200回整形外科リハビリテーション研究会報告

2011.11.19 於:名古屋会議室 名駅西口店

症例1 60歳代 女性 高度の右外転および左内転拘縮を呈した両変形性股関節症に対し、右THAを施行された一例

 60歳代女性。12年前より左股関節痛が出現し、手術も考慮されたが、右股関節痛の出現、増悪により、先に右THAを施行された。術前の単純X線写真では、左側骨盤が挙上し、右股関節が外転位、左股関節が内転位を呈し、左側は骨頭の変形と上外方への転位とを伴っていた。THAは後方アプローチにてセメントを用いて行われ、脱臼傾向等の特記事項はない。術後の画像ではアライメントの変化を認めず、右股関節外転拘縮が残存した。術後4週が経過し、安静時痛、動作時痛、歩行時痛は認められなかった。歩行時、右下肢は股関節屈曲・外転位、膝関節屈曲位にて荷重し、左下肢は股関節屈曲・内転位、足関節底屈位にて尖足位荷重となっており、上体は右前に傾斜していた。可動域(/)は、股関節屈曲80°/80°、伸展0°/10°、外転−5°/30°、内転20°/10°、外旋30°/15°、内旋−10°/10°、体幹側屈25°/15°、膝関節伸展−5°/5°であった。右股関節の制限は、術前とほぼ同様の抵抗感を伴っていた。足関節可動域の制限はない。筋力(/)は、屈曲4/4、伸展4-/4-、外転3/4、内転3/4、外旋4/3、内旋4/4であった。下肢長(/)は、SMD74.5cm/76.0cmTMD73.0cm/72.0cmであった。運動療法としては、右股関節外転筋(中殿筋、大腿筋膜張筋)の等尺性収縮・ストレッチング、左腰方形筋、左腹斜筋群の反復収縮・ストレッチング、胸郭柔軟性改善、バランスボード上での体幹トレーニング、左股関節内転筋のストレッチングを実施している。約2ヶ月後に予定されている左THAまでに行うべき運動療法の内容、右股関節拘縮除去の意義や方法論等が検討された。フロアーより、左側THAまでにすべきこととして、右股関節内転位、左股関節外転位での荷重位を保持できるようになることが挙げられた。単純X線写真において左大腿骨頭は臼蓋の上外方に転位しており、脱臼位にて動いていると想像できる。このままでは、左THA後に足底接地ができず、術前よりも歩行能力が低下する可能性があるとの意見が出された。また、単純X線写真の骨盤の向き、ステムの向きから右股関節は外転位のみでなく、屈曲位になっている可能性が高く、改善の必要性が示されるとともに、骨盤を確実に固定した状態で股関節の可動域測定を行い、拘縮の程度を正確に把握する必要があるとの指摘があった。現在のアライメントで歩行を続けることで、右仙腸関節や左腰椎椎間関節等に痛みを惹起する可能性がある見解が示された。右股関節外転拘縮に対して、持続伸張や直接的伸張、反復収縮後のストレッチング、等尺性収縮などが有効ではないかとの意見が出された。セルフエクササイズとして、右側臥位で股関節下に枕を置いての持続伸張が紹介された。一方で右側THAのステムにはセメントが使用されており、術後の固定性は高いが、徐々に強度が低下するため、本症例のように高度な拘縮を改善する際の力学的ストレスの加わり方に注意すべきではないかとの指摘があった。今回は、左THAを前提とした運動療法について検討したが、本症例は、跛行を呈するものの歩行時痛はなく、左THAが必要かどうか疑問であるとの意見があった。手術は、今以上の能力になることを期待して行うものであり、現状では歩行時痛がないことと跛行による二次的障害や転倒リスクとを考慮する必要がある。医師の治療方針を十分確認し、よく協議した上で進めていくべき症例であると考えられた。

(文責:伊賀市立上野総合市民病院 猪田茂生)


症例2 20歳代 男性 スノーボードにて転落し大結節骨折後に疼痛が残存し難渋している一症例

  症例は25歳男性である。仕事は製造業であり、重量物の扱いはあるが肩関節下垂下でのライン作業が主である。2月中旬にスノーボード中、パーク内で5mの高さから落下し、右肩を強打した。受傷機転は上肢内転位での直達外力であった。2日後に受診し、右上腕骨大結節骨折と診断された。骨折の程度はレントゲンでは不明であり、CT画像で確認できるほど軽微であった。仕事中の肩痛が軽快せず5月中旬に運動療法が開始となった。初診時理学所見として患側挙上が160°、1st外旋65°/75°(患/健)でありSSP testISP testSpeed testYargason testが全て陽性であった。LHBの圧痛は認めなかったが、glidingでは疼痛が出現した。また、僧帽筋中・下部線維MMT2 levelであった。初期の治療内容はPumpingを用いた循環改善、LHB stretchingC-H ligament stretching、小円筋、PIGHL stretchingを行っており、LHBone point indication様の疼痛が残存していた。6月初旬の関節注射、7月下旬のSAB注射では、一時的な効果を認めたが疼痛が再燃した。10月下旬には大結節骨折は完治しているもののLHBより内側〜烏口突起間に疼痛(以下前方部痛)が残存していた。この時期の理学所見は(患/健)1st外旋65°p/75°、2nd内旋30°p/45°、3rd内旋0°p/15°で1nd外旋・2nd内旋・3rd内旋では前方部痛が出現し、水平内転でも同様の疼痛が出現した。また、肩甲骨内転位固定化での他動1st外旋や、他動1st外旋に骨頭を後方に押し込むと疼痛は出現しないが、G-H J内外旋中間位・前腕回内外中間位にて棘下筋の等尺性収縮時には疼痛が出現し、肩甲骨を内転位にしても変化がなかった。また、超音波エコーによる観察では肩甲下筋上部線維の変性やC-H ligamentの肥厚が認められた。
 検討項目として、様々な条件下で生じる前方部痛の解釈および今後の運動療法の展開について話し合われた。
 本症例の前方時痛は、骨頭の後方への操作による疼痛の軽減や、疼痛部位などの条件から、骨頭が求心位を保てず、前方移動することによって前方組織がimpingementstretchingされたことによるもので、いわゆる骨頭の前方へのinstabilityではないかとの意見があった。また、前方へのinstabilityが肩甲下筋前方線維の機能不全やSGHLMGHLの損傷により生じている可能性もあり、前方への移動過多を助長する因子である後方の伸張性を詳細に再評価する必要がある。特に後上方の硬さは強固になることが多く、この部位の硬さが最後まで残存している場合がある。一方、前上方組織自体の柔軟性が低下しており、impingementされやすい状態になっているのではないかとの意見も出された。本症例の前方部痛については不明な点が多い症例であるが、少なくともG-H Jの拘縮が残存していると考えられ、そのためには肩甲骨をきっちりと固定し、G-H J固有の可動域制限および拘縮の部位を正確に評価し、的確に治療を行うことの重要性を再認識した症例であった。

文責 平針かとう整形外科 田中夏樹