155回整形外科リハビリテーション研究会報告

2006.10.14 於:国際会議場

 今回の症例検討はこれまでと違い、初診時に得られる情報・状況において必要な所見を列挙し、その所見から得られること、その所見から想定されることを検討し、実際の症例においてその所見と共に現在または結果について確認するスタイルにて行った。

症例1:両変形性膝関節症 70歳代 女性

 今年9月より長距離歩行後に膝の疼痛が出現、初診時X-rayにて軽度の退行性変化認めるが明らかな所見は認めず、明らかな原因、既往歴も認められなかった。理学所見としては、膝蓋骨下極〜膝蓋靭帯近位に歩行時痛と圧痛を認めていた。特徴的なところでは、立位姿勢が胸腰椎後弯、骨盤後傾、膝関節屈曲位であった。以上の情報より、上述のごとく検討を行った。得るべき所見の概要として、膝関節の腫れ(浮腫・腫脹)や熱感等の炎症所見、局所・全身性のalignmentROM(膝に限らず)、筋力(特にlagの有無)、疼痛の性質・再現性・増減の確認、tightnessinstability等が挙げられた。実際の状況は、膝関節に明らかな浮腫や炎症所見は認められず、ROMが左膝関節伸展-10°、両股関節軽度の外転制限が認められたが、その他では認められなかった。また、明らかなtightnessや筋力低下も認められなかったが、左膝はlagを認めた。疼痛の状況としては、荷重時・圧痛・左膝関節伸展時に「膝蓋骨下極〜膝蓋靭帯近位」に認めた。また、鵞足部(薄筋)に圧痛認めたが、ストレスや荷重等において疼痛の再現は得られなかった。alignmentPatellaで異常を認めなかったが、立位にてKnee-inが明らかで、全身的には胸腰椎後弯、骨盤後傾、膝関節屈曲位、足部archは低下していた。この胸腰椎後弯、骨盤後傾は坐位より認め、立位・歩行にてより顕著となっていた。これらの状況から、一見すると外側型OAが疑われるalignmentであったが、TFが問題となる所見は認められず、典型的なOAとは違う認識が必要であった。TFに関わる問題としては鵞足部の圧痛であるが、荷重時やストレスによる疼痛の再現はなく、現在の問題点ではないことが窺がわれたが、alignmentとしてKnee-in(明らかな大腿内旋)による鵞足(薄筋)へのストレスが圧痛の原因と考えられた(実際に薄筋へのアプローチにて圧痛は軽減された)。問題は、「膝蓋骨下極〜膝蓋靭帯近位」の疼痛の解釈である。これは、これまでの所見から「AKP」「Jumper's Knee」であることが窺がわれ、PF(関節外要素)の問題であることが考えられた。明らかなtightnessPatellaの位置異常は認められず、特徴的なのは「胸腰椎後弯、骨盤後傾、膝関節屈曲位、足部arch低下」いわゆる円背・全身性の屈曲姿勢である。膝伸展での正常歩行と比べこの姿勢による歩行は、明らかにinfra-patellaPatella tendonに掛かる伸張ストレスが増し、度重なるストレスが同部でのmicro ruptureを生じさせ疼痛が出現、疼痛に伴いROM制限とlagを生じる結果になったものと考えられた。ゆえに治療としては、まずは疼痛の軽減を図りつつ、問題となっている姿勢の改善が必要と考えられ、伸展制限の除去、lagの改善を図り、「胸腰椎後弯、骨盤後傾」改善の為に腸腰筋・背筋群を中心にしたアプローチを行い、現在は疼痛の軽減が図られ、姿勢も改善傾向である。また、左膝伸展時の同部位の疼痛であるが、半月板の明らかなimpingement signは認めないものの、強制伸展にて疼痛を認めていたことから、伸展に伴う防御性の筋収縮が伸展機構に影響し、半月板の移動を制限したことから半月膝蓋靭帯等に疼痛に関わるストレスを発生させたことが疼痛の原因であることが窺がわれた。伸展制限が改善された現在は伸展に伴う疼痛は消失している。また、今回の症例ではないが同様に円背の症例において、僅かな歩行にて血圧・心拍の急激な上昇に伴い胸苦・疲労感により歩行が制限されたが、エアロバイク・杖歩行において血圧・心拍の上昇、自覚症状を認められなかった症例が呈示された。これは、杖をつかない歩行では、姿勢保持の為に背筋群の努力性の持続的収縮が要求され、循環器にかなりの負担となり症状が顕著化し、上肢支持が得られる杖歩行・エアロバイクではその負担が軽減されたために症状が出現しなかったことが窺がわれた。ゆえに、ただ単に姿勢を正せば良いというものではなく、個人の状態に合わせて杖等の補助具を検討し、また、改善可能である症例に対しては積極的なアプローチが必要となるが、自覚症状・バイタル等にも配慮していく必要性が教授された。

症例2:野球肩・野球肘 18歳 男性 左投げ

 高校野球部のエースピッチャー(high level)、受診1ヶ月前より肘に疼痛が出現、徐々に肩の疼痛も出現した為に接骨院通院、この時2週間投球中止したが投球時痛改善されなかった。更に2週間後に整形外科受診し「左野球肘・左野球肩」と診断され、理学療法開始となった。X-ray上明らかな所見は認められず、主訴は「アクセレレーション期の肘外側の脱力感を伴った疼痛」と「同期での肩前方部痛・上外側部痛」であり、フォームとしては、@コッキング期の肩水平伸展、Aアクセレレーション期にやや肘下がりであった。これらの情報より上記同様に検討がなされた。アクセレレーション期での肘・肩の疼痛を的確に捉える為に、その関節自体のトラブルであるのか、関節外要素・フォームに関連したトラブルであるのかを明らかにする必要性から、各関節の炎症所見・上腕後外側の知覚・Morley sign・上腕小頭の圧痛・各関節のinstability & laxityIST muscleの筋力が確認されたが、検査上陰性で、腕神経叢・腋窩神経でのトラブルはなく、上腕小頭の離断性骨軟骨炎も否定的で、関節の不安定性は認められず、肩関節2nd ER100/90p3rd IR60/10p ER80/50pと制限と共に疼痛を認めた。これまでの報告やレクチャー等でIST muscleの筋力低下が多く認められたことが報告されているが、本症例は僧帽筋中・下部線維共にMMT5と筋力低下を認めていなかった。また、static alignmentも全身性に問題認めず、Scapulaも問題なかった。前腕伸筋群に関しても、圧痛所見やpower gripでの疼痛の再現は認めなかった。また、既往歴として中学時代に肘内側に疼痛認めたものの自然消退し、現在も問題なく影響がないことが確認された。しかしながら、烏口腕筋の圧痛は著明であり肘屈曲筋力の低下(MMT4)を認めた。このことから、肘の疼痛は筋皮神経のトラブルであり、筋皮神経の知覚枝である外側前腕皮神経areaに疼痛が出現したものであることが窺われた。アクセレレーション期のフォームはこの烏口腕筋が伸張されるalignmentであり、筋皮神経をentrapmentしたことが肘外側の脱力感を伴った疼痛につながったものであると考えられた。肩の疼痛に関してはROM制限と疼痛部位より、GHの下方(IGHLC)、特に後下方(PIGHL)組織の伸張性低下及びTmiTmaTBLHTspasmによるsubacrominalでの大結節通過障害が窺われた。実際に治療開始1週間にて肩の疼痛は消失し、約1ヵ月後には全力投球にて肘の疼痛もなく投球が可能となった。最終学年の大会期間にかかる時期であることからフォームの修正はできず、フォームは変わらないながらも疼痛が消失し全力投球可能となった。身体機能上から、今回の疼痛はフォームが原因である可能性が示唆されたが、疼痛が消失した時点で通院しなくなってしまった為に詳細は不明である。肘下がりの原因として信原は「広背筋症候群」が原因の一つであるとしており、これは、広背筋の短縮が影響するものと提唱しており、本症例においてその可能性が考えられたが、評価しておらずその真偽は不明である。ただ、広背筋の短縮テストの方法が確立されておらず評価自体が困難な可能性があること、「広背筋症候群」自体が肘下がりの本当に原因となるかについても不明であることがフロアーより提示された。当研究会の報告等で、投球時肩甲骨下角の広背筋のfrictionによる広背筋自体の損傷が投球障害で認められることが既に報告されており、投球障害における多様性を的確に評価・治療していくことの必要性が再確認された。
                   (文責:トライデントスポーツ健康科学専門学校 山本昌樹)