169回整形外科リハビリテーション研究会報告

2008.3.15 於:テルミナ会議室 

症例検討:右鎖骨骨幹部骨折(保存療法)後の遷延治癒

症例は40歳代の女性で、診断名は右鎖骨遷延治癒骨折、右肩関節拘縮であった。現病歴は、平成19年8月初旬に自動車乗車中、交通事故にて受傷した。同日右鎖骨骨折と診断され、クラビクルバンドが処方され、その後は経過観察となった。本年1月中旬から超音波骨折治療器セーフス開始となり、2月初旬から右肩関節拘縮に対して理学療法開始となった。初診時理学所見として、運動時痛は右肩前面から上腕上外側部に認めた。圧痛は鎖骨骨折部に強く認め、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、上腕二頭筋、三角筋に認めた。可動域は屈曲90°、内転-15°、伸展-20°であった。約1ヶ月間muscle relaxationを中心に治療されたが、運動時痛部位、圧痛部位、可動域は大きく変化のない状態であった。検討項目としては、(1)開始当初の運動療法について(2)鎖骨骨折後の遷延治癒症例において、現時点で実施すべきこと、注意すべきこと(3)肩関節外旋時、外転時の上腕上外側部の疼痛の解釈などが挙げられ、X-pや動画を見ながら検討された。X-pより受傷時と最新の画像と比較して骨折部の離開に変化がないこと、モヤモヤとした像が見えること、運動時痛が鎖骨骨折部にはなく上腕上外側部に出現することなどから、骨折部は癒合する過程にあり、将来的には癒合するであろうとの意見であった。骨折部の癒合を邪魔しないという配慮のもと、理学療法をしていくべきであり、まず、Drと話し合いイメージなどで動作時の骨折部の異常可動性の有無を確認する必要がある。もし仮に、骨折部での異常可動性があるなら、肩甲骨を固定した状態でのGH関節の可動域訓練が重要となってくる。現在は、外旋・伸展可動域の減少を認め、外旋・伸展方向時に上腕上外側部の疼痛が出現することから、前上方支持組織の拘縮の存在が考えられる。まずは、下垂位にて上方支持組織に対して治療進めるべきであると思われた。具体的には、棘上筋や棘下筋などに圧痛を認めるので同筋のrelaxationからはじめ、徐々にCHLやRIのストレッチに移行していくのが良いと思われた。骨折部の安定性が得られたら、徐々に挙上位での治療を展開していき、屈曲・外転可動域の改善に取り組むべきである。また、胸鎖関節、肩鎖関節、烏口鎖骨靭帯などの可動性も確認しておく必要性を指摘された。フロアーからは、過去に鎖骨骨折後偽関節となっても肩関節機能に支障を来たさなかった症例や、骨折半年後に癒合が見られずオペされすぐに職場復帰された症例などが紹介されたが、どちらもGH関節拘縮がなかったから可能となったことで、拘縮があればまた違った展開となっていたと思われる。本症例の場合、オペを拒否されたかどうかは定かではないが、もしすぐオペされていれば肩関節の拘縮は発生しなかったかもしれないし、保存治療を選択しても受傷直後からGH関節の拘縮予防の理学療法が展開されていれば、遷延癒合があっても今の状況は違うものになっていたと思われる。今回のように、鎖骨骨折で保存療法を選択肢し、肩を動かすのは骨折部に対して禁忌だから安静にしていたら可動域制限が出来てしまい、骨折部もいまだ安定しないという状況での理学療法は苦しいものがあると思われた。日頃から、Drとコミュニケーションをとり、「骨折部の安定性を考慮しつつ拘縮予防を目的に理学療法として何が出来るのか」を確認しておくことの重要性を再認識させられた。
                      (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)

症例2 20歳代女性
右鎖骨外側骨折、右肩甲骨粉砕骨折、右肘関節骨折、右第3・4・5肋骨骨折、右頬骨骨折

 自転車走行中にトラックに巻き込まれ、転倒受傷した20歳代の女性である。
 受傷3日後に手術となった。術中所見として、鎖骨は外側1/3付近を骨折、C-Cligが付着した骨片を1塊としエチボンドで束ね、近位骨折部に末梢骨片とともにK-wireとサージカルワイヤーにてtension band wiringされた。肩甲骨はX線、3DCTにて肩甲棘、肩甲体、肩甲骨頸部に骨折が確認でき、透視下にcoracoid、scapula neckが許容範囲にrepositionされていることを確認し洗浄、閉創された。肘関節は右側臥位、肘台使用にてposterior approachで進入し、anconeusの小頭付着部から小頭ごと骨折しており、ONI plate  systemのscrewにて小頭骨片を固定。良好な固定性が得られているため閉創された。
 術後外固定肢位は肩関節軽度屈曲、外転位でスリング固定。上腕中間部から手関節まで肘関節90°屈曲位、前腕中間位でシーネ固定されている。
 理学療法経過としては術後2週目より理学療法開始され、当初肩関節、肘関節の運動は禁止されていた。術後3週目より肩関節屈曲90°まで、肘関節は疼痛自制内での運動が許可された。現在術後4週目である。
 理学療法初診時所見として、肩関節・肘関節とも安静時、夜間痛は認めず、熱感減少傾向、浮腫は肩関節前方、後方、下方、上腕全周、肘関節、前腕近位部に認められている。棘下筋と小円筋に圧痛があり、視診にて肩甲骨は軽度外転、下方回旋している。
 病態、運動療法、注意事項などについて検討された。
 鎖骨について鎖骨遠位1/3の骨折は一般に骨癒合が得られにくいので、肩関節外転や水平内外転など棘鎖角に変化が伴う運動など離開ストレスが加わる動作に注意を払う必要がある。骨癒合を確認しつつ肩関節の運動を促す。肩甲骨を固定することで鎖骨の運動を抑制することが出来るが、本症例の場合肩甲骨粉砕骨折もあり、鎖骨固定方法には工夫が必要となるとの意見があった。
 肩甲骨骨折について、肩甲骨体部は棘上筋、棘下筋、肩甲下筋などでハンバーガー状に固定されているため、転位しにくく無視しても良いとの意見が多かった。大切なことは臼蓋と骨頭が適合した運動が出来る事で、本症例では臼蓋が前下方を向いた状態でrepositionされており、臼蓋部の骨折の安定化を優先すること、また、臼蓋のアライメントを考えた運動を促す必要がある。時期としては肩甲骨の修復を考慮して術後6週から8週頃より積極的に動かしていくべきで、特に障害として予測される肩関節挙上制限に対して、stooping ex.を行うことが重要である。受傷機転は不明確であるが、肩甲骨臼蓋に軸圧がかかるような外力が加わった骨折であることから、肩峰下での癒着を考慮し、Cuffの損傷や腋窩神経の損傷も確認しておくことも大切である。目標とする肩関節挙上角度としては150°〜160°を目指したい。
 肘関節については、橈骨頭による突き上げ損傷で上腕骨小頭が骨折、転位したと考えられる。また内側顆にavalusion Fx.も認められることからMCLは損傷されていることが予測される。回内外は70°〜80°の可動域は有しているとのことであるが、屈曲90°での固定肢位よりは今後の拘縮を考えると90°以上屈曲位が望ましく、主治医と相談するべきとの意見が出された。
 本症例のような交通外傷による多発骨折例では良肢位の保持が難しく、早期からの拘縮予防が困難な場合が少なくない。しかし、機能解剖から予測される障害に対して丁寧に評価を行い、修復過程や時期に即した理学療法を展開していくことが重要である。
                                                (文責:大阪医専 小野志操)

症例3 20歳代 男性 右距骨下開放脱臼骨折

 本症例は、交通外傷で受傷され、観血的整復固定術を施行された。手術所見は足背動脈と後脛骨動脈の血流は良好で、Chopart’s joint内側にわずかな骨欠損を認めた。、Chopart’s jointとLisfranc’s jointの良好な安定性と適合性を確認し、舟状骨と距骨に対して2本のpinning、踵骨と距骨に対して2本のpinningを施行した。術後9日から理学療法開始し、術後13日に退院後は外来フォローとなる。術後4週でpinを抜去し、足関節の可動域訓練を開始した。関節可動域は背屈‐10°、底屈30°であった。術後8週でFWBとなり、疼痛のない範囲でスポーツ練習を開始した。術後11週でゴルフ大会に参加。背屈35°、底屈50°、回内30°、回外40°と可動域の改善を認めた。現在での主訴は坂のような不定地で右足が上に位置するときの地面と足底があわせられないとのことである。
 今回の検討課題は稀な距骨下開放脱臼骨折であり、難渋する症例に対して早期に良好な成績を得られており、さらにワンランク上のスポーツ復帰に対する可動域のさらなる改善と足底挿板の内容の是非について検討を行った。
 検討にあたって、手術では良好な整復位のみで靭帯などの再建を行っていないことから深層にある組織は残存、表層の組織のみが損傷したしていたとすると、瘢痕化した組織で距骨下関節での可動域が制限されている。つまり、可動域を改善すると靭帯などの組織の制動が得られにくく、支持性の低下する結果、長期に影響を及ぼす可能性があることを考慮に入れなければならない。
 しかし、本症例はプロゴルファーであり、底屈と回外の可動域の改善を行い、支持性を得るために足底挿板が必要となるだろう。足底挿板では後足部を内外側と後方からしっかりとホールドして踵骨の立位化を保持することが重要である。また、MTP jointを支持して外側から母指に荷重が抜けるように貼付することが挙げられた。足底挿板の作成の詳細については、今後の本学会の研修会に委ねたい。
 本症例は可動域、筋力、および疼痛の改善に難渋する症例にもかかわらず、良好な成績を得られていることから、早期より精度の高い技術でアプローチすることの重要性を感じられた。
                                    (文責:中部リハビリテーション専門学校 田中 和彦)