211回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.01.19 於:名古屋会議室 名駅西口店


症例1 20歳代前半 女性 右股関節唇損傷と診断された一症例

本症例は、約10年前に右股関節痛が出現して以降、疼痛の増悪・軽減を繰り返している症例である。H15H20H22H24には股関節鏡手術を、H24にはGANZアプローチによる手術が施行されている。H24年の手術以降も右股関節前内下方の疼痛が残存しており、現在入院加療中であるが疼痛により股関節外転・外旋位からほとんど可動性を認めず、ベッドサイドでのリラクゼーションのみが可能である。患側股関節のROMは疼痛軽減時の最も動けるときで、屈曲60°、伸展5°、外転30°、内転-5°、外旋30°、内旋-10°であり、圧痛は腸腰筋・恥骨筋・大腿直筋・内転筋群・Hunter管に認めた。患側股関節前内下方の疼痛はどの方向に下肢を動かしても認め、疼痛が減少する運動・姿勢は一定していない。医師からの情報では、関節内注射実施時に疼痛の軽減により股関節の可動域は健側同等まで回復するが、大腿直筋のトリガーポイント注射時には疼痛の減少を認めなかった。この症例に対して、疼痛の解釈・足りない評価項目・今後の運動療法の進め方について検討していただいた。

フロアーからのご意見として、疼痛の解釈については、MRIより関節内の病変・前方組織の筋萎縮などはみられないが後方筋群の萎縮が目立つ。これにより、後方・外側のtightnessが生じ骨頭の前方変位が生じ前方組織のimpingement・閉鎖神経へのストレス・滑膜刺激が生じ疼痛が出現(oblique impingement)したとご意見を頂いた。また、長期にわたる経過の中で、外旋・外転位肢位が固定化され、そのため関節拘縮が生じたこと、関節唇が切除に伴う骨頭の不安定性が運動軌跡を乱し疼痛が出現したことが挙げられた。評価については、後方組織の圧痛などを各肢位において評価すること、健側を患側と同様の肢位でROMを計測すること、少しでも疼痛が軽減する肢位を探求することなどが挙げられた。

総括として、冠状断のMRIで健側と比べ頚部が前方を向いていることなどから、後方組織の拘縮によりoblique impingementを生じ疼痛を認めたと考えられる。これの運動療法としては、疼痛の少ない外転位から骨頭を後方へ誘導しながら徐々に内旋可動域を獲得し、さらに、内転・屈曲の可動域を徐々に獲得していくことをご教授いただいた。また、GANZアプローチで関節包を切離・縫合しているため、前方関節包の拘縮も生じている可能性があり、これに対する運動療法としては、大腿直筋は下前腸骨棘と前方関節包から起始しているため直筋の収縮を出していくこと、直筋腱が大腿骨頚部と交わる部分は付着がなくその間には脂肪組織があると予測できるため、そこの柔軟性を出していくことをご教授頂いた。

今回の症例を通して、疼痛の出現している部分のみに着目するだけでなく、長期における経過を踏まえたうえで評価、運動療法を行っていくことが重要であることを再認識させられた。

(文責:四日市社会保険病院 伴野真吾)






症例2 40歳代 女性 橈骨頚部骨折を呈した一症例


 今回、橈骨頚部骨折を呈した一症例の理学療法を経験した。初期には腕神経叢が関与した疼痛や骨折部の不安定性に配慮し、骨癒合が確認されてから積極的に可動域訓練を行うことで良好な結果が得られたので、その過程について報告した。また、不安定期と判断された時期の治療内容について疑問が残ったのでご助言いただいた。

 症例は40歳台の女性である。某日、転倒して手を付き受傷した。翌日、当院に来院し橈骨頚部骨折と診断され、ギプス固定となった。受傷3週後のレントゲン所見で骨折部の軽度の転位を認めた。骨癒合を促進する目的で、ギプスの骨折部付近を開窓し超音波治療器(シグマックス社製、アクセラス)を用いた治療を開始した。受傷4週後、仮骨形成が認められたため、肘関節屈伸可動域の改善を目的に運動療法を開始することとなった。回内外運動は禁忌であった。

 初診時では、肘屈曲100度、伸展−30°、前腕回内0度、回外80度、手関節背屈50度と可動域制限が認められた。関節運動時の疼痛は、屈曲時には肘後方にみられ、伸展時には前腕前外側部を中心に訴えられたが、肘前外側や内上顆後方から上腕後内側、肘頭窩などに訴えることもあった。疼痛の訴えが広範囲に及んでいたことから、肘関節の骨折以外の問題が関与していることも考慮し、さらに問診を進めた。ギプス固定中に上肢を重く感じ、肩こり感も強かったことが確認できた。そこで頚部・肩甲帯周囲の所見を確認すると斜角筋や小胸筋、中位頚椎椎間孔に圧痛所見を認め、上肢への放散痛もみられた。このため腕神経叢の緊張が症状に関与しているものと考え、臥位や座位などでクッションを用いて上肢の支持を加えたところ上肢が楽になるという反応がみられた。また頚部や肩甲帯周囲の筋緊張を緩めると肘の運動時痛も軽減した。

 受傷後5週の時点で前腕部の疼痛がほぼ消失し、肘屈曲105度、伸展−10度となっていた。疼痛がみられたのは、肘屈曲時では後方、伸展時は肘前外側、肘頭窩、内側筋間中隔周囲であった。回内外運動はまだ禁止されていたため、上腕三頭筋や上腕筋のリフトアップや反復収縮、長橈側手根伸筋のTb抑制によるリラクセーション、内側筋間中隔での上腕筋・上腕三頭筋内側頭間の滑走訓練などを行った。

 受傷6週の時点で回内外運動の許可が出た。この時点で肘屈曲115度、伸展0度、回内5度であった。屈曲・伸展ともに肘後外側の疼痛の訴えが多くなり、前腕回内制限が強いこと、前腕回内位で肘屈曲が行いづらいということから、回外筋や肘筋など後外側の組織に対し、マイルドな反復収縮を加えていった。これ以降、少しずつ運動強度を強め、輪状靭帯やLCLなどの外側組織のストレッチングも加えつつ、自動伸展の制限に対し、上腕三頭筋エクササイズも積極的に行った。回内、屈曲とも順調に可動域が改善し、受傷後7週で顔がしっかり触れるようになり、受傷後8週で髪が縛れるようになるなど、日常生活動作の改善がみられた。受傷後10週時点で屈曲150度、伸展0度、回内70度である。

 考察として、初期には骨転位がみられた経緯やドクターより回内外禁止の指示があったことを踏まえ、いかに骨折部へのストレスを排除しつつ運動療法を進めるかが重要であると考えた。その中で疼痛への対処として腕神経叢の問題に着目し、早期に対処したことで疼痛による可動域制限を最小限に留めることができたものと考えた。また骨折部の安定が得られた以降は、回内制限が肘の屈伸可動域に影響を与えていたものと考えた。回外筋は輪状靭帯と密に結合しており、輪状靭帯と関節包の関係からも肘の拘縮に影響を与える可能性がある。さらに肘筋は前腕回内を伴う伸展で働きやすいという特徴を有しているため、本症例のように回内が行えない場合、肘筋の拘縮が進む可能性が考えられた。

 橈骨頚部骨折に対する保存療法に関する報告では、Circular Cylinder Castを用いた早期からの回内外運動許可などの早期運動療法の有効性が示されている。一方で、Morrey分類TypeTの骨折であっても遷延治癒や偽関節といった経過を辿るという報告もみられる。本症例においては、受傷後3週の時点で骨折部の転位を認めたこともあり、ドクターからの指示により受傷後6週まで前腕回内外の可動域訓練を行わず、それ以降も骨折部周囲へのアプローチは慎重に進めていった。最終的には可動域も健側と同程度に改善し、日常生活が支障なく行えるレベルになったが、もう少し早期から始めることができたのかどうかという疑問が残った。これに対し、フロアより骨癒合の判断を我々が独断で行うべきではないことは大前提として、34週の外固定をした後に超音波画像診断を用いて肘や前腕の運動を行った際の骨折部の動きを確認し、安定性が得られていると考えられた場合はドクターと協議のもと、早期介入していくという試みをしていく方法もあるのではないか、というご意見をいただいた。

(文責:平針かとう整形外科 稲葉 将史)







症例3 50歳代 女性 胸郭出口症候群の一症例

症例は50代女性(身長160p体重74s)の主婦である。平成20年頃より右胸郭出口症候群(以下TOS)と頸椎後縦靭帯骨化症(以下OPLL) (C36)による右上肢と左下肢痛を呈している。平成249月に上肢痛強くなりMRIにてOPLLの進行とCTにて胸椎黄色靭帯骨化症を認めた。造影検査では右上肢拳上位で第1肋骨と鎖骨間で腕神経叢の圧迫所見を認めたため圧迫型TOSと診断され、平成2411月より2週間の点滴入院の後、外来理学療法を継続している。既往歴としては平成18年に左腰椎ヘルニア(L5/S1)と左梨状筋症候群(切除術後)がある。

初回理学療法所見を以下に述べる。下線部は退院時に変化があったものである。疼痛は右頸部前面から鎖骨、烏口突起から腋窩部に認めた。しびれは右上腕、前腕尺側から手指にあり、特に第45指に強くvisual analog scale(以下VAS)8退院時はVAS5であった。整形テストはSpurling(-)Morley(++) Wright(+)Adson(-)Eden(-)Roos(+)30秒で右5指しびれ増悪、肩甲骨の引き下げテスト(+);肩甲骨の内転強制テスト(-)であった。アライメント評価では、レントゲン側面像において頸椎前彎消失と胸椎後彎増強を認めた。肩甲骨アライメントは端座位では軽度拳上位、下方回旋位、外転位を呈し、仰臥位では床‐肩峰端高が右7.5p(左6p)であった。関節可動域(/)は肩関節複合運動として屈曲135P/170、外転100P/170内転-10-5/0 水平外転-40P-30P/20であった。また肩甲上腕関節において1肢位での外旋40P50/70 第2肢位での外旋40P55P/70、第3肢位での外旋50P60P/75、第1肢位での内旋 60/60、第2肢位での内旋55/70、第 3肢位での30/40であった。特に水平外転や各外旋動作で右前胸部痛や右前腕尺側から第45指のしびれの増悪を認めた。MMTは肩関節屈曲、外転で右45(右肩甲骨固定位>非固定位)、小指外転筋右45以外は低下を認めず、握力は右24g37kgであった。

現在の理学療法内容は仰臥位で肩鎖・胸鎖関節可動域ex、棘上筋の収縮を促した後のストレッチや僧帽筋上部線維、大胸筋、小胸筋、肩甲下筋のリラクゼーション、側臥位で僧帽筋中部線維筋収縮exである。

検討項目としては「圧迫型TOSと診断されているが、理学所見から牽引型TOSの要素もあるのではと考えている。病態の解釈と何処の機能改善を考えていくべきか?」、「肩甲骨上方回旋筋である僧坊筋下部線維を鍛えていきたいが、上肢拳上位では右上肢痛増悪するため、既に肩甲骨外転位だが肩甲骨外転・上方回旋筋である前鋸筋の筋力exを進めてよいか?」の2点が提示された。

まず病態についてフロアからは肩甲上腕関節の拘縮、特に上方支持組織の拘縮が存在することで肩甲骨が下方回旋位となっていること、ストレートネックや胸椎後彎増強も存在することから腕神経叢に牽引ストレスがかかり牽引型TOSを併発していることが指摘された。また鎖骨下筋の評価も必要とされる一方で、アプローチにより症状が変化しなければ、骨性圧迫因子の影響も踏まえて対応しなければならないと指摘された。

次に何処の機能改善を図っていく点としては肩甲上腕関節の拘縮の改善、特に内転拘縮の存在は付随して肩甲骨の下方回旋位を強要するため、必ず除去していく重要性が述べられた。また肩鎖、胸鎖関節に加えて肋鎖関節の拘縮や下方回旋筋である小胸筋の短縮や緊張を除去し、前胸部柔軟性を獲得したたうえで肩甲骨アライメントを整えていく治療プロセスも提案された。症例は近い将来頸椎の手術を予定しており、頸椎や胸椎に積極的な運動療法は行えていないが、C36より上位の頸椎可動域の改善や胸椎後彎位を改善し不良姿勢を矯正する意見も述べられた。その他の評価として、TOSOPLLが併発していることから腱反射を評価し、反射消失であれば末梢性の要素、亢進であれば中枢要素であるといった神経性由来の病態も考慮することが大切とアドバイスが出された。

次に前鋸筋へのアプローチについてであるが、フロアからは筋力ex自体が肩甲上腕関節や前胸部の拘縮をしっかりと除去した上で展開される運動療法であることが述べられ、痛みや拘縮が除かれた状況下であれば実施していくことも可能であると意見が出された。

最後にフロアから左ヘルニアと左梨状筋切除術後の既往があることや仰臥位で左股関節屈曲位を安楽姿勢としていることから左股関節伸展制限や代償性の腰椎過前彎の存在の可能性が指摘された。脊椎のアライメントを整えていくうえでは是非とも把握しておかなければならない項目である。TOSOPLLの症例ということで、症状の出現している肩甲帯や頸椎アライメントばかりに着目していたが、脊椎全体や骨盤帯を含めて捉えていくことが姿勢の矯正には重要な要素であると再確認することができた。

     (文責:名古屋市総合リハビリテーションセンター 石黒正樹)