第81回整形外科リハビリテーション研究会報告
於:1999.3.24 国立名古屋病院

 今回のLectureは胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome:以下TOS)について基礎的内容を和田内科病院 神山先生が、症例を通しての臨床内容を平成医療専門学院 林先生がそれぞれ担当した。基礎的には定義・発症要因・症状・分類・機能解剖・理学所見について説明があった。胸郭出口症候群は大きく牽引型と圧迫型に分けられる。1:3.7で女性に多く、75.4%で混在型が最も多いとのことであった。症状としては上肢を中心とした局所症状・感覚障害・筋力低下は稀であり、前進的に多彩な不定愁訴を伴うことが多い。解剖学的には斜角筋三角部・肋鎖間隙部・烏口突起及び小胸筋間隙が挙げられる。理学所見として各テストが説明された。各々についてその臨床的意義が挙げられているので診断上陽性と陰性の意議を確認しておく必要がある。また、機能解剖として各構成要素を確認してPTとして対処できる範囲を確認しておく必要があると思われた。後半は実際に症例の症状をビデオを通して確認した。各評価をもとに原因を考え、治療対象を検討した。その結果、cuffが低下していることと、僧帽筋の中部から下部線維に低下が見られた。主訴から屈んでの肩関節の相対的な屈曲位でのシビレ感・痛みと言うことで、これらの筋の筋力低下が関与するものと考えられた。実際に治療にて効果が見られていた。TOS自体は臨床上見ることが少ない症例ではあるが、実際は頚椎症として牽引しているような不定愁訴の症例の中に隠れている可能性が示唆され、今後症例を評価する際には留意していくべき考え方であると思われる。

 岐阜リハビリテーション病院 田中先生より24歳女性の胸郭出口症候群の症例が呈示された。Lectureを参考にして検査結果から原因となっている部位を検討しそれに対する治療を考えた。全般的に肩甲骨を固定しない方が筋力が低下することから、肩甲骨固定筋に原因が考えられた。姿勢もround backがあるようで、姿勢矯正及びその保持にて症状が改善するとのことであった。治療としては、熊本大学scaplar bandにて姿勢保持をすると共に、固定筋の筋力増強訓練が挙げられた。しかし、筋の持久力や普段の筋の緊張が筋の性質に個人差がある以上限界もあるのではないかとの意見も挙げられた。

 藤田保健衛生大学病院 OT 乙川先生より24歳男性の右手完全切断の症例について、その後の報告がビデオにてなされた。以前の検討にて挙げられたことをふまえてその後訓練をした結果、ROMとしてほぼ全指90゜屈曲が可能となり、activeでもFDPが効き始めていた。研究会にて助言されたtraction及びrotationによるcollateral ligのstretchを中心とし治療を行った結果良好な結果が得られていた。手指の、特にMPは拘縮が出来ると改善が難しいと言われているが、時期的により正確な治療にて改善が期待できることが確認できた。殆ど経験することがない症例ではあるがROM改善に対する治療としては参考になる報告である。

 犬山中央病院 小川先生より72歳女性の左肩鎖関節脱臼・胸部挫傷・左大腿打撲・左膝周囲筋及び靱帯損傷・左膝血症・右腓骨骨折・左足関節打撲擦過傷の症例が呈示された。今回の検討項目はROMがほぼ正座可能な状態で、筋力も4はあるレベルに治療が行われたにもかかわらず、段差越えや階段の下り・スクワットが出来ず、歩行も伸展位で屈曲が出来ない事であった。X-P上では受傷前よりF-T及びP-F関節にOA変化が見られた。症状からP-F関節由来の機能障害であることが予想された。closed kinetic chainでの屈曲時(スクワット等)や階段の降り時の疼痛はP-F関節由来の典型的な症状である。検討より内側広筋の筋力強化、テーピングでの筋力補助、arch support等があげられた。本症例は転院後のため実際の今後試すことは出来ないものの、特にP-F関節由来の症状に対する対処法として留意していきたい。また、本症例に限らず、受傷前にOA変化がある症例は多く存在する。しかし、全てに症状が出ていることは少なく、今回の症例のように自転車にも乗りADL上支障のない症例は多い。しかし、何か受傷をし臥床を強いられることでその後は歩行程度でも疼痛が出現するケースがある。例えX-p上に変化があっても常時荷重を行い使用しているという刺激が何らかの生体反応的な機能維持機構が働き疼痛発生を抑制している可能性があり、臥床が急速にOA症状を出現させるtrigerになっている可能性が示唆された。本症例もそういった機序が背景に存在する可能性は否定できない。当然、今回の受傷時に膝自体を打撲し、血腫・浮腫が存在しているため、軟部組織の損傷は十分に考えられ、新たなOA変化を起こしていることも重要な一因であることはいうまでもない。X-p上の変化にのみ原因を求めるのではなく、全体を、特に症状を中心に評価していく姿勢を忘れないでいきたい。                 (文責:国立名古屋病院 岸田)