215回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.05.18 於:名古屋会議室 名駅西口店






症例
1 10歳代 男性 腰椎分離すべり症

 

 症例は10歳代前半の中学生である。小学4年生から硬式野球クラブに所属し、5年生秋頃に捕手から投手に転向以来、全国大会準優勝、地区大会でも数々の優勝歴がある。既往歴に野球肘、母指基節骨近位骨端線損傷がある。小学6年の冬頃より股関節に不快感が出現し、その後、車に乗ろうとした際に腰痛が出現したため、それ以来すべての練習を中断した。当院整形外科を受診し、第5腰椎分離すべり症と診断された。ダーメンコルセットを処方され、7週後にリハビリを処方された。

 画像所見より、単純X線写真ではL5に両側性の分離、L5/S1においてMeyerding分類で1度のすべり症を認めた。CTではL4の左関節突起部に骨折が疑われた。分離の辺縁の骨硬化像より、陳旧例であり、骨癒合の可能性が低いことが示唆された。可動域検査では主に股関節のタイトネスが認められ、特にSLR、伸展、内転、内旋(屈曲位・中間位)方向にて著明であった。短縮検査ではトーマステスト、オベールテスト、大腿直筋短縮テストで両側ともに陽性であった。体幹回旋テスト、PLFテストは陰性であった。MMTでは両側ともに僧帽筋中部・下部線維で3、腱板筋群(肩甲骨固定下)で4レベルであった。ピッチングフォームは前後左右から撮影した。JOBE分類のwind up phaseにて股関節伸展不足の代償運動として腰椎伸展を認めた。またステップ脚が接地してからfollow through phaseではクロスステップを認めた。リハビリ開始時には疼痛所見は認めなかった。今後も野球を続けていくうえで股関節と上部体幹の柔軟性を向上させ、いかに下位腰椎に負担をかけず、疼痛が出現しないよう競技復帰させるかに的を絞って運動療法を開始した。

 治療内容は下肢・胸郭タイトネスへのストレッチ、体幹を中心とした筋力強化、シャドウピッチングによるフォーム指導、治療開始7週目よりキャッチボールを開始した。

 可動域、筋力ともに改善を認め、ピッチングでも疼痛なく7割の力で投げられるようになった。

 今までにしておくべきだった評価、治療についてと今後行うべき評価、治療、指導について検討した。

 画像所見より本症例の場合は両側とも同様に分離しており、L4の骨折形態からも伸展型であり、度重なる下位腰椎への伸展ストレスによって発症したのではないかとの意見があった。また分離症に続発したすべり症に関して、今後の経過を追うにあたり神経症状が出現する可能性があり、Drと協議のうえ、単純X線写真での機能写とMRI撮影の必要ではないかとの指摘があった。投球動作の指導を行う前に、どのような力学的ストレスが疼痛を引き起こしているかを医学的な手法にて判断すべきとの見解が示された。

 機能的には殿筋タイトネス評価、体幹回旋テストやPLFテストにおいて腰椎および胸椎に過可動性、可動域不足がないかどうかの動きをしっかり診ること、静止立位のアライメント、片脚立位、足部のstability評価をすると良い等の意見が出た。

 投球技術として腰椎伸展を防ぐためのノーワインドアップや、クロスステップを防ぐための重心位置の修正の意見が必要であるとの指導があった。

 本症例は成長期であり、「骨長成長が活発な時期に筋腱複合体は牽引されて安静時張力が高まるが、筋節が添加されることで適応する。このような原因で成長期には筋の柔軟性が低下し、動きが硬くなる。」との報告もあるため、今後も下位腰椎への負担をかけないようにタイトネスへの対応を中心に、神経症状を出さないよう慎重に筋力強化やフォーム指導を行う必要があると考えられた。また本症例に限らず、出現する可能性のある症状を予測して検査所見を診ること、Drと密にコミュニケーションをとって経過を追うことの重要性を再認識した症例であった。

(文責:桑名西医療センター 作業療法士 小牧亮介)



症例2 40歳代 男性 左肘関節内外側側副靭帯縫合術後に拘縮が長期化している一症例

症例は、H25.1月中旬にスノーボードにて転倒し、左肘を受傷、同日近医にて左肘脱臼の診断を受け大学病院を紹介受診された。受傷4日後に大学病院にて関節鏡および直視下にて内外側側副靭帯縫合を施行されている。術後2週間のシャーレ固定後、他院にてPT開始するも可動域の改善がないため、H25.4月(術後2M+20days)時に当院を受診しPT開始の運びとなった。H25.4月(当院初診時)に大学病院の主治医から、超音波画像診断装置(以降:エコー)所見で靭帯の不安定性はなく、内側上顆付近に異所性骨化を確認し、保存療法にて関節可動域の改善が困難であれば授動術を考えているとのことであった。術後2M+20days時の理学所見を示す。肘ROMは屈曲90°、伸展-70°であり、内外反stress test陰性、PLRI testLateral pivot shift test陰性、疼痛は屈曲最終域で肘頭内側に伸張時痛が認められた。また、エコー所見より後方関節包と肘頭窩脂肪体(以降:Fad pad)の動態を上腕骨長軸像にて描出すると、健側と比較した患側の動態では上腕三頭筋とFat padとの境界が不明瞭であり、後方関節包の肥厚が確認できた。この画像より授動術の適応を考えたが、授動術の適応となった症例のエコー画像と比較を行うと本症例では肘屈曲時に後方関節包が伸張してくる様子が確認でき、可動域も屈曲120°伸展-45°と改善してきていることから運動療法のみでの可動域改善が可能ではないかと考えた。

この症例に対して、ADL制限などから屈曲域の可動域改善を優先し、筋・後方関節包および関節包靭帯にアプローチを行った。PT開始時より徐々に可動域の改善が診られるため、@経過から本症例に授動術が必要かどうか A授動術適応へのタイミングや判断基準について B運動療法を進める際の注意点や方法(異所性骨化や運動療法前の屈曲可動域のリバウンドの解釈を踏まえて)について検討していただいた。

フロアからのご意見として、経過から運動療法を継続とのご意見を多く挙げていただいた。授動術適応へのタイミングや判断基準について、可動域の推移がプラトーになってから施行する、3か月〜6か月の運動療法にて様子を診る、End feelからROMの限界を考える、授動術を施行する際は事前に上腕三頭筋のamplitudeExcurtionによる肘関節伸展可動域を十分に獲得することが大切であることを挙げていただいた。運動療法を進める際の注意点や方法について、異所性骨化は内側上顆MCLLCL付着部に存在している為、内外反動作に注意しながら運動療法を行うこと。屈曲可動域のリバウンドは、自動運動を増やし持続伸張と交互に加療すること、屈筋のamplitude獲得を自動屈曲にて行い、伸展の可動域を上げることを挙げていただいた。

授動術に期待できる事は、関節包の短縮や関節包内の線維化に対しての剥離操作であり、筋の短縮に対しての効果は薄い。本症例の経過を考えると術後3か月以上経過し筋・その他軟部組織の短縮を考慮すると、授動術後は、筋の長さに対する運動療法が必要であることをご指摘いただいた。また、上腕三頭筋にアプローチを行うと可動域が改善し、エコー所見で後方関節包の動きが良好なため必要性が低く、運動療法のみで改善を望めるとご意見を頂いた。授動術のタイミング・判断基準について、関節造影にて関節包の容積よりそのcapacityを考慮することを挙げていただき、運動療法は持続的な伸張と等尺性での運動を行うこと、伸展-30°以上では腕橈関節の可動性が肘関節の伸展に大きく影響することをご説明頂き、橈骨頭のコントロールが大切である事をご教授頂いた。

今回の症例を通して、拘縮後の運動療法を行っていく際に、授動術の適応の判断や運動療法を行う際のアプローチの施し方が重要であるというご意見をいただいた。

 

(文責:名古屋スポーツクリニック 中川 宏樹)