175回整形外科リハビリテーション研究会報告

2009.1.24 於:東桜会館

 症例1 70歳代 男性 上腕骨頚部骨折(3Part前方脱臼骨折)

  昨年12月上旬に転倒し受傷した。他院へ紹介し人工骨頭置換術を勧められたが本人がこれを拒否し、保存療法(三角巾とバストバンド固定)が選択され自宅へ戻った。本症例は一人暮らしであり自宅での食事摂取困難となり、栄養管理目的で入院となった。入院中は、バストバンド固定下にて肘関節、手関節の自動運動が行われていた。現在は外来で通院中である。受傷後約5週間後にバストバンドが外され三角巾のみとなった。バストバンド除去後に肩周辺の疼痛が増悪しており、現在は右側臥位でいつづけると左上腕外側に疼痛が出現していた。また、ふとした瞬間に左上腕外側から前腕外側に放散痛が出現し、左肩関節他動外旋時にも同様な放散痛が出現していた。他動屈曲時や他動外転時には肩関節の内部に嫌な痛みが出現していた。治療としては左肩関節伸展・内旋の自動介助運動とstooping ex、左肘・手関節・手指の自動運動がなされていた。レントゲンを確認したところ、骨頭が脱臼位のままで整復されておらず、外科頸と大結節の骨折が確認された。現在の疼痛の解釈と肩関節機能の予後とADL能力の改善の方法について検討された。フロアーからは、上腕外側から前腕外側への放散痛については、骨頭が脱臼位のままで上肢が下方に牽引されている状態で神経が過敏になっており、腕神経ソ由来の疼痛ではないかとの意見が出された。また、肩関節内部の嫌な痛みは、整復位がとられておらず骨膜由来の疼痛ではないかと推察された。また骨頭への血行は絶たれており、いづれ吸収され将来的には肩関節機能は期待できず、動くにしても偽関節部分で動くようになるであろうとのことであった。これらの状況を踏まえて今後は除痛を図っていくことが重要であると思われた。骨膜由来の疼痛に対しては、上腕骨を固定して骨膜への刺激を回避し、疼痛が落ち着くまでにはある程度の時間が必要であると思われた。また、常に腕神経ソが緊張した状態では不動による肘関節や手関節の拘縮を引き起こす可能性があり、将来的にADLの大きな障害となると思われる。神経の緊張を緩めた肢位で肘・手関節の運動を行い、神経滑走の維持、肘・手関節の拘縮予防を行うべきと意見が出された。本症例のような場合では、人工骨頭置換術が選択されるのが最適と思われる。保存療法であっても脱臼が整復されていれば、積極的に肩関節機能の改善を目指していくのだが、関節としては器質的に破綻した状態であり、関節の機能改善は望めない。この状況下でPTとして何に視点をおいてリハビリテーションを進めていくべきかが非常に難しい症例であると思われた。今後どのような経過を辿ったか報告をお願いしたい。                                                   (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)

症例2 70歳代 女性 恥骨・坐骨骨折

  転倒により殿部を強打し受傷。受傷2週後より歩行時に鼠径部痛が徐々に生じた。受傷約1ヵ月後より理学療法が開始された。初診時所見としては、疼痛回避性にDuchenne歩行を示し、荷重時に右鼠径部につるような疼痛、骨折部(腸腰筋?)に圧通、開排制限を認め右鼠径部に伸張痛が認められた。筋力は、腸腰筋・大腿四頭筋・中殿筋・内転筋群がMMT3レベルであった。疼痛軽減、歩容改善目的に腸腰筋の反復収縮、股関節周囲筋の抵抗運動および荷重訓練を行い疼痛は速やかに改善し、中殿筋の筋力も概ねMMT5レベルとなったが、歩容は十分に改善されなかった。主に歩容改善に対して症例検討がなされた。当初は疼痛回避性に示された跛行であったことは間違いないものと考える。しかし、両側性にDuchenne歩行をていしており、ある程度受傷以前から存在していた跛行であった可能性が否めない。アライメントとして骨盤後傾位での歩行を示しており、腸腰筋の機能不全が疑われた。いわゆる中殿筋歩行は、中殿筋の機能低下によるものだけでなく、股関節における大腿骨頭が求心位を保てない「股関節不安定性」において生じることが臨床上度々認められる。本症例においても腸腰筋の機能不全によって大腿骨頭は求心位を保てないことから股関節は不安定性を示し、中殿筋の筋力があってもDuchenne歩行を示したものと考える。Duchenne歩行やTrenderenburg歩行が生じている場合、中殿筋に対するアプローチは必要と考えるが、股関節の安定性が保証されていることが前提となる。歩行時の立脚期の股関節は屈曲位から伸展位に変移しつつ骨盤を安定化しなければならず、前後要素としては屈筋の腸腰筋や伸筋の大殿筋、側方要素としては中殿筋と内転筋群が十分に機能して(相対的バランスによって)安定化がなされる。歩容改善には、中殿筋以外にも股関節全体の筋機能、膝・足部・体幹など全身的状態も加味していく必要性が再確認された。
                             (文責:トライデントスポーツ医療科学専門学校 山本 昌樹)