第106回整形外科リハビリテーション研究会    
テーマ「肩関節」                於2001.9.29 マナハウス7階マナルーム(栄)
   ※LECTURE
   @Clinical Palpation;quadrilateral space−腋窩神経−:吉田整形外科病院 林 典雄 先生
A肩関節後方部痛について :吉田整形外科病院 大久保 佳範 先生
※症例報告
B右片関節周囲炎 :吉田整形外科病院 中宿 伸哉 先生
※症例検討
C右上腕骨頚部骨折:藤田保健衛生大学病院 竹岡 千里 先生

 今回のpalpationは解剖学的知識がないと判りづらいこともあり、最初にlectureとして肩関節後方部痛について行った。肩甲上神経、Quadrilateral spaceの解剖、腋窩神経、bennet leasion、を中心とした後方部での痛みに関係する臨床的部位について説明がなされた。神経としては絞扼性神経障害(entrapment neulopathy)が中心となった。後方部痛については神経由来のものだけではなく、当然筋や靱帯、関節包といったその他の軟部組織由来のものも多く存在するため、それらとの鑑別が重要となる。dynamicな解剖学的視点から、神経の引っ張りストレスが加わるpositionと、その他の軟部組織にストレスが加わりやすいpositionをより明確に分けて、各々に対してより単独にストレステストを行うことが重要であることを確認し、実際にその確認を行った。特に腋窩神経はQuadrilateral spaceにて直接圧迫が可能であることを確認し、鑑別診断に使用することを目的として、詳細な解剖が説明された。また、スポーツ障害肩で見られるように特殊なpositionにて反復刺激が加わる状態が考えられ、よりdynamicな解剖の変化を理解しておくことが重要になることから、肩関節可動域変化に伴うQuadrilateral spaceの変化、肩甲上神経と上肩甲横靱帯及び肩甲切痕との位置関係の変化が説明され、神経へのストレスが加わりやすいpositionの確認がなされた。
 これを基にQuadrilateral spaceにおける腋窩神経のpalpationが行われた。解剖学的には、腋窩神経は、小円筋と大円筋の間を抜けて上腕三頭筋長頭と上腕骨の間に出てくる。小円筋の外側縁と上腕三頭筋長頭の外側縁をトレースし、Quadrilateral spaceの所在を確認する。まさに指が入り込むような間隙が触診できる。その間隙に指を押し当てて、上腕骨に向かって圧迫しながら丁寧にpalpationすることで神経を触れることが出来た。被検者は鈍痛やシビレ感を訴えた。中には症状を訴えないものもおり、被検者が変わると触診できなかったりと、慣れるのに時間がかかるものと思われた。臨床上見逃してしまうことも予想されるので、肩の障害においては一つの病態として理解し、鑑別診断が出来るようにしておきたいものである。

 症例@は14歳男性の右肩関節周囲炎の症例が呈示された。この症例はハンドボールを行っていて、投球動作時に肩関節後方部痛を訴えていた。ROM制限はなく、僧帽筋の筋力低下とTOS所見が見られた。検討としては、痛みの原因と今後の治療について行われた。フロアからはほぼ一致して、Quadrilateral spaceにおけるentrapmentが原因であるとの意見が出された。その根本の原因はTOS症状が見られることから僧帽筋の筋力低下に由来する肩胛骨の不安定性が挙げられ、アプローチとしてはまず疼痛に対して安静を指示し、僧帽筋を中心とする筋力トレーニングを行うことが挙げられた。また、ハンドボール経験者から、野球の投球と異なり、空中で速いストロークが要求されることもあり、特に腋窩筋群のストレスが大きいため、cuffに対するトレーニングも今後は必要になること、体格的にまだ不十分で、overworkになっていることも指摘された。今回はビデオでの投球動作の確認が出来なかったが、フォームチェックも重要であることが指摘された。疼痛に惑わされることなく、根本的な原因の追及が必要であることを確認した。

 症例Aはパラグライダー中転落して受傷した右上腕骨頚部脱臼骨折の症例が呈示された。経過としては、4年前に受傷し、他院にてope施行され、昨年ROM制限が気になり他院にてリハ施行。その後今回約3ヶ月前にope目的にて来院された。実際にはope後4年経過した状態でフォローが始まっている。ROMの詳細はレジュメに譲るが、挙上120゜、外転90゜、結帯は何とか可能。挙上時に上前方にピンが引っかかる感じを訴えるも、安静時痛、夜間痛は無いとのことであった。X-p上では、受傷後の整復が悪く、骨頭がお辞儀した状態であった。また、初期と現在を比較すると明らかな骨頭壊死が見られ、上腕骨の上方偏移が見受けられた。また、ピンの位置からは衝突するとは考えにくく、骨頭か大結節かは判断できないが骨の変形した部分が突起として上方にあり、肩峰下にて衝突する可能性を示唆していた。検討内容はROM制限の原因と、人工骨頭を含めre-opeを考慮した今後のリハについて検討された。非常に難渋する症例であるが、X-p上の状態や、疼痛が少ないこと、ADL上は一応の維持が出来ていることを考えると現状が限界ではないかとの意見であった。人工骨頭については壊死に伴う上方偏移から軟部組織の短縮が考えられるため、cuffの機能再建は非常に困難になること、再建できても短縮から来る圧の上昇に伴う疼痛の出現、新たなope侵襲から来るROM制限の出現等が予想され、現在と比較して大きなROMの改善はなかなか望めないことを考えて適応は現状では無いのではないかとの意見であった。しかし、このまま骨頭壊死は継続していく可能性があるため、いずれは骨頭を固定しているピンはcut outしてくることが予測されるため、ピンは抜去する方がよいこと、将来的には人工骨頭を行わざるを得ない時期が来ることが予想されるため、そのための準備として可及的な軟部組織の柔軟性の改善、残存する筋の機能改善を目的とした治療が必要になるのではないかとの結論であった。本人の希望であるパラグラーダーへの復帰は困難といわざるを得ないのではないかとのことであった。初期整復の不良についても受傷時の状態からは致し方ない部分もあるのではないかとのことであった。実施の臨床において、どこまでをgoalとするのか、どこまで追求して解剖学的に考えて限界まで追求できるのかを考えさせられた症例であった。(文責:国立療養所鈴鹿病院 岸田 敏嗣)