199回整形外科リハビリテーション研究会報告

2011.10.15 於:名古屋会議室 名駅西口店

症例1 40歳代 女性 第34中足骨骨折/立方骨骨折/1楔状骨骨折を呈した一症例

40歳代女性。助手席に体育座りで乗車中、車が壁に激突し受傷した。他院にて上記診断され足関節底屈位でギプス固定された。4週間後にギプス除去(その間リハビリテーションはなし)となり、受傷から5週間後に理学療法開始となった。初診時所見として、浮腫を足部全体に認め、安静時痛や熱感はなく、圧痛もほとんど認めなかったが、足関節自動背屈では−10度、他動背屈では10度で足関節前方部に疼痛(VAS6)が出現していた。足関節背屈時痛出現肢位で、足趾に伸展ストレスを加えても背屈角度や前方部痛に変化は認めなかった。底屈は40度で特に疼痛はなく、足趾に屈曲ストレスを加えても疼痛出現しなかった。筋力は足趾の屈伸、足関節底背屈ともにMMT2レベルであった。その他の所見として、足底部に内出血斑があった。この時点での、背屈時前方部痛の解釈と今後の運動療法について検討が行われた。背屈時痛の解釈としてフロアーからは、足底部に内出血斑があった事より、おそらく足底部から外力が加わり中足骨基部には過伸展ストレスが、足関節には過背屈ストレスが、同時に、足関節後方組織には過伸張ストレスが加わったのではないかと推察し、その後に4週間底屈位でギプス固定されたため後方組織の伸張性低下による前方での軟部組織インピンジメントが生じているのではないか、との意見や、足関節前方部にある脂肪組織の柔軟性低下が関係しているのではないか、などの意見が出された。その後、検討者から初診時のエコーを提示しながら運動療法の内容と経過について説明があった。エコーでは、前方の関節包内脂肪体の可動性に左右差を認めていなかった。前方部痛出現時に足趾を伸展させても可動域・疼痛に変化がなかった事より、この前方部痛には、後方組織の機能障害は関与しておらず、前方組織の機能障害が関与していると推察した。長趾伸筋、長母趾伸筋、前脛骨筋など背屈筋群の収縮を促すことで背屈時痛は徐々に軽減し、その後は後方組織のストレッチングを追加して、加療2週間後には可動域左右差なく前方部痛も消失していた。この経過より、前方部痛は、伸筋腱の近位滑走時に関節包と伸筋支帯の間に存在する疎性結合組織に牽引力が加わることで発生していると推論された。しかし、底屈制限はあるものの伸張痛はなく、その肢位で足趾を屈曲して伸筋腱を遠位滑走させても疼痛が出現しなかった事を考慮すると疑問が残る。エコーによる観察では、疼痛出現時と消失時の関節包内脂肪体、腱、腱周囲疎性軟部組織の動態を比較したが、両者の違いを明確に言及できなかった。
 また、フロアーから、他動/自動で疼痛出現角度に差がある事について質問があった。他者より、足関節他動背屈時には足関節背屈筋群が緊張してくるが、距骨を後方へ誘導すると緊張が緩和される現象が紹介され、このように、他動運動といえども筋の張力が発生している可能性があり、他動運時の疼痛であるからと言って、筋の張力を考慮しないのは早計であり、今回の疼痛には筋の張力が関与している可能性が指摘された。
 今後の治療の注意点としては、X線より、第34中足骨底部に横骨折と立方骨と第1楔状骨の骨折から前方からの軸圧と外反ストレスが加わった可能性が示され、リスフラン関節周辺は捻じれストレスが生じやすいので、骨癒合が十分でない時期には捻じれストレスを抑制することと、足部の機能障害による二次的な膝や腰などの障害も予防する必要性があり、インソールなどで荷重時のストレスをコントロールする事が指摘された。
 疼痛は消失し可動域も回復しているので、治療内容としては適切であったと言えるのだが、今回の検討では、疼痛の原因を明確に言及できなかった。臨床では、症例の訴える疼痛に対して説明がつかない事例が多々存在する。どんな組織のどんな動態が「その疼痛」に関与しているかを、経過から導き出すには、条件を幾つか変えたうえで、あらゆるストレスを与えてみて、疼痛・可動域・筋緊張などの変化を詳細に確認しておく必要がある。臨床においては、まだまだ不明な事象は多々ある。丁寧に所見を確認し、現病歴・既往歴・解剖学・生理学・運動学などに照らし合わせて考えていくことで、これらの解明に繋がることを痛感させられた一例であった。

文責:平針かとう整形外科  岡西尚人

症例2 30歳代 男性 外傷による上腕骨開放性骨幹部骨折を受傷し橈骨神経麻痺を合併している1症例

 症例は30歳代の男性である。診断名は右上腕骨開放性骨幹部骨折、橈骨神経麻痺である。現病歴は、仕事中に電柱とクレーン車との間に肩関節外転・外旋位の状態で30秒ほど、上腕部を挟まれた。その後救急搬送となり、同日創外固定術を施行された。受傷時の知覚は腕全体に重度の鈍麻を認め、随意運動は不可能であった。
 術中の所見として、尺骨・正中神経、上腕動脈の肉眼的損傷はなかったが、上腕二頭筋は一部断裂していたため縫合された。小方針として、創外固定の期間は術後68週を予定されており、肘関節の自動運動は術後3週より開始された。
 理学療法開始時には、右上腕〜手指にかけて腫脹を認めた。手関節・手指ともに可動域制限は認めなかった。手関節掌背屈筋および手指伸筋・屈筋のMMTは1レベルであり、握力は0kgであった。感覚は母指〜環指の背側および前腕背側に鈍麻を認めた。Tinel徴候は認めなった。この時期の運動療法としては、腫脹の管理を徹底するとともに、橈骨神経支配筋の筋力増強訓練と手関節における拘縮予防を実施した。また、橈骨神経麻痺に対してはcock up splintを用いた。
 2週後の評価では、腫脹は右上腕〜前腕遠位1/3となった。上腕二頭筋・腱、上腕筋、MCL、上腕三頭筋停止部、回外筋に圧痛所見を認め、回外筋の圧迫によりその遠位部に放散痛を認めた。この時期には肘関節の自動運動も許可され、可動域は屈曲75°、伸展-35°であった。MMTでは肘の屈筋および伸筋は23レベルとなったが、長母指伸筋、長母指外転筋、総指伸筋は1レベルであった。握力は7kgであった。感覚は母指〜環指の背側および前腕背側に鈍麻を認めた。前腕背側部においてTinel徴候を認めた。この時期では上腕筋、上腕三頭筋の反復収縮、愛護的な上腕三頭筋および肘関節屈筋群のstretchingを追加した。また、装具療法としては、長母指伸筋・長母指外転筋・総指伸筋の筋力増強にてIP関節の伸展は可能となったが、MP関節の伸展が認めなかったため、自動介助運動目的にてdynamic splintを選択した。
 さらに約3週後の評価では、腫脹は右上腕〜前腕近位1/3付近まで減少した。上腕二頭筋腱移行部、回外筋に圧痛所見を認め、肘関節のROMは屈曲110°、伸展-10-5°まで改善した。感覚、Tinel徴候の大きな変化はないものの、MMTでは肘屈筋及び伸筋は3レベルに、手指においては総指伸筋は依然1レベルのままであるが、長母指伸筋・長母指外転筋においては23レベルまで改善した。
 以上の様な症例に対して、後骨間神経麻痺様の症状に対しての理学療法(評価・治療)について、dynamic splintの適応について、創外固定抜釘後の理学療法を進めるにあたり注意すべきこと、について検討した。
 本症例は、筋力および肘関節の可動域は順調に回復しているため、必要となる運動療法としては、手関節および手指の拘縮を作らないことである。また、肩関節においても同様の事が言える。創外固定中の方が安定しているため、固定期間中に肩関節の可動域の改善を試みるのが望ましい。しかし、本症例では骨折部に対してそれぞれ一本づつしか固定されていないため、固定性への過信(特に回旋力)は注意すべきである。肩関節のROM改善も当然ながら必要となるのだが、橈骨神経溝付近の骨折という事を考えると同部での橈骨神経の癒着も考えられるため、橈骨神経の滑走性の改善・維持を行うことが重要である。
 装具療法については、必要と不必要の両意見があった。この意見に際しては、総指伸筋の機能がポイントとなっている。総指伸筋腱を近位より牽引するとMP関節は伸展するが、IP関節は伸展しなく、MP関節を固定した状態にて総指伸筋腱を近位に牽引するとIP関節が伸展する。すなわち、総指伸筋の活動性がよく現れるのが、MP関節の伸展ということになる。よって、不必要側の意見はこのMP関節の伸展がactiveなのかpassiveなのかが分かりにくく、総指伸筋の回復の判定の妨げになるというものであった。一方、必要側の意見は総指伸筋の反復した自動介助運動を行えるといったものであった。どちらにしても、現時点では、総指伸筋にての手指伸展ではなく、手内筋によるものであるため、再度手内筋の鑑別が必要という意見もあった。
 また、可能であればエコーによる骨折部の血流の改善を見てはどうかという意見もあった。
 非常に難しい症例であるが、神経の回復過程や、時期に応じた運動療法の展開をもう一度考えさせられる症例であった。

                  (文責:吉田整形外科病院 細居雅敏)

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