186回整形外科リハビリテーション研究会報告

2010.3.20 於:テルミナ名古屋ターミナル 会議室

症例1 60歳代 女性 上腕骨近位端骨折後の一症例

 症例は、約一年前にスキーで転倒し保存療法が選択された60歳代後半の女性である。受傷後2ヶ月後のレントゲンでは、骨頭が骨幹部に陥入した結果大結節が上方に転位し、さらに骨頭が圧迫され横径が短くなった形となり、上腕骨は臼蓋から下方への亜脱臼していた。一年前の定例会でも検討されている症例で、当時はGH関節上方支持組織の伸張性獲得、肩甲胸郭関節への対処、骨頭求心位を得るために腱板筋へのトレーニングなどがアドバイスされていた。現在は、家事労働で頸部から上腕部にかけて鈍痛がすぐ出現しており、調子の悪い時は歩くだけでも出現し、鎖骨バンドをつけたり、三角巾をすることで鈍痛は軽減するとのことでった。ROMは屈曲130度、外転80度、1st外旋30度、3rd外旋95度、3rd内旋0度、水平内転110度、結帯Th11であり、圧痛は、肩甲挙筋、僧帽筋上部線維、棘上筋に強く認めていた。治療は、肩甲骨面屈曲130度で水平外転運動を行い僧帽筋中部・下部線維の収縮トレーニングを行っていると報告された。検討は鈍痛に対する対処法についてなされた。フロアーからは、症例の写真より肩甲骨の下方回旋位アライメントが鈍痛の引き金になっており、上方支持組織の伸張性不足が指摘され、GH関節の内転制限が議題にあがった。報告者はGH関節の内転制限の存在を否定したが、実際の評価手技を確認したところ肩甲骨の固定性について問題があると指摘があり、実際に理事の方々からGH関節可動域測定時の肩甲骨の固定方法についてアドバイスを受けた。再度、厳密にGH関節の内転可動域の確認を提言された。その上で、挙上時の骨頭の上方への変位を抑制する目的で、下方支持組織の伸張性獲得のために小円筋と棘下筋下部線維の反復収縮とストレッチを十分に行った後のPIGHLのストレッチが必要で、棘上筋に対してはボールの上に手を乗せてゆっくり上腕骨を回旋させるなど低負荷の運動で確実に収縮を入れることが必要になると指摘された。「GH関節が機能することでIST関節が効率よく機能し、IST関節が機能することでGH関節が効率よく機能し、GHISTは双方が影響を与え合っている。」と説明され、肩甲胸郭関節へのアプローチは必要であるが、そのためにもGH関節の機能改善が必須であると指摘された。肩関節疾患では、肩甲骨を固定した状態で上腕骨の可動域を測定する重要性は幾度となくされており、現場でもその重要性は浸透していると思われるが、正しい評価がなされなければ治療すべきポイントを見逃すこととなる。正しい評価結果を導き出す技術を身につける重要性を再認識した。

                      (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)

症例2  40歳代  男性  腓腹筋内側頭損傷の一症例

2010221日、スキーでバランスを崩し踏ん張ったため、矯正背屈を強いられ受傷。シャーレ固定をおこなう。39日時点では、Dell(陥凹+)ROMは膝関節屈曲90°位では、背屈右20°(左35°)、膝関節伸展位では、右5~10°(20°)、圧痛は腓腹筋にあり、跛行を呈していて伸張感のみあった。4週後では、膝関節屈曲90°位では、背屈25°、膝関節伸展位では、5°であった。プログラムは、弾力包帯を巻いた状態での足関節底背屈運動、損傷部以外(近位、遠位)でのダイレクトストレッチ、ヒールアップ2cm、歩行指導(右の歩幅を狭める)をおこなっている。

検討項目としては、@補高除去のタイミング、A今後の運動療法の進め方、B血腫の解釈が挙げられた。

@に関しては、医師と相談の上、足関節の可動域を確認しながら除去していく方向で考えていくことが挙げられた。一ヶ月経過していて痛みがなく新たな出血がなければ低くしていくことは可能ではないかという意見が出された。

Aに関しては、痛みを参考にしながらROMをみながら訓練を検討する。4週時点では、等尺性収縮はまだおこなわないようにしておこなう。

Bに関しては、血腫の硬さの評価(収縮後の硬さの変化などを確認する)からおこなう。血腫により、内側頭が収縮できずに萎縮が起こるため、血腫が吸引できるかわからないがチャレンジしてみることも必要ではないかと考える。エコー像では、血腫が大きく疼痛が少ないことは珍しい点、筋線維がきれいに抽出されているため筋組織のダメージは少ないのではないかという点が示された。

                                               (文責:木村病院 神山卓也)

症例3 60歳代 女性 頸椎椎間板障害(頸椎椎間関節症、胸郭出口症候群)

 受診2週間前に大掃除をして以降、違和感はあったが1週間前より頸部から両上肢にかけて疼痛およびしびれが出現してきた。初診時、頸部の伸展、左回旋、左側屈時に左頸部痛がみられ、肩や肩甲骨内側に痛みが出現することもあった。レントゲン所見では中間位側面像で頸椎の後弯変形が認められた。Jackson testSpurling testでは放散痛はみられないが、頸部痛は出現した。中位から下位の椎間関節に圧痛がみられ、頸部の運動時痛は椎間関節由来によるものと考えられた。姿勢はHead forwardRound backであり、他動的に肩甲骨を内転位に保持することで頸部の運動時痛が消失した。このことから頸部の運動時痛に姿勢や肩甲骨アライメントの関与が大きいと推察し、肩甲胸郭関節へのアプローチを実施した。初回の治療後、肩甲帯の可動性、体幹の回旋可動域が改善し、頸部の運動時痛は消失した。2回目来院時には頸部運動時痛はみられなかったが、両上肢の重だるさがみられた。牽引型の胸郭出口症候群を疑わせる所見がみられたため、僧帽筋エクササイズを追加した。3回目には上肢全体にみられた痛みが上腕部は消失し、前腕のみとなり、VAS 3/10程度となった。4回目には前腕の痛みも消失したため理学療法を終了した。この時点(治療開始より2週)で頸部レントゲン側面像を撮影したところ治療前は後彎変形であったものがストレートに変化していた。頸椎の後彎変形が減少したのは、前胸部のタイトネスをとることにより体幹の回旋可動域が改善したこと、小胸筋の緊張緩和や僧帽筋の機能改善により肩甲骨アライメントが内転・上方回旋位に改善したことによる胸椎の後彎が減少したためであると考察された報告があった。
フロアより、頸部痛をみていく上で姿勢や肩甲骨アライメントの問題は、かなりの割合で関与しており、なぜ疼痛部位にストレスが集中してしまうのかといった観点から見ていく重要性が挙げられた。
今回の場合、頸椎アライメントが改善したことにより運動時痛が消失したのか、疼痛消失により頸椎アライメントが改善したのかは定かではなく、どの組織がどのような機序で痛みを出現させているのかを詳細に考察する必要があった。
 また、今回の症例のように頸部痛と上肢症状などが混在している症例も多いため、一つ一つの症状に対して何が原因となっているかを明確にする必要があった。
 今後は、疼痛を引き起こしている主病巣をより明確にした上で治療選択とその効果について検討し、症例を積み重ねていく必要性を感じた。
                                          (文責:平針かとう整形外科 稲葉将史)