172回整形外科リハビリテーション研究会報告

2008.8.9 於:東桜会館 

症例1 10歳代後半の女性 胸郭出口症候群

剣道部に所属する学生である。。初診の6ヵ月前に転倒し、右手舟状骨骨折と診断され、保存療法が選択された。4週間のギプス固定後に自動運動が許可され、剣道に復帰した。剣道再開後、練習後の右母指にしびれが出現するようになり徐々に増悪したため来院された。胸郭出口症候群と診断されて理学療法を開始した。初診時、X線所見での異常は認めず。Wright testにて母指のしびれが増悪、下垂牽引テスト・ファレンテスト・円回内筋テストはすべて陰性、肩関節・肘関節・前腕・手関節ROMは制限なし、握力は右11kg・左26kg、なで肩・肩こりあり等の理学所見を得た。初診時のgripにおいて、左側に比べ右側は小指側の横アーチが低下、竹刀は母指側で強く握っていた。胸郭出口症候群という診断名で、Wright testにおいてもしびれが増悪しているが、症状は舟状骨骨折後に出現していることから本症例の病態をどのように考えるべきかについて検討した。検討前の質疑応答にて、tinel sign()、右利き、母指掌側の領域に特定したしびれであること、知覚検査としては異常がないこと、手根管部の硬さを認めないこと等を確認した。通常、胸郭出口症候群による神経症状は母指掌側面に限局されることはなく、領域のはっきりしない広範囲の症状であることが多い。また、舟状骨骨折後に症状が出現していることなどからも胸郭出口症候群の症状ではなく、末梢側の問題ではないかとの意見が出された。骨折後のギプス固定等が素因となり、小指側の動きが不足することでGrip時の横アーチの減少と握力低下を引き起こし、竹刀を握る際に母指側で強く握らざるを得ない状態となり症状が出現したとの見解に至った。症例を呈示された先生より、有鉤骨、第45中手骨の可動域改善後に45指への深指屈筋の収縮を促し、竹刀の握り方を指導することで症状が改善されたとの報告があったことからも、実施した理学療法が適切であったと判断できる。これまでの経過と症状が診断名と一致しないことに気づいた点が特に評価される。その後、症状が神経のentrapmentにより出現するのか、循環障害により出現するのかの解釈について意見交換が行われた。母指の掌側へ向かう動脈は第1背側骨間筋を貫いているため、母指側のover useによりcompartment症状として出現したのではないかとの意見が出された。しかし、筋の問題であれば、まず当該筋における痛みの訴えがあることが多く循環障害ではないとの見解が示された。また、compartment症状による循環障害である場合、筋の圧痛を認めること、サチュレーションを母指で測定すると他指より低い値となることなどの所見を揃えていくことが必要となる。tinel signを認めないことから比較的症状としては軽度であるが、正中神経の母指への知覚枝が母指球以遠でentrapmentされたと考えられた。症状としてはBouler's thumb(ボーリングのボールにおいて母指の穴の摩擦や圧迫によって母指への知覚枝がentrapされて出現するしびれ)と同様であった。医師の診断を鵜呑みにすることなく、理学療法士としての機能診断を行い、問題点に合った運動療法を展開することが治療結果に結びつくこと、適切な機能診断のために情報収集を十分行い、所見を揃えることが重要であることを再確認できた非常に有意義な検討であった。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)

症例検討2 投球障害肩

症例は15歳男性である。平成205月から、投球時late cockingにて、右肩後上方に疼痛が出現した。6月中旬から投球を禁止し、7月下旬より理学療法が開始となった。初診時の所見として、ROMは、屈曲180°、1st.外旋70°、内旋75°(肩上外側に疼痛あり)、2nd.外旋110°(hyper  angulationにて肩後上方に疼痛あり)、内旋40°、3rd.外旋90°、内旋10°(肩上方に疼痛あり)であった。各種テストは陰性であった。エコーでは、SSP後方、ISPの関節面側に低エコー像が認められた。後上方の関節唇損傷はなく、peel backも認められなかった。投球動作分析では、late cocking時に体幹は前のめりで、肩の水平過伸展、軽度cross stepが認められた。投球障害肩の病態を考える上で重要なことは、投球動作を分析することである。一般的にどのphaseにて疼痛が出現するかによって、おおよその病態と発生機序を予想付けることが可能である。late cockingでの肩後上方での疼痛は、まず肩後方もしくは後上方のimpingementを疑うため、肩の水平過伸展が生じていないかの確認が必要である。本症例は、体幹の前方移動が速すぎるため、肘が残りやすく、その結果水平過伸展が生じたと思われた。また、cross step傾向であるため、体幹を大きく左回旋させなくてはならず、このことも水平過伸展を助長したと思われた。

今回のケースでは、フォーム指導のみにて、大幅に改善が見られたことから、スキルの影響が大きかったと考える。ただし、投球障害肩では、同時に機能面においても考慮する必要があり、あくまでも両面で考えていく必要があることは念頭に入れておきたい。

(文責:吉田整形外科病院 中宿 伸哉)