191回整形外科リハビリテーション研究会報告

2010.11.20 於:名駅モリシタ名古屋駅前中央店 会議室

症例1  10歳代 男性 前方脱臼の既往のある野球肩の一症例

 症例は10歳代後半の大学生、軟式野球サークルに所属し、右投げ右打ち、ポジションは主に捕手である。本症例の主訴は、2塁に全力で送球を行う時に肩前方に痛みと、腕全体の痺れ脱力感がある(dead arm syndrome様:dead arm syndrome様症状とは、典型的にはダイビングキャッチや「肩をもって行かれた」と言うような動作の後、痛みやだるさのため、肩がうまく挙上出来なくなってしまう状態のことである)、というものである。合併症に野球肘、既往歴として3歳ごろに右肩関節亜脱臼し、その後幼少期に何度か亜脱臼を繰り返したとのことである。また、投球中に、亜脱臼してしまったことはない。
 以下、所見を列挙する。ROM1st外旋、2nd内旋に左右差は認められないが、3rd内旋で左右差10°、2nd外旋では110°で前方への亜脱臼感があり、骨頭の前方シフトを制動すると亜脱臼感は消失した。陽性であった所見は、O’blien testCrank testLift off testAnterior apprehension testが挙げられ、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋、上腕二頭筋長頭腱、Morley pointに圧痛が認められた。また、腋窩神経領域の感覚は反対側に比し、8/10であり、前腕外側皮神経、正中、尺骨橈骨神経領域の感覚は反対側に比し9/10であった。信原分類のacceleration phaseで肩関節前方深部に痛みがあり、follow through phaseで上肢全体にしびれ、脱力感が生じた。陰性であった所見は、SSPISP testSpeed’s testsulcus signinferior stress test、肩峰床面距離は5横指であったが左右差なし、側臥位での胸椎回旋ROMは肩峰床面距離が6横指であったが左右差なしであった。僧帽筋のMMT4レベルであった。また、レントゲン上では骨頭が前方にシフトしており、前方の緩さが疑われた。
 以下、フロアからのアドバイス、治療方針をまとめる。後方組織のtightnessによって骨頭が前方にシフトしているため、まずは後方の組織の柔軟性を改善することが挙げられた。レントゲン上での骨頭前方シフトの対策としては、肩甲下筋の筋力強化が一手段である。投球フォームより、take backの際にhyper angulationとなっているため、肩甲骨の内転可動域を獲得し、zero positionを取れるようにすることが挙げられた。また、上肢から体幹、下肢を用いた体全体での投球フォームではなく、肩甲上腕関節でのいわゆる手投げのようなフォームであるため、follow through phaseでの体幹前傾が減少することで、上腕骨水平屈曲角度が過剰となり神経が牽引されてもおかしくないとされた。その原因のひとつに股関節周囲筋の硬さがあるのではないかという指摘もあった。
 また、前下方に抜ける不安定性と、本症例の主訴、症状が一致するのかという問いかけがあり、症状である前上方組織の痛みの由来は何であるのかという評価をもう一度取り直すべきではないかと指摘を受けた。具体的には、棘上筋、棘下筋、腱板疎部、肩甲下筋をechoを用いて、断裂や炎症しているかを確認することであった。さらに、関節唇損傷のtestが陽性であったため、上腕二頭筋腱由来の痛みを疑ってみても良いのではともアドバイスがあった。後方組織の柔軟性改善や投球フォームの変更、前上方組織の痛みの解明が出来ても不安定性が残存するのであれば、MRIで各組織の状態を確認する事や、手術という選択肢も視野に入れなければいけないという結論に至った。

(文責:吉田整形外科病院 三田村信吾)

症例2 10歳代 男性 大腿四頭筋(RFVMVI)断裂およびFHL断裂に対し、筋膜縫合およびFHL再建術を施行した1症例

 天井側より天窓に左下肢を突っ込み、割れたガラスによって受傷した。大腿前内側面、足関節内側およびアキレス腱後面部の切創のため、他院へ入院となった。同日、大腿前面での大腿四頭筋(RFVMVI)断裂に対する筋膜縫合術および足関節内側でのFHL断裂に対するFHL再建術がそれぞれ施行された。手術内容の詳細は把握できていない。受傷後、4週にてギプス固定からシャーレ固定に移行し、理学療法目的で来院された。初診時、膝関節可動域は他動にて屈曲35°/伸展0°、足関節可動域は他動にて背屈−10°/底屈45°であった。大腿四頭筋の収縮はわずかに感じられる程度であった。大腿前内側の創は完全に癒合しておらず、強度に動かすと出血の可能性があった。皮下の著明な可動性の低下を認めた。足関節においては足根管部およびKager’s fat padの著明な柔軟性の低下を認めた。膝関節前面、足根管部から足底の知覚鈍麻を認めた。受傷後6週が経過時、RF優位での膝関節伸展時において大腿前面の創部から5cm近位部の著明な陥没を認めた。膝関節可動域は股関節屈曲位にて屈曲80°、股関節伸展位にて屈曲50°であった。足関節可動域は4週経過時と変化していない。この時期に1/2PWBでの歩行を開始した。受傷後8週が経過時、陥没部近位の膨髟狽フ質感が硬くなっていた。膝関節可動域は股関節屈曲位にて屈曲110°、股関節伸展位にて屈曲80°であった。extension lagは消失していた。足関節可動域は背屈−5°となり、2cmの補高装具を装着してFWBでの歩行を開始した。受傷後10週が経過時、膝関節可動域は股関節屈曲位にて屈曲135°、股関節伸展位にて屈曲100°であった。足関節可動域は背屈10°となった。踵内側の知覚鈍麻および足関節内側の創部でのtinel signは残存していた。FHLと脛骨神経とが癒着しているとFHLの滑走時に足底への放散痛を生じる可能性もあるが、幸いにも本症例では出現していない。各時期での大腿前面および足関節内側の創部付近の超音波エコーを確認した。膝関節自動伸展時における大腿骨前面の陥没の解釈、大腿前面の癒着を除去するための具体的な方法、FHLに対する負荷を増大させていく時期について検討した。フロアーより、VIの滑走が陥没部より近位のみで起こっていることが陥没の原因ではないかとの意見が出された。また、大腿直筋の表層部において低エコーとなっていることから、筋膜縫合後に何らかの理由で再断裂を起こしている可能性があるとの指摘があった。FHLについては、アキレス腱断裂後18週経過してからelongationを起こした例もあり、慎重に収縮と伸張を進めるべきではないかとの意見が出された。その一方で、腱の修復過程を考えると、10週経過していることから再断裂のリスクは少ないため、積極的に伸張を図っても良いのではないかとの意見も出された。大腿直筋の表層が断裂しているとすると、将来的には元の状態までは筋力が改善せず、スポーツでのパフォーマンスレベルが低下する可能性があると考えられた。しかし、現状としては良好な経過であり、修復に応じてamplitudeおよびexcursionの改善を進めていけばよいとのことであった。筋や腱の断裂に対する縫合術後は、再断裂やelongationによる筋力低下を予防しつつ、伸張性および滑走性の改善を図る必要がある。修復過程を考慮し、理学所見や超音波エコーなどで病態を十分確認しながら運動療法を展開する必要があることを確認できた症例であった。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)

症例3 30歳代 男性 肘頭粉砕骨折および橈骨頭頚部骨折術後の一症例 ―経過報告―

 20101月の定例会で症例検討させていただいた症例のその後の経過について報告した。
 症例は30歳代の男性である。原付で走行中に車と衝突して転倒した際に受傷した。他院に搬送され左尺骨肘頭粉砕骨折および左橈骨頭頚部骨折と診断され、3日後に骨接合術を施行した。術後約3週間シーネ固定をして経過観察し、さらに2週後リハビリ目的で当院を紹介され受診した。その間、自身で動かすよう指導された以外にリハビリは行われていなかった。
 初診時には、可動域が屈曲100°、伸展−30°、回内50°、回外30°であり、肘関節周辺の浮腫や皮切部周辺の皮膚の可動性低下、上腕三頭筋内側頭や上腕筋の柔軟性低下を認めた。JOA scoreでは55点であった。初期の治療としては弾性包帯圧迫下での上腕三頭筋および上腕筋の自動収縮訓練やモビライゼーション、皮膚のモビライゼーションを進めた。2wより後方関節包のストレッチング、5wより持続伸張を目的に回外装具を自宅で使用した。6w(治療10回目)経過時点で、浮腫は軽減し、皮膚の可動性も改善してきて、可動域は屈曲120°、伸展−20°、回内70°、回外35°であった。
 この時点で定例会において可動域制限因子、予後と今後の治療について検討していただいた。その結果、『橈骨頭のアライメントが変化しているため関節への負荷を軽減するためにも周囲軟部組織の十分な柔軟性を獲得すること、上腕筋や上腕二頭筋の腱の浮き上がりが確認できることから、これらの筋の伸張性を引き出していくことが必要である』というご指導をいただいた。
 エコーにて確認したところ短軸像で肘関節前方に瘢痕組織を認め、肘伸展に伴い上腕筋やECRLが横方向へ広がる様子がみられなかった。屈曲・伸展ともに橈骨頭周囲や前腕外側につまり感や突っ張り感を訴えられていたため、腕橈関節のモビライゼーションやECRLへのアプローチを行っていった。18w以降では回内位の方が肘の伸展がしやすいとか、外反を止めつつ肘伸展をしたり、橈骨頭にトラクションをかけつつ肘伸展したり、肘前方組織を徒手的に外側に寄せつつ肘伸展したりと橈骨頭周囲の操作を加えた方が肘の伸展がしやすく、肘頭窩の痛みが減少するということがみられたため、ECRLよりも前方の瘢痕組織の影響が大きいと考え、ここの柔軟性を高めるべく治療を進めていった。リハビリ開始から29wの時点で抜釘を実施し、その4w後の33wよりリハビリを再開。前方組織の柔軟性改善を中心に治療を継続していき42wで屈曲135°、伸展−3°、回内80°、回外80°となりJOA score91点まで改善した。
 可動域制限の解釈として、直達外力や骨折による橈骨頭周囲軟部組織の損傷、手術侵襲による軟部組織損傷、術後の屈曲・回内位での固定などから橈骨頭周囲、特に前方の拘縮は必発であると考えられ、本症例においてはここの問題が大きかったと考えられた。また肘伸展時に肘頭窩の痛みを訴えられていたため、ここの脂肪組織の硬さも疑ったが、橈骨頭周囲の拘縮により肘伸展時の関節運動がノーマルトラッキングから逸脱したものとなったことが大きく影響していたのではないかと考えられた。上腕筋とECRLの間で橈骨神経が通る周囲には脂肪組織が存在しておりエコー上ここの動きが少ないような印象があったため、ここの硬さが上腕筋やECRLなどの横方向への動きを制限していたのではないかと考えた。
 これに対しては、『それらの脂肪組織に上腕筋やECRLの動きを緩衝するような作用があるかは不明であるが、おそらくその周囲の結合組織の拘縮の問題であった考えられる』とご意見をいただいた。本症例を通して、橈骨頭周辺の外傷後において橈骨頭周囲の組織の柔軟性が非常に重要であることを再認識し、早期からこの周囲の拘縮予防に努めることが必要であると感じた。また、これだけ時間が経過した症例であってもその周囲の拘縮を改善することで可動域の改善が期待できるということも経験できた。

                                        (文責:平針かとう整形 稲葉将史)


症例4 60歳代 女性 SMON
病患者の一症例

症例は、60歳代女性でSMONsubacute myelo-optico-neuropathy)病の症例である。SMON病の臨床症状としては、激しい腹部症状に続いて「(キノホルム内服後)2〜3週で、両下肢に自覚的なしびれ感(じんじん、ぴりぴり感など)、下肢の脱力、起立・歩行の不安定が起こる」(難病情報センター)。こうした異常知覚(しびれ、痛み、麻痺)は、足裏から次第に上に向って広がり、歩行障害を生じる。ときに視力障害をおこし失明にいたる場合もある。また、内臓障害、膀胱直腸障害、あるいは性機能障害など、その影響は全身におよび、患者の日常生活機能を著しく低下させるとされているこの症例は、現時点では歩行はできているが荷重時の後足部の変形が著名で5年前のX-Pより明らかに進行している。筋力としてはあるが感覚障害があり歩行時の荷重動作で筋出力が十分発揮できなく足部の変形に対応できないと考えられ。異常感覚により装具の装着は拒否があり、靴も柔らかいものしか履けていなく、手術希望しない状態であった。検討課題としては、今後の変形予防のためインソールが可能かどうかということであった。フロアからは、変形は高度であり靴の硬度がないこともありインソールでの対応は困難である点、手術という観点からは、関節固定術ができたとしても後足部のみの固定になるため前足部との間でのトラブルも考えられ進行予防という点において疑問が残という意見がだされた。現時点での対応策としては、インソールをトライしてみるという意見や足底のアーチがしっかりしているクロックスを履くことも検討してみてはという意見が出され将来の起こりうる変形の進行に対して、効果としては、あまり期待できないのかもしれないが、保存療法にトライする重要性を再確認し、各治療法の限界を考えさせられた症例であった。

(文責:木村病院 神山卓也)