153回整形外科リハビリテーション研究会報告

2006.5.20 於:あいち福祉医療専門学校

症例1:肩甲骨関節窩骨折 60歳代 女性

 受傷機転は、山菜取り中に上肢挙上位(肩関節屈曲位)にて木を引っ張った際に、その木が折れてそのまま転倒して受傷した。同日より三角巾固定を3週間行い、三角巾除去と共に理学療法開始となった。理学療法初診時の所見は、X-rayにてIdeberg分類:Type1b(関節窩前縁の裂離骨折)、QLSでの圧痛とチネル様サインは認められるが明らかな腋窩神経障害を認めなかった。しかし、肩関節屈曲150°にて亜脱臼が認められた。受傷後約5週での検討となったが、不安感の為に屈曲110°以上の挙上は行えなかった。受傷機転から、肩関節のより過剰な挙上(過屈曲)を強いられ、肩関節の直立脱臼(関節窩下脱臼)をおこしたものと考えられた。通常、直立脱臼では上腕骨頭の下方脱臼にて、挙上位より下ろせなくなるのだが、転倒などによる何らかの原因により脱臼位から整復された後に受診したものと考えられた。屈曲150°での脱臼の意味するところは、G-Hの前下方の損傷が修復されておらず、骨頭が下方へ脱落してしまうのであるから、この部の修復(骨癒合)が図られるまでは挙上などのこの部へのストレスは禁忌となる。ゆえに理学療法としては、他の組織の維持を図るべく、下垂位・内転位での回旋運動(棘上筋や肩甲下筋などを狙った)やstooping exercise、肩甲胸郭関節へのアプローチが必要となり、骨癒合が図られた後に、積極的に理学療法を進めていけばよいものと考える。あまり実用的ではないかもしれないが、外傷性前方脱臼の外旋位固定のようにzero position固定が再脱臼予防の観点から、また骨折部の解剖学的整復の為に行うことも方法の一つではないかとの意見が出された。今後の理学療法の進行並びに結果の報告に期待したい。

症例2:両肩関節周囲炎 40歳代 男性

 5年程前からリーチ動作やダンベル運動、バタフライやクロールの際に肩に痛みを感じていた。今年から上肢のスムーズな上げ下げが困難となり受診した。初診時、疼痛は肩関節挙上時とposterior passにて挙上から下ろす際に運動時痛を認め、大結節・烏口突起・棘下筋に圧痛を認めた。両肩甲骨の静的アライメントは共に外転位、筋力(MMT)は僧帽筋中・下部線維2、cuff5であった。ROMは外転155°/110°、内転0°/-20°、水平屈曲135°/90°、1st外旋20°/10°、2nd外旋65°/45°、内旋55°/25°、3rd内旋15°/0°にて結帯動作T6/T7で、挙上80°〜110°とクロール動作にてimpingementを認めた。検討の際は週1回の理学療法にて5回施行した時点であったが、activeでの挙上にあまり制限は認めなかったものの、当初より見られていた上肢の上げ下ろしにて急な挙動を生じ、明らかにscapulo-humeral rhythm及びgreno-humeral rhythmが乱れた肩関節運動が残存していた。これは、僧帽筋中・下部線維の廃用性筋力低下に伴いscapulo-humeral rhythmの形成に重要な僧帽筋の作用(force couple)が機能できないこと、G-H後下方及び前上方組織の拘縮残存に伴うgreno-humeral rhythmの乱れ(骨頭の突き上げ)、これらが肩関節運動における不安定な挙動を生じさせたものと考えられた。ゆえに、今後のアプローチとしては、僧帽筋機能改善・筋力改善並びに拘縮の除去を図ることが必要となる。本症例は、上肢の筋が発達しており、運動習慣(ジムトレーニングやスイミングなど)があって趣味のジェットスキーやサーフィンを楽しむなど一見すると健康体であるが、必要な筋がバランス良く機能しなければ、機能障害が生じることを教えてくれるものであった。今後の奮闘に期待し再度の報告をお願いしたい。

症例3:左肘頭骨折・左橈骨頭骨折 30歳代 男性

 バイク走行中対向右折車と衝突、左側へ転倒し受傷。左肘頭骨折はWadsworth分類:typeV(粉砕型)、左橈骨頭骨折がMason分類:typeU(一部骨片に転位あり)、4日後にope施行(肘頭骨折:tension band wiring, screw固定、橈骨頭骨折:Herbert/Whipple screw×2本固定)され、術後はシャーレ固定。術後1週にて手指自動運動ex開始、2週後に外来理学療法開始。初診時、ROMは肘屈曲70°、伸展-45°、前腕回外10°、回内30°であり、上腕1/2以下に浮腫、上腕三頭筋・上腕筋・肘頭骨折部に圧痛を認めた。理学療法開始後約3週にて、ROMが肘屈曲90°、伸展-35°、前腕回外20°、回内65°にて、浮腫は肘周囲以下に認めるものの軽減され、圧痛は消失したものの運動時痛が肘屈曲最終域で肘頭から内側上にかけて、伸展最終域で肘頭付近に、回外最終域で前腕橈側に認めた。受傷機転が交通事故にて本人の記憶が無く詳細は不明であるが、おそらく肘頭には直達外力、橈骨頭には肘外反に伴う圧縮応力が働き骨折に至ったものと考えられる。配慮すべき点としては、high energy impactでの外傷にて、骨折型が関節面にいたる粉砕骨折であり、直達外力が加わった肘周辺の軟部組織の損傷が高度であるということである。肘外反に伴うMCL損傷も疑われ、皮膚・皮下組織の損傷と共に炎症の波及により浮腫がある程度の範囲に広がったものと考えられ、腫れと共に皮膚の状況にも配慮したapproachが必要であることが示唆された。これまでの検討内容と同様に、初期には術創へのストレスを逃すべく皮膚を手繰り寄せ、術創の生着が図られる2週目以降は皮下における癒着防止に疼痛の状況に合せて伸張・滑走を促し、それ以降は瘢痕化(癒着)された組織のreleaseを図ることが必要である。また、筋へのapproachでは単関節筋で関節包との直接的な連絡のある上腕三頭筋内側頭や上腕筋へ対して確実な収縮を促すことが必要で、収縮後のrelaxationがスムーズに行えるよう促すこともROM獲得には重要である。また、損傷された関節軟骨の修復にも関節適合性の良好な状況での反復運動が必要となる。獲得されたROMの維持には、可変的で適時調整可能なnight braceの使用が有用であることも示唆された。本症例は配慮すべき点が多く、理学療法を進めるに当り苦慮することであろうが、今後の奮闘に期待し再度の報告をお願いしたい。    (文責:トライデントスポーツ科学専門学校 山本)