164回整形外科リハビリテーション研究会報告

2007.8.18 於:東桜会館第2会議室 

症例1 60歳代 女性  左上腕骨近位端骨折

 本症例は飲酒後に転倒し受傷。受傷時の記憶は無く受傷機転は不明であった。近医にて上記診断となり3週間のstockinette-Velpeau固定となった。その後は三角巾のみとなり振り子運動が指示された。44日にて他院を紹介受診し理学療法が開始された。医師より「透視下にて肩関節運動での骨不安定性は認められない」とのことより、疼痛自制内での他動・自動運動が許可された。理学療法初期評価時に骨折部周辺の腫脹と骨折部のknock painが存在しmuscle guardingも認めた為に積極的な自動運動は行わなかった。受傷後約7週のROM(他動/自動)が肩関節屈曲120°/30°、外転110°/30°と、他動と自動運動の差が明らかであった。棘上筋・棘下筋の収縮は確認されるものの弱く、肩関節周囲筋全体に低緊張でSulcus sign陽性であった。既往歴にアルコール依存症を認めた。検討内容としては、@アルコール依存症例における骨癒合への影響を示唆する文献があるが治療を行う上での注意点と予後について、A肩関節各肢位でのROM制限をあまり認めないが、屈曲時に疼痛が出現することについて考えるべき事項、また今後の治療についての2点が挙げられた。@については、透視下にて安定しておりその影響自体は少ないと思われるが、今後も必要に応じて透視下にて確認するなど医師と連携しつつ進めるべきと考えられた。Aについては、肩甲骨固定化でのGH jt単独の評価がされておらず、何が問題点なのかが不明確であり、自動ROM不良の要因も同様にCuffOuterISTの何がどう問題なのか解からないので先ずは詳細で正確な評価が必要であり、ビデオの様子からGH jtの拘縮があることは間違いないものと思われ、屈曲時に肩甲骨の代償(挙上+外転+下方回旋)が大きくanterior passの通過がスムースではないことからGH jtの不安定性は明らかであり、それが疼痛につながっていることが窺われた。受傷機転が不明ではあるものの骨折型から転倒時に肘関節伸展位にて手をついて受傷したことが窺われ肩峰下の軟部組織損傷の可能性が大きく、棘上筋・棘下筋腱の損傷はある程度想定すべきであり、これも自動ROM不良要因であることが考えられた。また、疼痛が腋窩神経領域で出現し小円筋に圧痛を認めることから、腋窩神経の絞扼・滑走障害の可能性もあるので、これらに対してもアプローチする必要性が示唆された。治療方法として自動ROM獲得の為にはこれまでの定例会でもあったように挙上位にて上肢placingが可能なのかが一つの指標となり、placingがある程度安定した時点でtilt tableを活用し上肢挙上位からの下降を段階的に行う方法が有効であることが教授され、tilt tableが無い場合でも三角マットの活用や滑車(プーリー)の活用により行える方法も紹介された。今回の症例に限らないことではあるが適切な評価が治療につながるのであって、問題点・治療ターゲットの把握には各部位・要素毎の要因を把握することが必要で、治癒過程や損傷状況に合わせた戦略的治療展開の必要性を再確認するものであった。今回の検討結果を参考に再度詳細な評価と適切な治療を実施し、どのような結果になったのか再報告されることを望む。
               (文責:トライデントスポーツ医療科学専門学校 山本 昌樹)


症例2 20代 男性 左膝蓋骨内側脱臼(保存)

 本症例はゴルフの練習中に思いっきりショットしたインパクト時に疼痛と共に発症した。ゴルフ歴は7年で、非常に高いレベルの選手でもある。理学所見は大腿骨内顆でのMPFL付近と、膝蓋骨付着部でのLPFL、膝蓋腱の脛骨付着部外側に圧痛があり、膝関節屈曲にてVLに疼痛が存在した。周径より萎縮もみられた。股関節のROMも特に股関節屈曲位と伸展位での内旋に強く制限がみられた。膝蓋骨についても外側の浮きが少なく柔軟性の低下がみられた。oberテストは陽性であった。X-p上では内側脱臼に伴い発生した内顆部の骨折と外顆外側の剥離骨折がみられ、膝蓋骨は外側変位がみられた。内側脱臼は非常にまれな損傷であり、経験も少ない。先ずは受傷機転が討論された。方向性は会場一致で大腿骨が外旋して内側に脱臼したと考えられた。この原因についても股関節の内旋制限に起因すると考えられた。評価としてはアライメントが重要となるため、足部、立位、歩行、ゴルフ動作のビデオ等による解析が求められた。実際には担当がいなかったため詳細は分からなかった。治療については股関節の柔軟性を出すことが挙げられた。最終的には受傷機転については異論はなかったが、股関節の内旋制限のみではなく、足部の状態を確認して対応することが重要だと説明された。膝関節として外旋が過度になる原因の一つに足部が大きく関与すると考えられた。それによりインソールを使用するにしても方向性が違ってくるとのことであった。アーチが低下しており足部外側での支持が弱い場合もあれば、凹足で外側が効きにくい状況にあるといった場合もあり得る。そのためにも足部のアライメントの評価は重要である。また、内側脱臼については、確かに希ではあるが、外側のように外れ易いわけではなく、大きな力が加わらない限り脱臼することはなく、治療で外れるということはないため、適切な治療を進めていけばよいが、内側はいわゆる外傷であり、拘縮を考慮するのは組織の損傷からも一般的な外側不安定性および軟部組織の柔軟性低下に対する治療を進めていくことが適切ではないかとのことであった。脱臼も骨の形状として大腿骨のpatella grooveが浅いこともあり不安定性が存在すると危惧されたが、MRIをしっかりと確認すると軟骨は十分な高さがあり、脱臼しやすい状況ではないことが説明された。文献でも骨形状と軟骨形状とのミスマッチが存在することによる症状の違いがあるとのことで、現在研究中とのことであった。再脱臼については形状上無いと考えられるが、股関節、足部の柔軟性とアライメント、機能が現状のままであれば再脱臼することが危惧された。そのためにも柔軟性と共にアライメントの矯正、インソールの使用、フォームのチェック等必要な治療を確実に行っていくことが求められた。今回の脱臼が内側ということもあり非常に珍しいことからそのことに注意が集中しがちであるが、機序を含めて必要な情報が何かということを十分に吟味し、広い視野で観察し治療に当たることが必要である。今後はそういった詳細な評価を追加して、今回の外傷による治療と共に再脱臼しないための治療を同時に行って最終的な結果を報告されたい。また、今はまだ若いので症状が出にくいが、長期的に見ると膝OAも考慮する必要があるとと思われた・。
         (文責:国立病院機構東名古屋病院附属リハビリテーション学院 岸田 敏嗣)