117回整形外科リハビリテーション研究会報告

2002.10.19 於:名古屋法律経済専門学校

lecture   肩鎖・胸鎖関節周辺靱帯   吉田整形外科病院   鵜飼 建志 先生
     肩鎖関節脱臼について
    吉田整形外科病院   田中 幸彦 先生
症例   鎖骨骨折          岐阜中央病院     吉井 秀仁 先生
     鎖骨骨折
                岡波総合病院        森  統子  先生
        肩鎖関節脱臼              碧南市民病院        藤田  里美  先生       

 lectureは先ず肩鎖関節・胸鎖関節周辺靱帯のpalpationが行われた。靱帯としては前胸鎖靱帯、鎖骨間靱帯、C-C lig(円錐および菱形)、C-A ligの触診が行われた。それぞれについてその機能と解剖が説明された。実際には肩胛骨の動きを制御している靱帯であり、当日は結帯動作の変化で表現された。胸鎖関節においては鎖骨が後方に移動する際、胸鎖関節では鎖骨が前方に突出する動きが見られる。その動きを誘発しながら前胸鎖靱帯を触診しながらストレッチすることでROMが改善する。また、肩鎖関節においては肩峰の関節面が凹、鎖骨遠位端関節面が突の関節面を形成しており、肩鎖関節での動きにおいては凹凸の法則に従い円運動が行われる。肩胛骨の動きを誘発する際にはこういった動きに合わせてC-A ligをストレッチしていくことでROMが改善した。C-C ligについてはそれぞれに分けて行われた。前額面上からみて相対的に内側に位置する円錐靱帯は棘鎖角が閉じる方向、肩胛骨のretractionを制御するため、触診して肩胛骨を内転させながらストレッチすることでROMが改善した。他方の菱形靱帯についてはその逆で棘鎖角が開く方向、肩胛骨protractionを制御するため、触診して肩胛骨を外転させながらストレッチすることでROMが改善した。触診については慣れも必要ではあるが、各靱帯を意識しながら触診していくことが重要である。また、確認しておきたいことは、結帯動作が改善してはいたが、あくまでも肩関節周囲炎でよく見られる結帯動作の制限の多くは、根本的原因がこれらの靱帯にあるわけではなく、あくまでもこれらの靱帯は肩甲胸郭関節の動きに関与していることを理解しておく必要がある。整形外科的治療については肩鎖関節脱臼について行われた。基本的なところで受症機転、分類等が説明された。メインは治療法であったが、大きく分けて保存療法と観血的療法に分けられる。保存についてはストッキネットを使用したものや、体幹までの装具を利用したものが挙げられた。観血的療法は大きく分けて解剖学的修復を行うものと機能的修復を行うものに分けられる。先ずその前に脱臼の意味を考える必要がある。脱臼とはレントゲン上関節が逸脱している状態であることに間違いはないが、脱臼するための条件としては100%ではないが靱帯損傷(断裂)、関節包損傷(断裂)が合併していることが挙げられる。そこで解剖学的修復ではこの靱帯を修復するためにACやCCを縫合して関節を6W程度固定するといったものでPhemister変法に代表される。機能的修復では損傷したACやCCを縫合するのではなく、他の靱帯(CA)を移行したり、筋の緊張を利用したりといった形で他の組織を代用にするものでDewer法に代表される。どの手技が選択されるかはDrの考え方によるが、PTとしてはそれらの手技の特徴を理解して治療に望む必要がある。少なくともAC関節を安静に保ちながらGH関節を中心とした他の関節や軟部組織に対していかに柔軟性を維持しておくかが重要になる。肩胛骨が確実に固定されていれば術後早期からGHの動きを狙った理学療法が行え、靱帯修復期間とされている6W〜8W固定後に制限無く肩関節機能が回復している状態にすることを究極の目標に今後取り組んでいきたいものである。

 26歳男性の左鎖骨骨折の症例が呈示された。外国人留学生で意思疎通が困難な症例であった。交通事故にて受症。4日経過時plate固定施行し、ope後11日でリハ開始されていた。安静時痛は無いが、術創付近に強い疼痛を訴え、触れることさえできない状態であった。stoopingにてGH70度可動しているとのことで、今後の方針について討論された。状態としてはopeについても安定しており、問題は疼痛のため上手くstoopingができないことであった。そのため肩胛骨固定の手技に工夫が必要になってくる。そのため術創を避けて上手く固定する必要がある。その手技的な工夫については次の症例報告とともに実際に行った。

 71歳女性の左鎖骨骨折の症例の経過が報告された。事故にて受傷し、他院にてpinning固定された。約1ヶ月後転院時ピンの突出、関節の脱臼傾向が見られたため再度plate固定施行。術後翌日にリハ開始し、2週後にバストバンド除去。術後2週後ほぼROM制限無い状態となる。非常に早期に良好な成績が実現している。いかに予防が重要であるか、また困難かが表現されている。肩胛骨を固定することは当然であるが、上肢の運動がいわゆる屈曲方向にとどまらず、内外旋や水平内転といった様々な方向へ動かし複合した軟部組織に対する柔軟性の維持が必要になってくる。手技的には上肢をそれらの方向に動かすのではなく、体幹を回旋させて相対的にそれらの方向を再現する。上肢はあくまでも重力に対し鉛直方向に維持して行われていた。セラピスト一人で行えない場合やリスクを考えて人数に余裕があるのであれば、複数で行うことも呈示された。固定側と上肢・体幹側に分けて行う。その際に上肢を保持する側が上肢の重力分をサポートすることで肩胛骨固定側が楽になったり、関節適合性を上げられることで正確な関節包内運動を再現しながら動かすことができるため、より正確な軟部組織の柔軟性維持に貢献できると考えられた。AC関節が動いてなければ疼痛はなく行える。もし疼痛が存在するならば固定が正確に行えていないと考えた方がよく、疼痛を我慢させて行うことだけは避けなければならない。理論的背景を十分理解して治療に望む必要があることを理解しておきたい。

 30歳男性の右肩鎖関節脱臼の症例が呈示された。事故にて受症後5日後にPhemister変法を施行。三角巾固定にてope後5日よりリハ開始された。G-Hの可動性維持を目的に可及的に肩胛骨を固定してROMを開始した。フロアからもstoopingをすることが通例として言われたが、担当者から体格が大きいため肩胛骨の固定が不可能であったこと、X-p上からピンの固定制が悪く、Drからも固定性が悪いことが伝えられていたこともあり、上肢下垂位ではA−Cの脱臼傾向を増悪させてしまうおそれがあると判断し、通常のstoopinは行わず、除重力位としてsupineで可及的に肩胛骨を固定して内外旋を中心としたROM訓練を施行しているとのことであった。複数人で行うのであれば通常のstoopingでも良いのかもしれないが、状況を判断して環境を替えていくことが重要である。上肢の重力を保持して臼蓋に骨頭をフィットさせて行うことである程度可能になると思われる。supineでも当然肩胛骨の動きは出るため、ただsupineであればいいというものではなく、常に加える外力を様々なベクトルとして捉え、確認してより安全な方法論を考慮して行っていく必要がある。stoopingではな方法論で現在治療を行っているということで、今後の経過に非常に興味があるので、是非終了時に再度成績の報告をお願いしたい。
 
                                     文責:国立療養所鈴鹿病院 岸田 敏嗣