173回整形外科リハビリテーション研究会報告

2008.10.18 於:テルミナ名古屋ターミナル 

症例1 20歳代 女性 仙腸関節障害
 
持続した腰痛があり、継続した治療経歴を持つ。1ヶ月程前にも安静目的で入院をしている。今回はご本人の承諾を得て、実際に来場していただき問診等情報を得ながら進めていった。担当経験のPTが4名程参加していたので、それぞれの意見を交えながら検討していった。大学時代もスポーツをしており、腰痛があった。現在は専門学校の学生だが、生活パターンが睡眠時間が少なく、荷物を運ぶといった肉体労働をバイトで行っているとのことで、腰痛の悪化と共に内容を立ち仕事に変更して行っているとのこと。仙腸関節障害ではあるが、仙腸関節を直接的には治療対象とせず、アーチサポートにてアライメントの調整を行ったり、他の部位でも僧帽筋の弱化が強く、全体的に筋力の低下があることで仙腸関節の不安定性に対する対処として仙腸関節ベルトを処方して経過を観察したが、腰痛の軽減がみられなかった。最終的には仙腸関節をどう固定するかが問題となるとのことで、市販のベルトでは限界があるのではないかとの意見が出た。仙腸関節の不安定性のみならず、全体として骨盤輪不安定症として対処する必要があり、そのためには採型によるベルトの作成や、海外の論文にある恥骨から全体を固定するようなオリジナルのベルトを作成して、より強固な固定をすることが最優先となるのではないかとの意見が出た。骨盤輪が不安定な状態で、固定が中途半端では、どんな運動療法を施行しようと最終的には良好な結果は得られにくいとのことであった。骨盤輪の固定法についてはPOとも相談してより有効な方法論を検討していく必要がある。不安定なのか拘縮なのかを判断して然るべき対処をしていく評価技術が必要である。

症例2 20歳代 女性 7年間持続している腰痛

7年にわたり腰痛が持続しており、病院を転々としている経歴があった。担当したPTが数名参加していたため、情報を得ながら進めていった。当初入院してきた時には座位も困難な状態であったとのことで、ブロックも効果は低かったようであった。当初は仙腸関節も腰椎も触ることが出来ない状態で、胸椎からアプローチを始めたとのことで、最終的には歩行が何とか獲得した状態で退院となっている。しかし、増悪と緩解を繰り返す状態のようで、調子が悪くなると起きられないとの訴えがあるようであった。数名が担当していたが、共通して検査結果を見ると腰痛がひどく動けない状況であるとは考えにくい結果であった。少なくとも動けないといった重傷度では合致しない結果であったこともあり、精神的な問題も考慮する必要があるとの結論であった。しかし、本症例に対する対処としては、精神的な対応も含めてPTとして対処する現実があるため、こういった症例の場合は、確実に検査を行い、そのデータを取得しておく必要がある。ここご曖昧であると、精神論に言及できない側面がある。勿論現代医学にも限界はあるため、今回の症例が精神論で全て片付くとは言えないが、そういった側面からも、可及的に最大限の検査を正確に行い、正しく評価する知識と技術が要求されると思われる。そういった意味で通常よりも難しい症例であることは異論がない。少なくとも現状においては施術できる方法論が無いという現状において、それが個人的な知識・技術に左右されるレベルでは簡単に精神論に言及するべきではないと考える。

症例3 30歳代 男性 肩甲骨骨折・肩鎖関節脱臼

原付にて転倒して受傷した肩甲骨骨折(頚部、肩甲棘)の症例が呈示された。保存療法が選択されていた。状況としては屈曲他動105度、自動35度、外旋他動25度とROM制限が残存している。疼痛は挙上時に肩関節後方・上外側、外旋時に肩関節後方・上方に、圧痛は腱板全て、大円筋、上腕二頭筋、大胸筋、僧帽筋上部、C-C ligamentにあった。鎖骨遠位を叩打すると上腕〜手指尺側にかけてビンビンと響いた。X−p上で整復は不十分に思えた。臼蓋が少しおじぎしているようであった。骨折部の影響を考慮して当初から積極的なstooping−exは行っていなかったとのことだった。現在自動での挙上が改善してこないこともあり、原因を探った。頚部を由来とする症状はみられないと言うことで、感覚障害や麻痺、萎縮といった神経症状もないようで、受傷時における神経損傷は除かれた。腱板損傷については十分に可能性があったが、現時点での評価内容で明確なことは分からなかった。フロアからは整復については通常このアライメントであれば手術適応であろうとの意見であった。現在の状態であっても手術を行う意味はあるとの事であった。手術するのであれば、整復し、pinningで肩鎖関節を固定するとの意見も出たが、肩鎖関節を修復する目的でのpinningは現状では重要ではなく、肩甲棘のアライメントを維持するように固定する方が重要であろうとの意見であった。臼蓋と肩甲棘とのアライメントが整復されることで、腱板の効率が上がり、自動挙上不全が改善される可能性が高いと考えられた。肩甲骨自体が下方回旋することで出力は低下するが、肩甲骨自体ではなく、関節窩が下方に変位していることは、非常に不利に働くと考えられた。現状においては可及的に腱板の効率を高めていくことを中心に進めていくしかないかと思われた。手術についても医師との検討の中で考慮する必要も出てくるかと思われた。今回の症例のように、骨アライメントから来る機能不全なのか、腱板損傷による機能不全なのか、肩甲骨のアライメントによる機能不全なのか、同じ自動挙上不全であってもそれぞれに原因が違い、目的とする組織とそれに対する治療が異なってくるため、十分に評価して検討することが重要である。

症例4 70歳代 女性 半膜様筋の深部に発生したガングリオンによる膝窩部痛(報告)

MRIにて半膜様筋の深部にガングリオンが発生した症例が呈示された。大きなROM制限はなく、どちらかというと圧迫による制限が認められた。正座や歩行開始時痛が存在していた。注射吸引を考慮したが近くに神経がありリスクが高いために見送られた。理学療法としては半膜様筋の滑走性の低下と判断して、筋活動を誘導することで滑走障害の改善を狙った。結果正座も可能になり、多少の違和感はあるものの歩行時痛も消失した。しかし疼痛の原因が不明瞭ではあった。ガングリオン自体にはレセプターは無いため、その周辺で感知していたと考えるのが妥当であろうが、具体的にどこになったのかが想像の域を超えない。事実半膜様筋の滑走を改善させたことで改善したという事実があるのみである。可能性としてはガングリオンに接している組織、半膜様筋に接している組織が考えられる。今回は半月板の評価等は行っていなかったため、詳細は不明であった。しかし、ガングリオンを含めて新生物が介在して疼痛やROM制限等機能障害が発生している場合に、それを除去しない限りはPTとして対処することがないといった考えにいかないで、その周辺の組織を考えて、その介在物自体が原因で無い限り、可能性は十分にあると考えさせられた症例である。X-p等画像診断で介在物、アライメント異常等PTとしては致し方ない環境になっている場合も少なくはないが、少なくともイコール手がないと決めつけるのは時期尚早である。可能性を十分に探っていく努力も必要であることを経験できた。
                                                      (文責:岸田 敏嗣)