193回整形外科リハビリテーション研究会報告

2010.1.22 於:名駅モリシタ名古屋駅前中央店 会議室

症例1 30歳代 男性 アキレス腱断裂の1症例

 症例は30歳代男性である。バスケットボールの試合中、前後方向への重心切り替えし時にアキレス腱を断裂した。他院にて受傷翌日に腱縫合術が施行された。術後は特に理学療法の処方はされず、術後4週間強のギプス固定の後、術後8週まで徐々に荷重が許可された。部分荷重の調節は本症例自身が行い、術後72日で全荷重となった。術後8週の時点で、可動域制限が気になり、本症例自身の希望で当院を受診した。初診時所見は、ROMは背屈5°(健側15°)、底屈40°(健側45°)であり、深層屈筋(長母趾屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋)の柔軟性低下、Kager’s fat padの柔軟性低下、創部周囲皮膚の柔軟性低下を認めた。特に圧痛及び動作時痛は訴えられなかった。また、エコー所見において、背屈(伸張)に伴う断裂部の低エコー像の開大が認められた。1週間毎に同開大部を経過観察したところ、約10週にてエコー上での断裂部の離開は認められなくなった。理学療法として、自転車エルゴメータ、術創部周辺皮膚の柔軟性改善、Kager’s fat padの柔軟性改善、腓腹筋、ヒラメ筋の選択的ストレッチ、両足つま先立ち(平行棒内、負荷量12kg(体重比20%〜))が行われた。検討項目は、術後8週の、エコー上で断裂部が認められている時点で、可動域訓練、筋力トレーニング、歩行レベル(装具装着など)がどこまでなら安全かというものであった。フロアーからの意見では、開大の助長はelongationの危険性があるため、強い遠心性収縮を避けること、ROM exは開大する手前までにとどめる、補高歩行、1週間無理な伸張は加えず、エコー変化を見て、それまでは足趾の滑走性維持に努める、などの意見が出た。また底屈制限が認められたという点から、アキレス腱の滑走性が不十分ではないかという意見が出た。アキレス腱は底屈時には緩むのではなく、そのまま近位へ滑走するため、アキレス腱とKager’s fat padの癒着の存在が示唆された。そのため、底屈の自動運動をしっかり行うと良いのではという意見が出た。逆にこのエコー画像が本当に開大を示しているのかどうかという議論もあった。開大を認める部分はヒラメ筋の筋腱移行部であり、背側のアキレス腱実質部の開大は認められなかったためである。
 現時点では、術後8週の時点での、順調なアキレス腱修復の画像がどのようなものなのか判明できていない。アキレス腱が正常で回旋しているという解剖学的事実を踏まえながら、アキレス腱の質的変化や、再断裂しやすい症例、しにくい症例の画像がどのようなものかの判明が今後の課題となった症例検討であった。

                       (文責:吉田整形外科病院 太田憲一郎)


症例1 30歳代 男性 アキレス腱断裂の1症例

 現状歴はバスケットボールの試合中に前後ターン時に受傷した。翌日に退院にてアキレス腱の縫合術後に4週間のギブス固定を施行し、その後ギブス除去後にリハビリ処方なく、患者本人により術後8週までに徐々にFWBへと行う指示のみであった。術後8週経過にて足関節の関節可動域制限があり、本患者の希望にて当院受診し、リハビリを開始した。退院からの紹介状はなく、画像所見、手術所見などは一切不明である。

 初診時所見は独歩にて来室され、関節可動域は背屈5°(腱側15°)、底屈40°(45°)であり、左右差より長母趾屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋の柔軟性の低下とKager’s fat padの柔軟性低下を認めた。また下腿後面の術創部周囲の皮膚の柔軟性低下も認めた。圧痛、歩行時痛の訴えはなかった。エコー所見より背屈運動時に伴う断裂部の低エコー像の拡大を認めた。その後、エコー像は8週から11週までの経過を提示された。エコー像では経過を追うごとに断裂部の低エコー像の狭小を認めた。
 検討項目は術後8週経過の時点で運動療法としての関節可動域訓練、筋力増強訓練の強度であった。
 検討した結果はアキレス腱に強い等尺性収縮は避けるべきであるとの意見が得られたが、その程度までの判断は難しいものである。そこでアキレス腱への負荷を減らす方法として穂高が紹介された。通常、つま先立ちの場合は足関節から足趾までと踵までの距離は1対3の距離である。つまり体重60kgのつま先立ちではアキレス腱に3倍の180kgの張力が生じる。しかし、平行棒内で足底全体に接地するように穂高をするとアキレス腱の張力はほとんど生じなくなる。ただし、上肢支持をなくすとアキレス腱への張力は生じる。
 背屈の関節可動域の改善には後方の柔軟性の獲得にために背屈も重要であるが、まずは自動底屈運動の関節可動域を獲得をすすめることで、後方組織の筋、脂肪体、関節包などの柔軟性が得られ、背屈の獲得がえられやすい。
 エコー像による断裂部の拡大については最新の画像であり、その判断はまだまだいろいろな解釈があり、今後の多くの症例の経過観察をする必要がある。またエコー像の見かたとして、表層とその下にあるアキレス腱に離開を認めないためにアキレス腱断裂部の拡大はないのではという意見があった。
 今後、アキレス腱の手術例、保存例を含めてエコー像による経過観察による症例を多く報告し、その中からアキレス腱の運動療法の程度を判断できるようにする必要がある。

                               (文責:一宮西病院 田中和彦)


症例1 30歳代 男性 アキレス腱断裂の一症例

 症例は30歳代男性、バスケットボール試合中、前後ターン中にアキレス腱断裂。次日、他院にて再建術を行いギプス固定となる。術後4週半でギプス除去したがリハビリの処方はなく、自身の判断で徐々にPWBを増加させ、術後7週半でFWB開始した。術後8週時に可動域制限が残存し本人希望により理学療法開始となった。術式などは確認できず不明である。
 初期理学所見では背屈5°(健側15°)、底屈40°(健側45°)であり、長母趾屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋の柔軟性低下、Kager’s fat pad(以下、KFP)の柔軟性低下を認めた。また、アキレス腱に沿った創部に皮膚の柔軟性も低下していた。検討資料として、足関節背屈に伴った断裂部の低エコー像の開大と思われるエコー動画(術後8週)が示され、術後11週にはそれが消失していた。圧痛、歩行時痛はなく、他動背屈時にエコーにおける低エコー開大部周辺に伸張感を訴えていた。理学療法プログラムとしては自転車エルゴメータ、術創部周辺皮膚柔軟性改善、KFP柔軟性改善、腓腹筋・ヒラメ筋の選択的ストレッチング、平行棒内つま先立ち(負荷量12kg・体重比20%にて求心性収縮のみ)などを行っていた。
 術後8週時においての安全な可動域訓練、筋力トレーニング、歩行レベルについて検討を行った。フロアーから、皮膚の滑走性や長母趾屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋の滑走性改善、KFPの柔軟性改善を徹底することが重要との意見が出された。エコー像については、アキレス腱実質部表層については問題がないとの見方であった。また、アキレス腱の解剖学的走行として捻れがあることより、深層の低エコー像についてエコー照射角度の関係から足関節背屈に伴い開大しているように見えているのではとのことであった。アキレス腱断裂後、一般的に使用される補高装具について、荷重線と足関節底背屈軸との関係性や、足底の形状を考える必要があり、それによってアキレス腱に生じるストレスが変化することを知っておく必要がある。術後8週におけるアキレス腱に対する負荷の適正量については不明な点も多い。腱の修復過程として、約8週後より再構築期に入るとされているが、断裂後12週から18週においてelongationが生じたという内容の報告もあることからリハビリテーションを進める上で、術後の時期とアキレス健への負荷を考えることは非常に重要である。そのなかで腱周囲との癒着をいかに除去するかが重要であることを再認識する報告であった。
                                    (文責 平針かとう整形外科 田中夏樹
 

症例2 70歳代 男性 肩甲骨骨折

 本症例は70歳代後半である。住まいのアパートの階段(12)より転落し左肩を受傷した。その後、自力にて部屋に戻るものの疼痛により動けなかった。翌日、デイサービスの職員とともに他院を受診し左肩甲骨骨折と診断され、三角巾固定が施行された。自宅療養は不可能であるとの事にて当院を受診、入院となった。リハビリは翌日より歩行訓練、左肘・手関節の関節可動域の維持を目的に実施した。受傷後2週から左肩関節に対する運動療法を行った。なお、既往歴として脳梗塞がある。運動療法開始時の理学所見として肩関節の可動域はstooping exercise時の臼蓋上腕関節(以下、GH jt)40°、第1肢位外旋は60°であった。圧痛を烏口上腕靱帯、上腕二頭筋長頭腱、骨折部周辺に認め、骨折部の叩打痛も認めた。肘関節は伸展制限、手関節は前腕屈筋群の緊張の高さにともなう伸張性低下があったが左右差はなかった。実際の運動療法として、背臥位での棘下筋、肩甲下筋のrelaxationと大・小円筋のdirect stretchingstooping exerciseを施行している。現在の運動療法の是非及び今後の運動療法について検討したが、運動療法施行前に肘・手関節屈筋の緊張が高いという所見に対し脳梗塞の影響をしっかり評価する必要があるのではないかと思われ、Brunnstrom stageなどのlevelを評価する事が重要である。また、骨折部位を考え腋窩神経や肩甲上神経麻痺の危険性も考慮しなければならない。運動療法として骨折部の腹側面を肩甲下筋、背側面には棘下筋が骨折部を挟む形になっている事、骨折線がGH jtに及んでいない事を考えると、ある程度骨折部は安定しているのではないかと考えられる。また、骨折部の位置を考えると肩甲下筋、棘下筋ともに上方組織にあるためこれらのamplitudeexcursionの維持が今後の運動療法に重要である。今後、大・小円筋などが過度に短縮すると肩甲骨臼蓋の内側部(3骨片部)は筋の付着が少ない事より、上腕骨頭が肩甲骨の骨片を転位させる危険性も考えられる。以上の事を念頭に置き治療する事が必要であるのではないかと思われる。

(文責:吉田整形外科病院 宿南高則)

症例2 70歳代 男性 肩甲骨骨折
 症例は、アパートの階段(12段)から転落して左肩を受傷した。自力で部屋へ戻るがそこから動けず。翌日、デイサービスの職員に発見される。他院を受診し、左肩甲骨骨折と診断され、三角巾固定となる。自宅療養できないため同日、当院を受診し入院となる。翌日より歩行訓練及び左肘・手関節の可動域維持が開始され、受傷後2週より左肩関節に対する運動療法を開始した。既往歴として脳梗塞があり、左右両側に上肢・下肢に麻痺がみられる。左肩関節の運動療法開始時の評価では、圧痛を鳥口上腕靭帯、上腕二頭筋長頭腱、骨折部周辺に認め、可動域は1st positionでの外旋が60°、stooping ex時の臼蓋上腕関節は屈曲40°を有していた。また、叩打痛を認め、肘関節は伸展制限を認めた。レントゲン、3D-CTでは、左肩甲骨の大小菱形筋の境界部から肩甲棘の下部を通り臼蓋より下方へ向かう骨折線と、その線によって分かれた上部骨片を内外側に二等分するような縦方向の骨折線が確認できた。治療としては、背臥位にて自身の体幹にて肩甲骨を固定し、その状態で棘下筋、肩甲下筋のリラクゼーション、小円筋、大円筋のダイレクトなストレッチングが行われ、また立位でstooping exが行われていた。
 検討としては、受傷機転と現在の運動療法の是非、今後の運動療法について行われた。まず、脳障害の既往や合併のある患者の場合、その麻痺の状態を確認するためにBrunnstrom stageなど麻痺の程度を確認しなければならない。可動域制限が痙性など麻痺の影響により生じているのか、骨折の影響により生じているのかを確認するためである。それによって治療の内容も考慮する必要がある。痙性が強い場合には余分な運動が起こらないよう筋緊張を低下させるようなポジショニングや持続的なストレッチングを行う必要が出てくる。本症例は、痙性など麻痺の影響は弱い状態である。
 治療について、フロアから骨折部の離開ストレスに注意するといった意見が出された。CTの画像上、骨折部は大小菱形筋の境界部で離開しており、この部分は棘下筋と大小菱形筋が筋膜で連結しており離開する危険性は低いと考えられ、むしろ骨折部での拘縮を完成させないために走行が骨折線と一致している棘下筋の最上部の線維の収縮を出しておくことが重要であるという意見でまとめられた。しかし、肩関節屈曲角度を上げていく際、骨癒合が不完全な早期に屈曲最終角度まで上げることを繰り返すと、骨頭が外上部の骨片を内側へ押す動作が繰り返されることとなる。それにより臼蓋を含む外上部の骨片は陥入していく危険性がある。そのため、可動域訓練の際には注意が必要である。
 肩甲骨は血液供給も豊富で骨折も予後は良好であると言われているが、骨・軟部組織の状態(損傷部の状態、組織間の連結など)や運動によって加わる力学的なストレスなどは理解しておく必要がある。
                                      (文責:さとう整形外科 永田敏貢)


症例3 40代後半 女性 筋筋膜性腰痛と陳旧性外側半月板損傷と診断された症例

 症例は40代後半の女性である。本症例の主訴は常に左の腰部から膝裏にかけてつっぱり感と疼痛を感じるという訴えで、既往歴に1年前、左外側半月板損傷と診断されている。LM損傷のエピソードとしては特に起因となる外傷はなく、気づいたら膝が伸びなくなり、徐々に膝窩部周囲より疼痛が発生してきたという状況であった。
 初診時に「膝は常に伸びない」「膝を伸ばそうとすると腰まで痛くなる」「背臥位で寝ていると左大腿後面の緊張が上がり、だんだん痛みが強くなる」「ベッドで踵がはみ出した状態で寝ると楽」「足関節の前面をマッサージすると一時的に緊張が落ちる」という様々な訴えがあったが、まずは主訴に合わせ腰部〜膝関節にかけて評価を実施した。膝関節についてはROMknee jt flex/ext 150°/10°(s/s 150°/0°)でMc Murrayテストでは内旋+伸展でクリック音が確認された。圧痛は緊張が上がったハムストリングス、膝窩筋で確認された。股関節についてはROMは左右差なし、その他Over-tthomas-tは陰性で、SLR時では角度はほぼ左右差ないものの、ハムストリングスの緊張に差が見られた。腰についてはPLF-tにて左のみ陽性、また左側の腰部多裂筋に緊張亢進と圧痛が確認された。理学療法は膝後面のストレッチ、quadの筋力訓練、ハムストリングスのストレッチ、左腰部多裂筋のリラクゼーションを中心に実施した。しかし経過は一時的に回復するにとどまり、状況的に大きな変化は出なかった。
 次に初期の訴えの中でankleに関するものがあったためankleの評価を実施した。ROM・筋力に著明な左右差は見られなかったが、gustroTAに若干緊張亢進が見られ、背屈時に距腿関節で音が鳴る、踵骨を回外させると左下肢後面に疼痛が出現するなどの症状も確認された。そこで理学療法としてgustroTAのリラクゼーション、足部回内方向のストレッチ、長腓骨筋の筋力訓練を実施した。経過としては以前より伸展制限の改善が継続できたものの、23日で元通りになってしまい、自主訓練も継続したが効果の継続が困難であった。
 次にHip周囲の筋力を見ていなかったため、Hipの筋力を評価したところ膝伸展位での股関節屈曲、外転がMMT2レベルの状態で著明な筋力低下が確認された。そこで理学療法として同部位の筋力強化を追加した。経過としては今までの中で最も膝関節伸展可動域、腰部〜左下肢にかけての疼痛が軽減し、効果もかなり継続できるようになったが、まだ若干の膝伸展制限と疼痛が残存していた。ここで、この時点での本症例に対する考察、今後の治療についての検討をしていただいた。
 まず膝関節について、膝周囲の疼痛、伸展制限の要素として膝内反型のOA、薄筋のtightnesshunter管のentrapmentPLRIが影響しているのではというご指摘があった。OAについては歩行において回外接地のため内反ストレスがかかりやすく、またMRI所見においてMMが変性している部分が確認されているため膝伸展制限と膝窩部の疼痛を生じたのではないかと考えられた。薄筋についてはtightnessを起こしていると伸展制限につながりやすく、筋腱移行部に注射をすると伸展制限が改善しやすいという例もあり、また大腿内側後面の疼痛も訴えていることから可能性があると考えられた。Hunter管については大腿内側後面の痛み、膝内側、膝窩部の疼痛があることから伏在神経の拘扼による疼痛が考えられた。PLRIについては膝伸展制限があり、歩行での踵骨回外接地、膝窩筋に圧痛が確認されることから可能性があると考えられた。
 足関節については回外で疼痛が出現する、歩行時に回外接地であるということからインソール、テーピング等で回外を止めて疼痛が変化するかどうか評価する必要があると意見をいただいた。変化が出るのであればそれに応じて長腓骨筋の筋力訓練等を行うべきと考えられた。
 腰については膝伸展制限の期間が長かったため脚長差を生じ、これにより仙腸関節にストレスがかかり不安定性を生じて腰痛が生じていたのではないかとご指摘をいただいた。これに応じて骨盤固定化でのHipの検査、筋力評価、仙腸関節の圧痛、梨状筋の圧痛等の確認が必要となると考えられた。
 これらの意見をまとめると、様々な場所に症状は出現しているが、主の病変部位は膝であり、膝関節とその周囲をもう一度しっかり評価して、他に病変部位がないかどうか探すことが重要であるということが今回の症例検討で考えられた。

(文責:千葉こどもとおとなの整形外科 源 裕介

症例3 40代後半 女性 筋筋膜性腰痛と陳旧性外側半月板損傷と診断された症例

 40歳代女性である。左殿部から膝の裏にかけての突っ張り感を訴えて来院された。1年前にエピソードがなく膝関節伸展制限が出現し、徐々に疼痛を認めるようになった。左外側半月板損傷と診断されたものの、保存療法が選択されていた。仕事はデスクワーク中心であった。本人より、膝は常に伸びないこと、膝を伸ばすと腰まで痛いこと、背臥位では大腿の後面に緊張と痛みを認めること、ベッドから踵をはみ出させるようにして寝ると疼痛が軽減すること、足の前面をマッサージすると緊張と痛みが緩和されることなどの訴えがあった。投薬は鎮痛剤のみであった。可動域は、股関節においては問題がなく、膝関節伸展は−10°(健側は0°)、屈曲は左右差なし、背屈は患側が健側より5°少ない状態とのことであった。ハムストリングス(特に内側)、前脛骨筋および下腿三頭筋に過緊張を認めた。McMurray testは内旋位にて伸展を加えることで陽性を示した。筋力はSLRおよび股関節外転にて2レベルであった。筋力テスト中に疼痛を伴うことはないが、膝関節伸展位では各筋力が発揮できないとのことであった。著明な圧痛を認める部位はなかった。大腿から膝関節内側後面の疼痛は、鋭く走るような種類ではなく、背臥位、同じ姿勢の持続、長時間の歩行にて徐々に出現するとのことであった。夜間痛を認めることもあった。踵骨回外にて増悪する傾向にあった。歩行では、踵骨回外接地に続いて下腿の外旋が起こり、立脚期における膝関節の完全伸展はできていなかった。治療としては膝後面のストレッチング、大腿四頭筋の筋力回復運動など膝関節伸展制限に対する運動療法を中心に実施しており、症状は軽減する傾向にあった。しかし、日によって症状が増減するとのことであった。疼痛の原因について検討がなされた。フロアーより、腰椎や仙腸関節の運動と疼痛の関連についてもう少し詳しく評価する必要があること、左下肢の外側荷重を改善すべきなどの意見が出されたが、症状と所見との関連に乏しく病態の推察が難しいと考えられた。このような症例の場合、原因が1つであると決めつけると矛盾が生じてしまうため、複数の原因と症状が絡んでいる可能性が高いと考えられる。まず、膝関節内側の疼痛については、伸展制限を有すること、持続的に膝関節に伸展ストレスが加わり続けると徐々に出現すること、下腿外旋傾向にあることなどから膝窩筋のコンパートメント症状が疑われる。膝関節後外側回旋不安定症(PLRI)の有無や膝窩筋の圧痛などを丁寧に確認する必要がある。この場合、膝関節伸展制限の改善を図っている治療は1つの正解だと言える。踵骨回内で痛みが軽減し、回外で増悪する理由であるが、腓骨神経が牽引されて症状が出現している可能性があると考えられた。坐骨神経が殿部を通過する際に、梨状筋上口を通過する場合や梨状筋を貫く場合があり、腓骨神経のみが分かれて通過するものもある。同部位における神経症状を確認する必要がある。膝窩部とのdouble lesionの可能性もあり、絞扼を誘発している可能性がある筋の圧痛についても確認すべきである。この場合、神経の滑走を改善することが治療となる。膝関節内側の疼痛であるが、大腿神経支配の筋の筋力低下を伴っていることから、大腿神経および伏在神経の絞扼の可能性が考えられた。腰神経叢やHunter管のいずれかもしくは両方での絞扼も考えられ、筋の圧痛や神経症状の有無、痛みを訴えている部位における圧痛の有無を確認する必要がある。また、薄筋の短縮が原因となっている可能性もあり、薄筋の筋腱移行部付近における圧痛の確認が必要である。その他に、脚長差が仙腸関節の機能障害を引き起こし、仙結節靱帯が過伸張されることで同靱帯と連結を持つハムストリングスを介して症状を引き起こしている可能性も考えられた。様々な病態が考えられるが、膝関節の伸展制限を改善することに加え、足底板などで回外接地しないように足部のコントロールするべきであるとの見解が示された。その上で梨状筋を含めた骨盤周囲の評価を進める必要があると考えられた。本症例のように解釈が難しい場合も、安易な対症療法に走ってしまうのではなく、訴えや経過から病態の予測を行い、11つ丁寧に所見をとって原因を探っていくことが重要であると考えられた。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)