197回整形外科リハビリテーション研究会報告

2011.5.21 於:名駅モリシタ名古屋駅前中央店 会議室

症例1 20歳代 男性 左肘関節脱臼後の一例

 症例は23歳の男性で、サッカープレーに後方に転倒し左肘関節脱臼受傷し、同日他院にて整復シーネ固定された。約3週間後にシーネを除去され、自動運動のみの指示で理学療法が処方された。可動域は肘屈曲95度、伸展−55度、前腕回内外は制限なかった。圧痛は上腕筋、LCLPOLに認め、屈曲最終域ではPOLに、伸展最終域では前面に疼痛が出現していた。尺骨神経領域の感覚障害、痺れや疼痛などの症状は出現しておらず、浮腫は肘頭内外側に若干認める程度で、内反ストレステストは陰性、外反ストレステストは陽性で、POLに疼痛が出現していた。治療は上腕筋の反復収縮によるリラクゼーションやゴムボールを利用しての肘屈伸自動運動が行われており、11日間後には、屈曲100度、伸展−10度となっており、最終域での疼痛は屈曲では変わりなく、伸展では肘頭窩に詰まるような疼痛に変化していた。可動域制限の解釈と予後、今後の治療内容や評価について検討された。
 まず、PLIRなどの不安定性が存在しているかもしれず、不安定性の確認を進言された。また、肩関節や前腕、手関節の肢位を変えた際に、可動域に変化があるかどうかを確認し、2関節筋の関与を探ると良いと意見があった。レントゲンで若干の骨委縮が指摘され、十分に筋収縮の刺激を与えるのがよいとされた。現在、屈曲可動域は100度で、ADLにも支障があり積極的に可動域の拡大を図る必要があり、そのためには装具の使用や後方関節包のストレッチなどを含めた他動的な刺激も必要になると思われ、担当医との意見交換を行うべきであるとされた。現在の可動域制限因子としては、内側頭と関節包の連結周辺組織の伸張性や柔軟性の低下と推察され、内側頭を積極的に筋収縮させていく必要性を確認した。また、現在、尺骨神経症状は出現していないが、今後屈曲可動域の増大に伴い症状出現する可能性が指摘された。それを踏まえて、尺側手根屈筋を積極的に筋収縮させて、尺骨神経が走行していう肘部管周辺の柔軟性の維持をしておくとよいと助言があった。
 本症例は、シーネ固定中に理学療法が処方されておらず、その間に拘縮が進行したと考えられた。一旦出来上がった拘縮を除去するには長期間必要となり、患者側・治療側ともに辛抱強く治療に取り組まなくてはいけない。拘縮予防の重要性を再認識した一例であった。

               (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)


症例2 20歳代後半 男性 左大腿骨骨幹部原発Ewing肉腫の1症例

 20歳代後半の男性である。来院10年以上前にEwing肉腫と診断され、他院にて大腿四頭筋を中心とした広範切除術をされた。その後、左膝関節の可動域制限が強く、授動術が施行された。患肢温存にて歩行の再獲得を目指して機能的筋移植も行われたが、その後に骨髄炎や骨軟化を繰り返し、病巣郭清術や骨移植・接合術が数回行われた。その後も大腿骨顆上骨折を起こすなど状態が悪化したため、来院2年前に大腿骨骨幹部の全摘出および髄内釘挿入手術が行われ、来院1年前に人工大腿骨置換術を施行した。脛骨関節面もコンポーネントの挿入が行われており、人工大腿骨の延長上に人工膝関節を有する構造になる。大腿骨に付着する筋は切離され、大腿四頭筋は大部分が切除されている。大腿直筋の一部が残存しているかどうかは不明である。前院で加療された期間も理学療法が行なわれ、脚長差に対する補高を行った状態での両松葉杖歩行を獲得した。リハビリテーション目的で来院され、週1回の外来理学療法が開始された。初診時、関節可動域は股関節屈曲80°(健側95°)・伸展−10°(20°)、膝関節屈曲70°(145°)・伸展−20°(0°)、足関節背屈−5°(10°)、筋力は股関節屈曲2(健側5)・伸展3-(4+)・外転2-(5)・内転2-(5)、膝関節屈曲3+(5)・伸展1(5)、足関節背屈4(5)・底屈2+(5)SMDは患側71cm・健側83cmTMDは患側65cm・健側79cmであった。歩行では、立脚期において股関節および膝関節の伸展、足関節背屈の不足がみられ、足底接地と荷重ができていない。本人の希望と前院の担当医師の情報から、片松葉杖またはT字杖での歩行獲得を目標に設定し、半年間の理学療法を実施した。その結果、関節可動域は股関節屈曲90°(健側95°)・伸展0°(20°)、膝関節屈曲95°(145°)・伸展−20°(0°)、足関節背屈0°(10°)、筋力は股関節屈曲2(健側5)・伸展3-(4+)・外転2-(5)・内転2-(5)、膝関節屈曲3+(5)・伸展1(5)、足関節背屈5(5)・底屈2+(5)へと若干の変化を認めたが、機能および歩行能力にほとんど改善がなく、治療に難渋している。なお、可動域制限は明確な抵抗感を伴っており、大腿前面の皮膚は骨髄炎によるポケットがようやく塞がったところである。今後の治療プログラムやゴール設定について検討された。大腿四頭筋の筋力回復が全く期待できない中で歩行を獲得しようとする場合、荷重によって足部が固定された状態で、下肢後面の筋群の収縮によって大腿骨遠位部と脛骨近位部とを後方へ引くという機能を利用して膝関節の伸展位を保持するのが一般的な方法である。しかし、本症例では脚長差に加え、股関節および膝関節伸展の可動域が制限されており、高度な拘縮となっていることから、可動域改善のための徒手やスピードトラック牽引、装具等での持続伸張を試みてもよいのではないかとの意見があった。ただし、感染を繰り返したことから大腿部の皮膚の状態も良くないため、大腿部に何かを巻くことに耐えられない可能性もあると考えられた。週1回の通院にて持続伸張の効果を得ることは難しいのではないかとの意見があった。観血的授動術等によって可動域を得る方法も提案されたが、感染が危惧された。坐骨支持での長下肢装具を製作するとの意見もあったが、脚長差や膝関節の伸展制限等を考慮すると、重量化することも予想され、実用性については疑問視された。切断も選択肢として考えられたが、患肢温存という方針で実施しており、歩行へのニーズも高いことから、現状では難しい提案であると判断した。機能再獲得のための理論としては様々な方法が考えられたが、現実的にはかなり難しく、有効な手段の提案には至らなかった。本症例のように、歩行に必要な機能の再獲得が非常に困難な場合、理学療法を通じて障害受容をしていくことが目的なのか、実用歩行の獲得を目指すことが目的なのか、その位置づけが重要であり、生命予後やQOLも考慮して医師と方針の確認を行うことが必要であると考えられた。機能回復による動作能力の獲得のための治療、残存機能にて動作能力を獲得のための練習、残存機能で動作を可能にするための支援、障害受容と今後の生活に前向きになっていただくための接し方、医師の診断の補助など理学療法士ができる役割とともに、広い視野での関わることの大切さを再確認した症例であった。

 

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)