第79回リハビリテーション研究会報告
於:1999.01.23国立名古屋病院

 今回のLectureは下腿骨折について行われた。松阪中央総合病院 熊谷先生から、基本的な事項が説明された。脛骨の骨幹部骨折に的を絞り、年齢による差違・骨折の分類(青柳分類)・腓骨骨折合併時の考え方・OPE(髄内釘・横止め螺子・plate)について説明がなされた。特にOPE内容については、固定の理論的背景が理解できていない状態では、理学療法時のストレスがどのような影響を及ぼすかといった理論展開ができず、時には不利益な刺激を与えていることが考えられ、ROM訓練による治療効果が上がらないばかりか骨癒合をも阻害してしまう危険性をはらんである。特に下腿骨折は人体の中でも骨癒合が阻害されやすい部位でもあるため、慎重な理論的展開とそれを基にした積極的治療が必要である。そのためにも確実に理解しておきたい項目である。さらに、骨折における合併症としてcompartment syndromeについて説明がなされた。これは、compartment(筋膜・骨及び骨間膜等の伸張性の乏しい組織で筋周囲に形成される閉鎖性空間)内の筋内圧が高まった結果、筋肉や神経へ分布する毛細血管が閉塞され、そこに存在する組織が阻血性壊死に陥る疾患である。下腿や前腕で好発する。compartment syndromeについては発生原因・解剖学的特徴・臨床症状・診断・治療・後遺障害について説明がなされた。詳細は資料に譲るが、骨折の合併症として十分に把握しておく必要があると思われた。

 基礎的Lectureを基に平成医療専門学院 林先生より実際の症例を通してのcompartment syndromeについてのLectureがなされた。症例は20歳男性の交通事故(下腿を強く挟まれて受傷)による下腿骨折であった。下腿上下二カ所に及ぶ粉砕骨折であり、髄内釘及び上下各二本の横止め螺子固定が行われた症例であった。当初足部も含めて触圧覚刺激にて疼痛を訴えて治療が出来なかったこともあり、急性期のcompartment syndromeが疑われる症例であった。治療については、下腿骨骨折としての考え方が適応される。ROM訓練時に骨折部に対するストレスを考慮して治療が必要であること、基本的に制限因子となる物が筋に由来することが多いことが説明された。受傷時の筋・軟部組織の損傷が術後固定期間を含めて拘縮の原因となっていることを理解する必要がある。逆に言えば早期からこれらの癒着・瘢痕化を防止することがROM維持に繋がるということである。また、筋の作用を出すということはcompartment syndromeに対する治療効果も期待できる。ROM制限防止と共に血液・リンパ循環を如何に早期に改善・獲得させるかが重要なポイントとなることが再確認された。また、compartment syndromeの文献から、通常edemaに対する治療として行われている挙上行為がcompartment syndromeの場合は禁忌とされていることに注目する必要がある。その理由としては患肢の挙上により四肢の血圧低下を来たし、transmural pressure gradientを減少させて血管の閉塞を来すことや、静脈がcollapseの状態にあれば静脈圧が組織圧よりも高くなることはなく、静脈還流が改善されることはないとされているためである。これらの情報は、特に病棟管理や理学療法中において非常に重要な情報である。勿論診断があってのことではあるが、今後十分に気をつけたいものである。

 症例検討として総合上飯田第一病院 今井先生より右下腿糖尿病性壊疽切断後の症例が呈示された。この症例は元々独居であり、慢性腎不全で透析中で、両眼ともほぼ失明に近い状態である。また、シャントope後より左手指のROM制限を含め機能障害があり、経過から自己管理能力には期待できない状態である。今回は退院を促すにあたって義足の使用が着脱も含め不適合性・疼痛による制限が問題になっていた。討論の結果、問題は先ず断端の状態が成熟しておらず、装着・歩行中にその形状を変化さえてしまうことからくる疼痛やソケット不適合性が問題としてあげられた。形状が安定しない限り本義足は作成できず、適合性も得られない。当然疼痛も発生するため、歩行に使用できない状態である。今後のことを大きく左右するのはこの断端の成熟にかかっているとのことであった。それが不可能であれば、義足は適応外とするべきとの意見であった。自己管理等についてはそれが獲得した後に考えていく事であると言うことで、先ずは集中的に断端の成熟を促すことが重要であるとの結論に至った。それがクリアされても、この症例の場合は独居・視力障害・透析・自己管理能力の低下等があり、通常の場合に比べ問題が多いのも事実である。特にDM性の場合はこのような阻害因子が重なることが予測されるため、ADL上問題となることが多い。しかし、義足を処方する以上は先ずは基本的な断端管理を徹底して行い、早期に断端の成熟を獲得することが最重要課題であると言うことが再認識された。                      (文責:国立名古屋病院 岸田)