213回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.03.16 於:名古屋会議室 名駅西口店


症例1 60歳代 女性  左変形性膝関節症および右変形性足関節症の一症例

 症例は60歳代の女性であり、主訴は歩行時や立ち上がり、階段昇降での左膝関節および右足関節の疼痛である。約3年前から左膝の疼痛があり、整形外科に通院していたが、寛解および増悪を繰り返していた。左膝をかばっていたためか約3ヶ月前から右足関節にも疼痛が出現してきたため、当院を受診し理学療法を開始することとなった。既往歴として、右足関節の剥離骨折(45年前、内反による受傷で部位については記憶が曖昧)、右足関節捻挫、右腰殿部痛、坐骨神経痛、盲腸(手術)があった。

 単純X線写真では左膝の内側裂隙の狭小化や内外側ともに裂隙周囲の骨棘形成を認めた。右足関節ではTAS85°(正常:8889°)と関節面の形態変化を認め、距骨外側には骨棘形成、外果下後方に遊離骨片を認めた。理学所見では膝関節屈曲が約3横指の制限、伸展が約2横指の制限を認めた。膝関節伸展位での足関節底背屈の可動域制限は認めなかったが、前方引き出しテストは陽性であった。圧痛は左膝の鵞足部および薄筋、内側裂隙、腸脛靭帯に認め、右足関節には認めなかった。動作による疼痛の再現性は乏しく、訴えとしては左膝の内側部と右足関節内果の下方から後方および下腿後面にかけての疼痛が多く、時々左膝外側部や右距腿関節前方にも疼痛があるということであった。また立脚後期に左膝が伸びる感覚が乏しいということと、右足の蹴り出しが強く行えないという訴えもあった。股関節周辺の所見ではOberテストが両側で陽性、開排制限(床面に対する大腿の角度が右−30°、左−40°)を認め、体幹の回旋制限(AFD 10横指以上)および胸腰椎移行部の可動性低下(触診上)も認めた。

 この時点で、病態考察に必要な他の所見と行うべき運動療法について検討した。フロアから、疼痛が出現する動作とタイミング、鵞足筋の鑑別テストの結果、右足関節背屈時の距骨への押し込み操作による疼痛増減の有無など、疼痛部位を明確にするための所見を得る必要があるのではないかとの意見があった。また運動療法については右足関節から行うべきという意見と、左膝から行うべきという意見の2つに分かれた。右足関節を優先する理由として、既往歴に右足関節の外傷があり、右足関節の機能障害が影響している可能性が挙げられた。背屈制限(とくにFHLの伸張性低下)についての詳細な評価や踵骨回外接地の是正が必要であるという意見が出た。左膝を優先する理由としては、今回の痛みが左膝から出現しており、左膝の伸展制限や疼痛が右足関節痛に影響していると考えられる点が挙げられた。またどちらの影響が強いかを確認するために平行棒内で荷重コントロールをしながら動作時痛や歩容の変化を確認してみるという意見も出た。

 検討後に、その後の治療経過について報告があった。歩容での左膝の動揺性や単純X線写真での内外側の骨棘から、左膝ではLateral thrustによって内側半月板や腸脛靭帯に、また下腿の外旋によって鵞足にストレスが加わっているものと考えられた。右足関節では踵骨回外接地から内側へ急激に倒れること、単純X線写真で距骨外側に骨棘が形成されていることなどから、過度な外反によって後脛骨筋に、また距腿関節の前方不安定性によって前方滑膜にストレスが加わっているものと考えられた。動作課題として片脚立位を評価したところ、両側ともに非常に不安定で寛骨が前方回旋しており、大腿が内旋していることが確認された。骨盤周囲筋の機能不全や胸郭の可動性低下、胸腰椎移行部レベルの脊柱の可動性低下を認めたため、これらが骨盤の不安定性に伴う大腿内旋を引き起こし左膝および右足関節のストレスに関与すると考えられた。これに対し胸腰椎移行部伸展エクササイズ、下部胸郭モビライゼーション、腹横筋エクササイズ、骨盤底筋エクササイズなどを実施した。運動直後に寛骨前方回旋が減少し、片脚立位が安定、歩行での蹴り出しなども容易になったため、セルフエクササイズを指導し、継続してもらった。治療3回目には左膝よりも右足関節の訴えが強かった。ADS陽性であり右足関節に不安定性を認めたためTSストラップを処方した。治療5回目までに体幹の機能改善を中心に行うことで、AFDや開排、Oberテストなど体幹および股関節機能に改善がみられ、歩行時の疼痛はVAS12となった。立位において寛骨は後方回旋することで靭帯性に安定するとされているが、本症例では前方回旋していた。体幹筋の機能低下やそれに伴う脊柱起立筋群(寛骨に付着を持つ)の過活動が寛骨の後方回旋を制限し、寛骨前方回旋および大腿骨内旋につながっていたと考えた。また経過の中で上殿神経にも圧痛がみられ、下位腰部の屈曲制限を改善することで減弱するという所見が得られた。このことから脊柱起立筋群の過活動は腰部の局所的な伸展拘縮を強め、神経根レベルでの障害を引き起こし、股関節周囲筋の機能低下も招いていた可能性がある。これらの片脚立位を不安定にさせる要因を取り除き、寛骨の前方回旋が消失したのちに、膝蓋骨周囲や足関節後方の拘縮除去を進めていき、AFD5横指、開排両側とも−10°、Oberテスト軽度陽性、左膝全屈曲可能、伸展制限2横指となり、階段昇降や立ち上がりの疼痛もほぼ消失している。

 これらを踏まえて総括が行われた。歩容も改善し症状も消失しているので臨床成績として問題はないが、複数の組織に対する治療とその効果をまとめて報告しているため、個々の治療効果についての説明が曖昧であり、症状の消失に何が最も関与していたのかが不明確であるという指摘があった。また体幹の機能不全と症状との関連性もわかりづらく、体幹から治療した根拠についての説明が不足していた。膝の伸展制限という明らかな機能障害があるにも関わらず、そこに対して治療を行わないということも再考すべき点である。臨床的に疼痛部位と異なる部位の機能障害が疼痛発生に影響していることはよく経験することであるが、運動療法を行ううえでその適応は十分に検討すべき点であり、単に想像するだけでなく、機能障害と症状との関連を示唆する客観的な事実から推察したうえで治療を展開していくことの重要性を再認識した報告であった。

                    (文責:平針かとう整形外科 稲葉将史)






症例2 上腕骨外側上顆炎の2症例:40歳代男性・60歳代男性 

 

症例2-1:年齢40歳代後半、右利き、仕事はデスクワーク中心である。スキー中に左手をストックに後方へ引っ張られ受傷した。その後、荷物や電話の受話器を持ち上げるだけで疼痛を感じていた。理学所見はThomsen testが陰性、middle finger extension testが陽性、手指のグリップ動作での疼痛は肘関節屈曲位では出現せず、伸展位で出現した。関節可動域制限はないものの前腕回内最終域で回外筋付近に疼痛を訴えた。圧痛は外側側副靭帯の前方線維、短橈側手根伸筋腱、総指伸筋腱、回外筋に認めた。疼痛が誘発される他動強制運動は肘関節伸展・前腕回内・手関節掌屈の複合動作とfringe impingement test(肘関節伸展・内反・前腕回内の強制)であったが、疼痛部位は上腕骨外側上顆よりも遠位の回外筋付近であった。回外筋症候群との鑑別として、橈側手根伸筋や総指伸筋を弛緩させた手関節他動背屈位で回内を強制しても疼痛を訴えており回外筋の伸張痛と思われる所見が得られた。しかし、回外筋の抵抗テストでは疼痛は誘発されず、下垂手や手背橈側の知覚鈍麻もないことから回外筋症候群までは至っておらず、回外筋自体の攣縮が疼痛の引き金になっていると判断した。治療としては主に回外筋のリラクゼーションを行い、症状は改善している。

 症例2-2:年齢は60歳代前半、右利き、趣味はゴルフである。約1年前からゴルフスイング中のグリップ動作で右上腕骨外側上顆周辺の疼痛が続いていた。主訴は歯磨き動作など日常生活動作でグリップ動作をすると疼痛を感じることであった。理学所見はThomsen test軽度陽性、middle finger extension test軽度陽性、U指・W指のextension testも軽度陽性であった。手指のグリップ動作では肘関節屈曲位で疼痛はわずかしか出現せず、伸展位ではより強く出現していた。関節可動域は前腕回内が健側と比較し5°程度の制限が認められた。圧痛は外側側副靭帯の前方部に認められた。疼痛が誘発される他動強制運動は特になく、回外筋の症状もなかった。短橈側手根伸筋と総指伸筋自体には圧痛は認められず、肘関節伸展位でのグリップ動作で疼痛を訴えることから、外側側副靭帯前方の伸張性の低下が深部の上腕骨小頭と関節包間の接触圧を高め、短橈側手根伸筋と総指伸筋の収縮が圧上昇を助長していると考えた。治療としては上腕骨小頭と関節包間の接触圧を軽減させる目的で外側側副靭帯と輪状靭帯の伸張性を促すとともに、短橈側手根伸筋と総指伸筋のrelaxationとストレッチングを行った。その後、疼痛は消失している。

上腕骨外側上顆炎は狭義では短橈側手根伸筋の付着部症である。しかし、広義では滑膜ひだの陥入や関節包の損傷など様々な病態があることや、回外筋症候群などの類似疾患もあるため、その病態の鑑別が重要である。今回は1症例の検討ではなく、外側上顆炎と診断された症状の異なる2症例が提示され、広義の上腕骨外側上顆炎を評価する上で必要な評価項目を検討した。また、上腕骨小頭と関節包間の接触圧上昇による痛みと滑膜ひだが腕橈関節に陥入することでの痛みの鑑別は可能か否かという点についても検討した。

フロアより、滑膜ひだが腕頭関節に陥入することによる疼痛については、陥入を防ぐ操作として橈骨頭を遠位に牽引するか、表層の組織を持ち上げて疼痛が軽減するなら滑膜ひだが陥入しての疼痛と判断できるのではないかという意見が出された。また、屈曲伸展角度を調節することで腕橈関節の前方または後方を開大させることも陥入を防ぐ操作として使えるのではないかという意見もあった。小頭と関節包の接触圧上昇による疼痛に関しては、早く動かすと圧が急上昇するため遅く動かしたときよりも圧の影響を受けるのではないかという意見が挙がった。関節包の損傷の有無の判断については、超音波検査でのドプラー反応をみてはどうかという意見が出された。小頭と関節包の接触圧上昇による疼痛や関節包損傷の疼痛、滑膜ひだが腕頭関節に陥入することによる疼痛の鑑別については、受傷機転から予測したらどうかという意見や関節鏡視下でなければ判断ができないのではないかという意見もあった。その他、補足の評価として可動域制限は回内制限だけでなく、完全伸展が十分行えているかの確認を行い、腕橈関節の前方組織の伸張性の有無を判断すべきとの意見が出された。

 評価方法が確立していない原因として、肘関節および前腕の関節操作時における各組織の動態が十分に明らかになっていない点が挙げられる。超音波診断装置を用いて滑膜ひだが陥入しているか否かを必ずしも判断できないこと、関節包の損傷も特徴的な超音波所見が明らかでないことなど、超音波診断装置を用いて動態や損傷を判断するための予備的研究が不足しているように思う。そのため多くの症例で理学所見と超音波所見、術中所見、MRI画像を比較することができれば、理学所見や超音波所見から病態の予測が可能になるのではないかと思われる。また、外側上顆炎に対して手術をしていない施設でも関節操作時の超音波エコー動態と理学所見を詳細にとり、行った治療効果の有無をみることで病態を予測することが可能と思われ、関節操作時の超音波エコー動態と理学所見のマッチングを今以上に明らかにすることも今後の課題と考えられた。

  

                  (文責:名古屋スポーツクリニック 永井教生)




症例3 20歳代 男性 右脛骨下端骨折後、植皮を行った一症例 

脛骨下端骨折は高所からの転落あるいは交通事故などの高エネルギー外力が足関節面に対して垂直に加わることによって発生する。軸圧骨折は強固なない固定は不可能であるため、早期の関節運動を実施する目的を果たすために創外固定が有用である。今回脛骨下端骨折後に観血的整復固定術を施行しMRSA陽性となり、後脛骨動脈穿通枝皮弁を行った症例に関して、検討していただいた。 

症例は20代後半の男性で、受傷機転は平成248月に約8mの高さの橋から川へ飛び込み受傷した。右脛骨下端骨折と診断され、Reudi分類V型であった。受傷後の経過が受傷後3日に他院にてプレート固定を施行され、受傷後7~8週で術創から排膿、病巣からMRSAが検出された。加えて骨髄炎を発症し転院。その後、病巣郭清および抗生物質Hab充填を行い、創外固定と後脛骨動脈穿通枝皮弁を施行した。さらに再度病巣を郭清し、抗生物質を充填した。計3回のj手術を施行し、創外固定抜去後にリハ目的で当院受診し、受傷後21週で運動療法開始となった。

 

初診時理学所見は、足背、内・外果周囲、足底、足趾にかけて腫脹,熱感が認められ、皮膚欠損部および植皮部の皮膚と皮下組織の癒着あり。ROMは背屈?24°、底屈31°、外返し5°、内返し15°。足趾の制限がみられた。

これらの状態から画像所見から推測される損傷組織、可動域訓練を進めるにあたり注意すべき点、二次的障害、ゴール設定などを検討項目として提示。

フロアからの質問は最新のレントゲン画像で関節面を確認することが重要という意見が出た。さらに運動療法中の疼痛の有無や補高に関する質問、不安定性の有無を確認された。

総括として損傷組織は前方骨片が前へ転位していることから伸筋支帯を含めた前方組織の損傷の可能性を示唆された。しかし内側の骨片の転位も認められるものの三角靭帯、前距腓靭帯は保たれているとの意見があった。ROMに関して、背屈可動域はレントゲン画像を確認しながら、関節面の安定性を考慮し進めていくべきという意見だった。その他は距腿関節以外の関節に拘縮または不安定性を生み出さない、構造上背屈ROM5°ほどが限度で、その制限の代償として補高していくことが重要となるという意見だった。

 最終的にOAchangeが進行し、固定術は免れないが、少しでも長い期間補高と背屈ROM5°を維持していくことが予後を決定するという検討内容となった。

           (文責:城北整形外科クリニック 三倉一輝)