167回整形外科リハビリテーション研究会報告

2008.1.26 於:東桜会館第2会議室 

症例1 50歳台女性 右上腕骨頚部骨折

 イヌの散歩中に犬に引っ張られ転倒し右上腕骨頚部骨折と診断された50歳代の女性である。保存療法が選択され、三角巾とバストバンドにて患肢固定された。その時点から肘関節は60度以上の屈曲で環小指に痺れが出現していた。受傷後12日より週2回の理学療法が開始された。指示内容は「石黒先生のプロトコールで振り子運動」という内容であった。肩関節の安静時痛や夜間痛は著明で、前腕近位の安静時痛があり、前腕回外位での肘関節伸展で疼痛が増悪していた。圧痛は棘下筋・小円筋・大円筋・小胸筋・腱板粗部・烏口突起・円回内筋に認めたが、棘上筋・肩甲下筋・烏口腕筋には認めなかった。関節可動域は肘関節伸展前腕回外位−20度、前腕回内位0度、肘関節屈曲60度、前腕回外70度、回内80度、手関節・手指の制限は認めなかった。環小指の痺れに関する検査として尺骨神経溝でtinel singが確認されていたが陰性であった。理学療法は肘・前腕の関節可動域訓練(円回内筋を過度に伸張しないように)、棘下筋・小円筋・大円筋・肩甲下筋下部線維・小胸筋のtransverse方向へのストレッチングを行った後に三角巾を外し上腕骨の骨折部を片手で把持し、もう片方の手は上腕骨遠位部を把持した状態でstooping exが行われていた。25日目には肩関節の安静時痛は消失し、夜間痛は著明に軽減し、腱板などの圧痛も半減していた。肘関節伸展は前腕回外位−10度となっていたが、屈曲は依然として60度以上で環小指に痺れが出現しておりあまり変化していないようだった。検討項目として@受傷機転、X-pより推察される損傷部位についてA今後予想される問題点についてBstooping exの方法論と適切に実施できていると判断するための指標についてC肩関節前上方部(棘上筋前部から烏口上腕靭帯ならびに肩甲下筋上部線維にかけてのエリア)の拘縮予防と出来てしまった場合の治療法についてD前腕の疼痛、環小指の痺れの解釈について以上5項目が挙げられた。まず受傷機転について、X-pより大結節の縦割れと外科頸での骨折が確認されたこと、著明な夜間痛があったこと、圧痛が棘下筋に認め棘上筋に認めていないことから、肩関節外転内旋位で肩甲上腕関節に過外転ストレスが加わり骨折が生じたと推察された。損傷部位は肩関節については棘下筋腱、肩峰下滑液包が指摘された。よって肩峰下滑走機構の破綻は必発であると予想された。Stoopingの方法については、外科頸の骨折が咬み込んでおり安定性はあると思われること、そろそろ4週経過ということから片手で肩甲骨を止めてもう片手で骨折部を把持した形でよいのではないかという指摘があった。もし骨折部の下方への解離ストレスが気になるようであれば三角巾したままの方法もあると意見が出された。Stooping exについては昨年末のシンポジジウムでも議論されたが、上腕骨を振るのではなく下垂位を保持し体幹・肩甲帯を誘導することで大結節が肩峰下に位置した状態をつくることが重要であると再確認された。本症例のような大結節が縦割れした骨折は、肩峰下の癒着が強固になりその後の可動域改善に難渋すること多く、確実なstooping exにより治療成績が左右される。日頃から健常者を相手に大結節が肩峰下に位置した状態を確認しておくことが大切であると思われた。また、「石黒法」は受傷早期から体幹前屈位で上腕骨を振り回すやり方だが、拘縮のない状態だから可能であって拘縮があれば骨折部にストレスが生じるため危険であることが指摘された。次に環小指の痺れと肘関節屈曲制限についてであるが、受傷直後より出現していた症状であり尺骨神経に炎症が生じていたのではないかと指摘された。現時点では時間の経過に伴い癒着による神経滑走性の低下の存在も否定できない。早期の段階でもう少し詳細に評価しておくとよかったのではないかと指摘された。肘関節遠位の肢位の変化によって症状の変化がないことから肘関節より近位部での問題が考えられた。上腕三頭筋内側頭と尺骨神経の位置関係より両者の滑走性改善が必要であり、そのためにも肩関節の可動域の拡大が重要となってくると指摘された。尺骨神経の走行と軟部組織の位置関係について再度確認しておきたい。                                           文責:平針かとう整形外科 岡西尚人

症例2 20歳代 女性 アライメント不良・肩こり・腰痛

本症例は、肩こりを主訴に来院。中学生の頃より肩こり、腰痛を自覚し、肩こりがひどい場合は頭痛を生じていた。両側の肩甲挙筋、胸鎖関節、小胸筋、股関節深層外旋筋群、腸腰筋、長内転筋、恥骨筋、膝蓋骨内側部、鵞足部、膝窩筋、長指屈筋付着部等広範囲に圧痛所見を認めた。また頸部の側屈制限を認め、Friberg test陽性、Ober test陽性とのことであった。立位・歩行を中心としたビデオ映像によるアライメントの評価、今後の治療方針について検討された。胸椎後彎、肩甲帯は挙上・外転位で動作時に運動が見られないこと、歩行時に上肢が横に振れて体軸回旋が不足していること、股関節内旋位で下肢を振り出し大腿筋膜張筋を過剰に使用していること、後方重心であること、Knee in toe outであること等が指摘された。僧帽筋中部線維・下部線維の筋力回復運動により症状の改善を期待したいが、なぜこのようなアライメントをとり、肩甲挙筋を緊張させているのかを考察しなければ長期的な改善は難しい。頸部・胸部・骨盤・下肢の各部位に問題があり、どこからアプローチするのがよいかという明確な答えはないが、拘縮部位の改善後、抗重力活動の支持面となる体節の位置を整えることがよいとの結論に至った。具体例として、坐位であれば仙骨を直立化させる練習、立位・歩行であれば足底板等による足部のコントロールによりアライメントを改善していく方法が紹介された。長期間、胸椎後彎・肩甲骨外転位にある症例は、動作に合わせた肋骨の柔軟性が低下していることが多いため、胸椎伸展のみを促すのではなく、胸郭の柔軟性を高めていくことも治療のポイントとされた。セラピストによる治療や足底板の作製だけでなく、十分な指導のもと、本症例自身が主体的に取り組んでいくことが改善につながるものと考えられた。外傷や明確な痛みによるADL制限は認めないため、理学療法が処方されるケースは少ないが、若年者に多い姿勢の特徴であり、アライメント不良が問題となる症例を担当する際に生かしたい内容であった。
                                    (文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)