190回整形外科リハビリテーション研究会報告

2010.10.16 於:テルミナ名古屋ターミナル 会議室

症例1  ピントラブルを起こしている肘頭骨折の1症例

症例は60歳代女性である。石畳に倒れ込んで受傷し、左肘頭骨折と診断された。レントゲン写真上では、滑車切痕中央レベルでの横骨折を認めた。他院にて受傷後2日目にtension band wiringによる骨接合術を施行され、ギプス固定となった。術後3週にてギプスを除去した後に退院となり、リハビリテーションを目的に来院され、理学療法が開始された。初診時、肘関節屈曲90°、伸展−40°、前腕回内30°、回外55°、手関節掌屈50°、背屈50°であった。創部周辺から前腕背側にかけて腫脹が強く、圧痛は外側側副靱帯および輪状靱帯に認められた。肘関節を屈曲した後に伸展方向へ戻そうとすると耐え難い強い鋭痛を生じ、日常生活動作を強く制限していた。理学療法としては、前腕の筋群に対して伸張性および滑走性を改善することで前腕回内・外、手関節掌・背屈の可動域の拡大を図った。肘関節屈曲に対しては、ワイヤー刺入部周囲の皮膚を徒手的に弛ませた状態での上腕三頭筋の収縮と伸張、皮膚剥離操作などを行ったが、前述の疼痛が出現するため、理学療法に難渋していた。1回目の治療にて肘関節屈曲105°まで改善したが、2回目よりワイヤー刺入部の痛みを訴え始め、その後は沈静化の傾向にあったが、術後2ヶ月で再燃し、肘関節屈曲95°、伸展−35°、前腕回内70°、回外50°、手関節掌屈50°、背屈50°と難渋している。ワイヤー刺入部の疼痛が原因となっている可能性およびピントラブルを避けてできるセルフトレーニングについて検討された。フロアーより、刺入部側におけるワイヤー先端の向きが術後とその3週間後では異なっており、back outしている可能性が指摘された。先端部が背側を向いていることで、屈曲によって軟部組織に引っかかり、伸展によって外れる時に耐え難い痛みを出している可能性が考えられた。肘以遠の皮膚の色調と皺の状態から判断すると、無理な可動域運動を行うことでCRPSへと移行する可能性もあり、骨癒合が得られてワイヤーを抜去するのか、ワイヤーを残したまま理学療法を継続するのか等を医師とよく相談の上で進めていく必要があると考えられた。透視カメラやエコーでの評価も有用ではないかとの意見が出された。ギプス除去時にはすでにワイヤーが逆向きになっており、ギプス固定中の上腕三頭筋の等尺性収縮によって起こった可能性も否定できない。Tension bandを過信せず、弱い収縮で伸張性の維持を図る必要がある。また、この症例では肘関節伸展制限が改善できておらず、軟部組織性であるのか、骨性であるのかを再評価する必要がある。レントゲン上では、骨折部分にて僅かなギャップを認めるため、伸展によって橈骨頭と上腕骨小頭が衝突することで制限となっている可能性も否定できないため、回内位では肘関節が伸展しやすくなるかどうか、軟骨由来のend feelであるかどうか等を確認すると良いとの指摘があった。橈骨輪状靱帯なども損傷している可能性を含め、肘以遠についてもしっかりと治療を行う必要があるとの確認がなされた。ピントラブルの可能性も含めて、所見に基づいて現象の解釈を行うこと、ピントラブル下では、医師と今後の方針についてよく相談し、現時点で何ができるかを考えながら治療を進めることの重要性を再確認できた症例であった。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)


症例2 60歳代 女性 橈骨遠位端骨折

症例は、7月某日テニスのハイボールに反応し後ろに下がったときに足がもつれて後方に転倒し受傷した。受傷翌日に他院にて手術となった。手術はlocking plateを用いて骨折部の固定を試みたが、固定しきれず創外固定(bridge)を追加された。その後、術後4週で週に1度の運動療法開始となり、6週で創外固定抜釘、8週で当院での運動療法開始となった。術後8週の当院での初診時所見は、背屈15度、掌屈35度、回内45度、回外20度であり、肩関節と肘関節、手指にも著明な拘縮を認めた。ADLは、洗髪動作、洗顔動作が不可能であり、グリップ動作は著明な手指拘縮によりかなり制限されていた。主訴は右手と同じように動かせるようになりたいとの事であった。痛みは、手関節の橈尺側に存在し、手指全体としても強く訴える。手指をはじめ、手関節の拘縮や、痛み、腫れも強く認め、難渋しやすい症例である。
まず、レントゲン所見からChauffeur骨折が疑われる。Chauffeur骨折とは、橈骨茎状突起骨折の骨折を言う。舟状骨月状骨間(scapholunate : SL)靭帯の破綻により月状骨と舟状骨の連結が無くなると、舟状骨が橈骨の橈側を外側に押す。そのため橈骨形状突起骨折となりやすい。つまり、手根骨はDISI変形と合併する事がある。他に気になるレントゲン所見は、尺骨茎状突起の骨折である。尺骨茎状突起基部には尺骨小窩(fovea)と呼ばれる三角靭帯尺骨付着部が存在する。TFCC(三角線維軟骨複合体)を構成する三角靭帯の不安定性により、TFCC損傷様の症状を呈する場合がある。本症例はレントゲン上、尺骨茎状突起基部の損傷と、手根骨の橈側偏位、遠位橈尺関節の多少の離解を生じている。よって、三角靭帯の不安定性と、手根骨の橈側偏位によるTFCCへの圧迫により、TFCC損傷様の症状を呈する可能性が高くなり、本症例で認められた尺側部痛の解釈にも繋がる。エコーによりTFCCの動態をチェックする事も今後の運動療法に大切なことであると思われる。
 本症例で最もADL制限をきたしている要因は、手指の著明な運動制限である。拘縮を評価しようとも著明な痛みにより評価が困難な程であったとの事であった。術後に徹底した浮腫除去、手指の運動、個別の筋の運動を行うべきであったであろう。拘縮を生じてしまった現状としては、グローブスプリントやダイナミックスプリントによる機能改善が必要であると思われる。屈曲時の皮膚の色を観察する事で、ある程度の病態を判断できる。赤く変化する場合は血液が集まった部位であり、白く変化する場合は血液が疎になった部位と解釈できる。強く曲げすぎると局所が真っ赤になり、炎症が危惧される。屈曲しても色が変わらないときは、関節包性の拘縮である可能性があり、関節の牽引を併せた手指の可動域練習が有効であることが多い。また、手指機能として見逃してはならないのは母指機能である。母指の対立運動制限があると、ADLとして重要なピンチングができなくなってしまうためである。まずは、母指を主体とした手指の巧緻性、機能性の改善を行うべきであろう。しかし外観上、手関節から遠位にわたる皮膚の赤みが気になる。骨の萎縮や、痛みの強さも考慮すると、CRPSが懸念される。手指と手関節も含めた可動域・巧緻性の改善が必要であるが、CRPSとならないように過度なストレスを避けて治療を行う配慮が必要となる。現在の経過としては、良くなってきている感じではあるが、今後も長期的な治療が必要になるであろう。患者様のセルフエクササイズ指導、スプリント(グローブスプリントなど)による機能改善も必要と思われる。その際は、CRPSにならないようにする事、DRUJTFCCの不安定性を生じないようにする事を注意していく必要があると思われる。その後の経過にもよるが、完治は困難かもしれないという患者様の病態指導も必要であろうと思われる。手術後の早期リハビリの重要性を再認識させられる症例である。

  (文責:吉田整形外科病院 篠田光俊)

症例3 40歳代 女性 肩関節周囲炎患者の疼痛について

 症例は、肩に激痛を訴え来院し、アルツにて経過観察されるも疼痛・可動域制限が消失しなかったため、2カ月後より肩関節周囲炎の診断のもと運動療法を開始した症例である。症状は、時折夜間痛がみられ、上腕から手指に痺れを訴えていた。既往歴として他院にて頸椎ヘルニアと診断された既往がある。初診時、関節可動域はactiveで屈曲30°、外転40°、内転0°、passiveで屈曲80°、外転40°、内転0°、1stの内旋、外旋は制限なしであった。圧痛を棘状筋、棘下筋、肩甲下筋、鳥口上腕靭帯、上腕二頭筋長頭腱に認め、Neer testSSP testISP testspeed testが全て陽性であった。レントゲン所見では、石灰沈着を認めるも陳旧性のものか急性なものかの判断はできていない。1回目〜3回目の運動療法は腱板筋群、上腕二頭筋のリラクゼーション、関節包後下方のストレッチングが行われ、可動域がactiveで屈曲70°まで回復し、夜間痛は消失した。しかし、可動域制限のリバウンドや鋭痛の継続がみられた。1つ目の検討としてこの時点での疼痛の解釈が行われた。可動域から考察すると臼蓋上腕関節の癒着は軽度だと思われ、疼痛が鋭痛であり炎症性の疼痛と考えられ、それによって腱板筋群も攣縮を引き起こしているのではないかと考えられた。また、評価として肩峰下部分での上腕骨の入り込み方(入り込み難さ)や、肩甲骨との位置関係などの確認が必要だということが挙げられた。そして、この時期に中間評価で精査を行った結果、圧痛は腱板筋群で消失し、新たに小胸筋、斜角筋で確認された。疼痛は頚部伸展で肩甲骨内側に誘発され、Sparing testでは頚部のみに疼痛が誘発された。Morley testは陰性、iferior stress testは陽性、手指に感覚鈍麻を認め、AFDは右3横指 左4横指であった。胸郭出口症候群様の症状を呈していた。そのため、4回目〜の運動療法は小胸筋、斜角筋と肩甲帯周囲筋のリラクゼーションが追加して行われた。  最新の所見は疼痛軽減し、passiveで屈曲135°まで獲得するもactiveでは屈曲90°でpainful arc sign様の疼痛を呈する。小胸筋、斜角筋の圧痛は軽減・消失しており、痺れと鳥口上腕靭帯、上腕二頭筋の圧痛は変化なく存在し、Neer testHawkins testはともに陽性である。2つ目の検討として現在の90°付近での疼痛の解釈と屈曲制限因子について、3つ目の検討として今後の運動療法について行われた。90°付近での疼痛の解釈と屈曲制限因子はインピンジメントによる鳥口上腕靭帯、上腕二頭筋の挟み込みが考えられ、後方関節包の拘縮が因子ではないかと考えられた。今後の運動療法は姿勢を含めた肩甲帯のアライメントの確認、可動域の再確認、臼蓋上腕関節での過伸展位での評価(結帯動作)を行うことが挙げられた。今回の症例は肩関節周囲炎と胸郭出口症候群の症状が混在しており、通常の肩関節周囲炎に対する治療だけでは治癒することは難しいと考えられた症例であった。PTは「診断名ではなく症状から評価していくことが重要であり、それが正しい評価に繋がる」と締めくくられた。

(文責:さとう整形外科 永田敏貢)