216回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.06..15 於:名古屋会議室 名駅西口店


症例1 70歳代後半 女性 橈骨遠位端骨折を呈し拘縮形成後、正中神経領域に感覚鈍麻が生じた一症例

 症例は70歳代後半の女性である。某日、転倒して手をつき受傷後、救急外来を受診し徒手整復とギプス固定となった。受傷6週後にギプスカットを行い手関節の可動域改善を目的に運動療法を開始することとなった。

 初診時では、手関節掌屈20度、背屈20度、回内20度、回外20度、橈屈0度、尺屈15度と可動域制限を認めた。関節運動時の疼痛は、掌屈や回内時に手関節背側の伸筋支帯下の第3区画や、第4区画に認めた。これに対し、第34区画周囲のモビライゼーション、手根骨の可動域改善を中心に行っていた。

 受傷後25週より、仕事が忙しくなり右手の使用頻度が高くなるとともに手掌部のしびれが出現した。受傷後31週の可動域は手関節掌屈50度、背屈60度、回内65度、回外80度、橈屈25度、尺屈30度であった。しびれは母指球、示指中指の掌側に認められ、第4区画及び示指伸筋の筋繊維に対し垂直方向に押圧時、示指および中指の抵抗屈曲時、示指および中指の他動伸展強制時に増加した。橈骨茎状突起より5cm近位の部位にて示指伸筋を背側から掌側に向かって押すとしびれは減少した。ファーレンテストは陰性であった。著明な圧痛は第4区画と示指伸筋の筋腹で認め、示指伸筋を弛緩位にした状態でも同様であった。

エコーを用いて橈尺骨の両茎状突起を結んだ線から0cm5cm10cm近位の部位にて掌側と背側をそれぞれ描出した。5cm近位の背側にて、プローブを背側から掌側へ向かって押した際、患側では示指伸筋が変形しなかった。示指伸筋のスパズムを改善するために示指伸筋の筋腱移行部を軽く圧迫した状態で示指を遠位方向へ牽引する操作や、第4区画周囲の脂肪織のモビライゼーションを重点的に行った。これによりしびれは減少してきた。

検討項目はしびれが生じた原因、しびれが改善した機序、エコーのとり方とした。

フロアからしびれが生じた原因について、屈筋腱癒着による手根管の内圧亢進もしくは方形回内筋周囲での正中神経の癒着の二つが挙げられた。それを鑑別していく方法としてTinel signを正確にとること、手関節の位置変化や筋の収縮・伸張でのしびれの変化、逆ファーレンテストを行うことが挙げられた。

しびれが改善した機序について、示指伸筋のエクスカーションを獲得したことで深指屈筋腱、浅指屈筋腱の滑走が生じ、それが手根管内圧を減少させたという意見が出された。

エコーのとり方について、手根管内圧が最も低下する背屈10度における指屈曲位と手根管内圧が上昇する最大背屈位で手根管を抽出し、健側と比較する方法が挙げられた。

総括として、手根横靭帯の短縮や屈筋支帯下での拘縮が残存している状態で手関節を酷使することにより手根管内圧が上昇し、しびれが出現したのではないかとのことであった。残存する拘縮を評価するために手根骨の動きを健側と比較すべきとの意見がでた。

以上のことから、手根管症候群が二次的に生じるのを防ぎ、また、手根管症候群を早期に発見し治療を行うために、橈骨遠位端骨折の治療を確実に行うこと、Tinel signや逆ファーレンテストといった正中神経障害の一般的な評価を確実に行うことの重要性を今回の症例を通し再確認できた。

                (文責:平針かとう整形外科 水野弘道)




症例2 30歳代 男性 両鎖骨骨折後の一症例

 

症例は30代男性である。自転車乗車中に軽乗用車と衝突し脳挫傷、外傷性クモ膜下出血を受傷し、受傷4日後に両鎖骨骨折にプレート固定術と左第23肋骨に固定術が施行された。左烏口突起、第4腰椎破裂骨折、第6頸椎〜第1胸椎左横突起骨折に対しては保存的に経過観察となった。術後は固定期間や運動制限は設けられず、術後翌日から運動療法を実施され、術後60日に当院転院となった。

初回理学療法評価はBurnnstrom Recovery Stageが両上肢Y、手指Y、下肢Yで、左上肢で指鼻試験が陽性であった。痛みの訴えは無く、頸部と腰部の運動時痛は認めなかった。筋萎縮は大胸筋、三角筋、僧帽筋、棘上筋のそれぞれ左右で認め、左側でより顕著であった。肩甲骨の静的アライメントは左肩甲骨下角から内側縁に浮き上がりと外転・上方回旋・下制位を呈し、背臥位での床面と肩峰端距離は右6p、左6.5pであった。関節可動域(/)は肩関節複合運動として屈曲170°/130°、外転170°/85°、伸展35°/30°であった。屈曲時に左上腕後外側部(肩峰角付近)に突っ張り感、外転時には左上腕後外側部(肩峰角付近)及び上腕二頭筋の遠位部に突っ張り感の訴えがあった。肩甲上腕関節での屈曲は90°/80°、外転は90°/75°、内転0°/0°(肩甲骨上方回旋位にて測定、左内転時の際に抵抗感あり)、水平外転35°/10°、水平内転40°/30°、肩下垂位外旋35°/20°、肩外転位外旋85°/45°、肩屈曲位外旋90°/80°、内旋結滞動作は第12胸椎/1腰椎、肩外転位内旋25°/35°、肩屈曲位内旋5°/-5°であった。頸部は屈曲40°、伸展55°、側屈20°/30° 回旋60°/65°であった。筋力(MMT /)は肩関節屈曲5/4、外転5/4(肩甲骨固定位>非固定位)であった。

理学療法は左肩鎖関節の関節可動域訓練、棘上筋、肩甲下筋、棘下筋、大・小円筋、大胸筋鎖骨部・胸肋部に対して筋収縮やストレッチング、僧帽筋、三角筋、大胸筋、左僧帽筋中部線維に対して筋力増強訓練を実施した。

以上の情報を踏まえて、検討事項としては「左肩関節屈曲や外転時の突っ張り感の病態や肩甲骨アライメントの原因について」と「左肩関節屈曲や外転角度を改善していく為に不足している運動療法や評価項目について」が挙げられた。

まず左肩関節屈曲や外転時の突っ張り感については、肩甲骨のマルアライメントや肩甲上腕関節の拘縮によって引き起こされるインピンジである可能性が指摘された。肩甲骨アライメントに関しては、外転・上方回旋、前傾位となる原因として胸鎖関節や肩鎖関節の関節可動域制限による拘縮、小胸筋や前鋸筋のスパズム、短縮による拘縮の存在が指摘され、それらの組織の拘縮を除去した上で僧帽筋中部線維といった肩甲骨内転筋群の筋力増強訓練が必要性だと述べられた。

肩甲上腕関節については、左肩関節屈曲位内旋可動域が低下し、肩関節後下方組織の拘縮を認めることから、肩関節屈曲時に上腕骨頭が前上方へ偏位しインピンジメントを生じている可能性や、左肩関節下垂位外旋可動域の低下から、肩関節前上方組織の拘縮による肩峰下での滑走障害も視野に入れて拘縮を改善していくことが必要であると説明された。

 

その他の意見として、肩屈曲角度が外転角度よりも増すことから、骨折を起こした烏口突起に付着する烏口腕筋や上腕二頭筋短頭の拘縮により、外転時に伸張痛が起こっている可能性も指摘された。

追加する運動療法は、拘縮が疑われる棘上筋や肩甲下筋上方部、棘下筋上方部や肩峰下滑液包といった上方の組織や、後下関節上腕靭帯や後方関節包の拘縮除去が挙げられた。これらの組織の柔軟性を獲得した上で肩甲骨のマルアライメントが肩甲上腕関節の機能障害によるものかを確認することが重要であると指摘された。

その他の運動療法としては、X線で第6頸椎、第7頸椎左横突起骨折が確認でき、同部位に起始を持つ前・中斜角筋へのダメージも予想されること、第1、第2肋骨は肩関節屈曲運動に関与することから、これらの組織を含めた胸郭の可動性の拡大を図ることが可動域拡大に必要であることが指摘された。また胸鎖関節の拘縮を除去することにより鎖骨が第1肋骨を乗り越え、後方へ十分動けるだけの柔軟性を獲得していくことも必要であるとアドバイスされた。筋力増強訓練に関しては、X線にて烏口突起基部の骨癒合がみられ、円錐靭帯、菱形靭帯の圧痛所見を認めず、鎖骨と烏口突起間の静的及び動的な安定性に問題ないと判断できることから、小胸筋や上腕二頭筋、烏口腕筋の筋力増強訓練を開始すべきとの意見が述べられた。

 不足していた評価として、左上肢の筋力低下が外傷性クモ膜下出血による中枢性由来のものか、廃用性由来のものかの判断が必要である。中枢性要素が疑われる際、まずは腱反射を診ること、知覚検査を実施することが必要であると述べられた。また症例の様に烏口腕筋の損傷が疑われる場合には解剖学的関係から筋皮神経障害も念頭に入れて前腕外側の知覚を評価していくこと、支配神経が異なる筋群と分けてMMT評価を実施していく必要性が説明された。

今回、肩甲骨の不良肢位が存在していることから、自分の中では肩甲胸郭関節や肩甲帯周囲筋ばかりに着目してアプローチしていたが、肩甲骨アライメントを整えていく為にも、まずは肩甲上腕関節の拘縮をしっかりと除去することが重用であり、その為には肩甲骨の影響を排除できるように、しっかりと肩甲骨を固定して肩甲上腕関節の可動域を評価できることが重要かつ最低条件であることを再認識することができた。

文責:名古屋市総合リハビリテーションセンター 石黒 正樹