195回整形外科リハビリテーション研究会報告

2011.3.26 於:シャトル栄店 会議室

症例1 50歳代  男性 ダッシュボードインジュリーの既往があり著明な股関節拘縮と下肢痛を有する症例

 50歳代男性である。30年前に交通事故にて股関節を脱臼し、保存療法を受けた既往がある。その時から股関節痛を生じていたが自制内であった。3ヶ月程前に誘因なく歩行時に右殿部と右下腿内側に激しい痛みが出現したため、受診したところ右変形性股関節症と診断された。歩行時の踵離地期に出現する右股関節における可動域の改善と下肢痛の除去を主訴として理学療法が開始された。股関節の可動域は、屈曲20°(健側:110°)、外転5°(20°)、伸展5°(10°)、屈曲0°での内旋−20°(0°)、屈曲0°での外旋40°(60°)であった。股関節の筋力は、伸展4(健側:5)、外転4(5)、屈曲2(5)であった。殿筋の萎縮が著明であった。下肢長は、SMD85cm(健側:86.5cm)TMD81cm(81cm)であった。骨盤負荷テストは、Newtonテスト変法にて陽性(軽度)PatricテストおよびGaenslenテストには陰性であった。骨盤ベルトを装着することにより「楽になる感じがある」との訴えがあった。安静時痛を認めず、片脚立位など荷重のみでは症状は再現されなかった。股関節周囲および下腿内側周辺の圧痛は認められなかった。理学療法としては、仙腸関節における柔軟性の改善、腰椎および胸椎における可動性の改善、骨盤ベルトによる固定、股関節内圧の軽減目的とした牽引操作等を実施していた。開始後、股関節前方部に疼痛を認めたため、牽引操作を中止した。治療4回目には、殿部痛がかなり軽減していたが、踵接地期および踵離地期に鼠径部痛が出現するようになった。単純X線写真およびCT画像上では右股関節の変形を認めた。デュシャンヌ歩行を呈しており、全周期を通して股関節外旋位となっていた。右鼠径部痛および右下腿内側部痛の原因および今後の治療方針について検討された。なお、殿部痛とは仙腸関節付近の限局した疼痛を指しているとのことであった。フロアーより、殿部痛は仙腸関節由来と考えられ、骨盤ベルトでの固定と股関節前方組織の拘縮治療が有効ではないかとの意見が出された。また、下腿内側は伏在神経、鼠径部は大腿神経由来の可能性があるとの意見があった。また、股関節内旋制限の制限が股関節前方へのストレスを増大させて疼痛を起こしている可能性についても言及された。股関節の可動性があるという前提で話が進められていたが、CT画像上では、骨頭と臼蓋が前方部分で癒合しており、関節強直になっているのではないかとの指摘があった。計測された股関節の可動域については代償運動の結果である可能性があり、骨盤を固定した状態で確実に股関節可動域測定する必要があると考えられた。強直であれば、股関節の可動域を改善して疼痛の軽減を得ることは運動療法では困難となる。腰椎部の単純X線画像上では、L2/3付近を中心に骨の変形が強く、神経根症状の可能性があると考えられた。この場合、知覚テスト、腱反射、筋力テストを十分に行い、問題がないか確認する必要がある。もし、神経根症状の原因が長年かかってできた腰椎の変形など構造上の問題である場合は、手術も選択肢となってくる。神経根症状が軽度であれば、神経滑走回復運動によって改善できる可能性があると考えられた。下腿内側については、股関節外旋位で歩行していることから伏在神経が縫工筋を貫いている部位についても所見をとって確認する必要があるとの意見が出された。股関節の問題が原因で、二次的に他部位へ障害を起こしているのであれば、人工股関節全置換術も視野に入れて関わっていく必要があると考えられた。本症例のように、長い経過の中で生じた複数箇所の疼痛であっても、経過や画像所見、問診等から病態を予想し、関節可動域や筋力、腱反射、感覚、圧痛、疼痛再現・軽減条件等の基本的なテストを確実に実施することが解決への糸口になることを再確認できた症例であった。理学療法で解決できる問題と解決できない問題についても整理しておきたいところである。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)