限を可及的に早期に除去することで、筋緊張の亢進を防ぐ可能性があげられた。当初から極端にG-Hの角度から計算される肩挙上角度(S-H rythme)以上の挙上をさせないといった、過剰緊張をより抑制させる方法も考えられるように思われた。今回のように治療効果の持続については誰もが問題とすることであり、これが確実に改善されたならば、より早期に治療効果が得られ、治療期間の大幅短縮も可能である。確実で有効な自主トレは非常に困難なテーマであるが、常に考慮していくべき問題であることを再認識した。

 国立名古屋病院 岸田より49歳女性の右上腕骨大結節部骨折の症例が呈示された。外来で三角巾による保存療法であった。受傷後7W2Dでリハ開始となった。詳細はレジュメに譲るが、初期から現在までで外転がさほど改善されておらず、後方のpathで更に内旋になるほどROMが悪くなっていた。X-p上はさほど大きな転位はないことから、大結節が肩峰に当たることは考えにくい。ROM検査の結果から内転が検査されていないため上方部分を完全に排除できないが、特に2nd IRに制限があることから後方部分に制限因子が求められた。治療としては、前方挙上が改善しているため、anterior pathを使って改善を促し、挙上位から外方・後方pathへと下制していくことでpathを作っていく方法があげられた。大結節部の肥厚は十分に考えられるため、特に内旋での後方pathは2nd jtでの通過障害が発生しやすい。それによるimpingementからくる炎症・疼痛を考慮すると、よりimpingementの少ない下制を使ったpathの再構築が有効と考えられた。当然、症例により通過しやすいpathが存在すると考えられるため、各症例にあった疼痛の少ないpathを評価し、そのpathを利用したROM改善を行い、組織の柔軟性を得ると共に多方向のpathを下制にて再構築していく方法は疼痛やそれに伴う過剰なmuscle guardingを抑制し、効率の良い治療と考えられる。的を一つに絞った治療をすることも重要な因子であることを確認した。    (文責:国立名古屋病院 岸田)