220回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.10.19 於:国際医学技術専門学校 4F 講堂


症例1 60歳代 男性 肩鎖関節の後方脱臼を呈した症例(Rockwood分類W)の治療経験〜三角筋の損傷部位に着目して〜
 

 60歳代の男性で、バイク(400t)で軽自動車と衝突し受傷された。診断名は右肩鎖関節脱臼(Rockwood分類TypeW)、中心性頚髄損傷、C4,5椎体骨折、右足関節内果骨折、右足関節外側側副靱帯損傷である。既往歴には高血圧症、脊椎側弯症、躁うつ病である。職業はフォークリフトによる仕分け作業で、Needsは職場復帰である。

肩鎖関節脱臼に対してCadenat変法+Phemister法が行われた。術中、肩鎖靭帯および烏口鎖骨靭帯は断裂し、鎖骨が後方に脱臼したことにより、肩鎖関節付近の僧帽筋や三角筋前部線維(内側部の連続性は一部残存していた)が損傷していた。手術の固定性は良好であった。中心性頚髄損傷、C4,5椎体骨折には頸椎カラーを使用し、受傷後4週間のベッド上安静が指示された。

術後2週間はバストバンドにて右上肢の動作を制限され、術後6週間は肩甲上腕関節の屈曲90°までの運動制限が指示された。術後6週後に肩鎖関節を固定していたK-wireを抜去し肩関節の挙上制限が解除された。

評価として、痛み、感覚検査、深部腱反射、ROMMMTが行われた。痛み、感覚検査、深部腱反射で異常な所見は認められなかった。ROMは、術後6週では肩甲上腕関節の屈曲90°(90°)、外転90°(100°)、水平内転95°(100°)、水平外転0°(5°)、外旋は下垂位45°(50°)、90°外転位85°(90°)、90°屈曲位95°(95°)、内旋は下垂位90°(90°)、90°外転位15°(35°)、90°屈曲位-10°(0°)、肩関節の屈曲は他動で160°(180°)、自動で145°(165°)、結帯はL2Th7)であった。MMTは痛みのない範囲で行われ、僧帽筋中部線維3、下部線維2であった。

治療として、術後6週間は肩鎖関節固定下にて肩甲上腕関節の可動域訓練が行われた。この時の可動域と最終域での抵抗感は、健側を参考にした。術後3週より三角筋前部線維に対する反復収縮とストレッチングが実施された。収縮に用いる強度は筋の修復過程を考慮してMMT2-3程度とし、痛みのない範囲で緩やかに行われた。

検討項目として、これまでの評価において不足している点、各時期の治療において気をつける点、工夫する点が挙げられた。

フロアーより、評価として頸部および胸部のROMMMTを測定した方が良いという意見、胸鎖関節の動きや肩甲骨のアライメントを健側と比較しておいた方が良いという意見が挙げられた。治療として肩甲上腕関節の可動域訓練とともに、自動での挙上可動域獲得のための僧帽筋中・下部線維の筋力訓練を行うべきであるという意見が挙げられた。

本症例は退院まで治療が行われており、検討後に経過が報告された。

肩関節の挙上制限が解除されてから退院時までの治療として、肩甲上腕関節の可動域訓練、三角筋前部線維や僧帽筋中・下部線維の筋力訓練、肩関節挙上訓練や結帯の訓練が行われた。

最終的なROMは、挙上165°(健側:165°)、結帯Th9Th7)であり、結帯制限を残して終了された。リハ終了時にエコーにて下垂位、挙上時、結帯時それぞれの三角筋前部線維の状態を観察した。どの状態でも瘢痕様組織はみられたが連続性は保たれていた。本症例において、ROMは比較的良好で、着目していた三角筋前部線維の連続性も保たれており、職場復帰も果たされたため、良好な結果が得られたのではないかと考えられた。

報告後、縫合された靭帯の成熟を考えると、特に結帯では術後3ヶ月間は良好な可動域を維持し無理な運動は行わない方が良いのではないかという指摘があった。受傷機転や術中所見から損傷部位を確認し、各組織の治癒過程を考慮しながら可動域訓練や筋力訓練を実施することの重要性を再確認した症例であった。

 

(文責:桑名西医療センター 和田満成)



症例2 50歳代 男性
 交通外傷により脛骨顆部骨折の一症例
                          報告:朝日ヶ丘整形外科 丹羽結生先生

 症例は、50歳代前半の男性である。某日、車に轢かれて左脛骨顆部骨折(AO分類C1)を受傷した。某病院にて受傷11日後にプレート固定施行された。但し、解剖学的整復位は得られなかった。術後はシーネ固定で、主に松葉杖歩行の練習などを行っていた。受傷59日後に他院へ転院し膝の可動域訓練や筋力強化が行われた。その後、プレートが皮膚から突出したため受傷222日後に抜釘術を施行された。受傷235日後に受診し理学療法開始となった。抜釘後のレントゲンでは、内側顆の関節面は形状を保たれていたが、全体的に外側に変位していた。外側顆の関節面は下方へ落ち込み前外側部に骨棘が形成され、後顆の丸みも失われていた。圧痛や運動時痛は認めず、膝伸展筋力は3以上でextension lagも認めなかったが、可動域は060であった。膝経度屈曲位での外反内反ストレステストでは動揺性を認めた。歩行は患肢立脚中期には膝外反位で、荷重は不十分であり時折膝崩れ感を自覚していた。その他、足部・足関節は可動域減少、筋力低下しており外反扁平位であった。外側型膝OAが進行する危険性が高く、外反ストレスを回避させて荷重量増大を図る必要があり、足部・足関節への運動介入、インソールの作成などで荷重時の下肢アライメントに注意しつつ、荷重練習や立ち上がり練習を実施していた。加療3週経過した時点で、可動域は075となり、患肢片脚立位は可能となっていたが、足部・足関節の機能障害は残存しており、歩行では立脚後期から遊脚期にかけて膝屈曲が生じず膝伸展位歩行であった。予後と運動療法の実施内容について検討が行われた。抜釘後のレントゲンから、内側顆が全体的に外側に変位してMCLの張力が緩んでおり、さらに外側顆の関節面が下方へ落ち込んでいることで外反位となりやすいのではないかと指摘があった。さらに、外側顆は正常な関節面の形状と比較すると、後顆の丸みが消失しており膝屈曲時のroll backが期待できず、屈曲制限は必発であろうとの意見であった。それらを踏まえると、荷重時の下肢アライメントを考慮した運動療法の内容は妥当であるが、筋力強化はopenが安全で、両側支柱付膝装具や杖の使用も考慮した方がよいであろうとアドバイスがなされた。脛骨顆部骨折は、解剖学的整復位、強固な内固定、早期運動療法が治療方針の基本であり、実施されれば予後良好な疾患である。本ケースはそうではなかったため、大きな後遺症を呈する状態となっている。急性期の治療の重要性を再認識させられる一例であった。  

                   (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)


症例3 70歳代 女性 膝蓋骨粉砕骨折を呈した一症例

今回、膝蓋骨粉砕骨折を呈した一症例の理学療法を経験した。症例は膝蓋骨粉砕骨折に対して、ひまわり法
(sunflower method)を施行した症例である。ひまわり法は、骨折部を整復した後、多方向からPin sleeveを使用し骨折部を締結する手術法である。今回の症例はOpePatella下内側のpinが関節内に逸脱していることが発覚し、pinトラブルや骨折部の安定性について考えさせられた一例であった。
症例は70歳代女性で8月中旬に屋外を走っていて右膝をついて転倒し受傷。I病院に緊急搬送され同日にひまわり法を施行し三日後にリハビリ開始となった。術後24日目より当院受診し訓練開始となった。執刀医からはRAや骨粗鬆症の既往がありpinトラブルが起こってしまう状態でなければ抜釘はおこなわないとのことであった。

初期評価時の理学所見は、膝関節の浮腫、熱感、ope創の癒着を認め、ROM屈曲90°伸展-5°でextention lag15°認めた。ロフストランド杖での歩行時やActive SLR、膝の屈伸動作での運動時痛があり、圧痛所見はVL,VLO,LPFL,LPTL,MPFL, MPTL,patella直上など広範囲に認められた。
運動療法は、現在仮骨の形成が十分でないことと、骨折部にギャップが生じていること、Pinトラブルを考慮して可動域訓練や筋収縮訓練を行なわず、周囲軟部組織の拘縮予防を目的としたInfula patella fatpadPre femoral fat padmobilizationをおこなっている。
検討項目として、今現在の禁忌となる動作や運動療法と積極的な運動療法が開始できるタイミングと所見について、pinトラブルの可能性と起こさないための工夫について挙げられ検討が行われた。

意見として、現在、仮骨形成が認められていないことと熱感や疼痛の訴えがあることから、現段階ではInfula patella fatpadPre femoral fat padmobilization中心に柔軟性を改善し、屈曲可動域やPF関節の圧上昇を引き起こす屈曲位からの大腿四頭筋訓練は行なうべきではないという意見が出された。理由として、骨折部のギャップが大きい事によりギャップに関節液が入り込み骨癒合が遅れることが予測され、骨形成ができていなくても膝蓋支帯の瘢痕化が進めば骨折部は安定してくるので積極的な訓練は、安定が確認されてからという意見が出された。確認するために、超音波エコーのカラードップラにより組織修復を行うための血管新生を確認し基準にすることや骨折部の安定性の確認もエコーで可能ではないかと意見が出された。
 Pinトラブルの可能性としては、pinの位置が中央に存在していることやpinの逸脱している角度から、深屈曲から伸展域に戻す際、大腿骨の膝蓋骨関節面でimpingmentが起こる危険性があるとの指摘があった。確認するためには、レントゲン透視装置を用いて膝関節の屈伸を行い逸脱したpinの軌跡や骨片の可動性が無いことを確認した上で問題がなければ運動療法を開始していくことが望ましく、レントゲン透視装置がなければ膝関節の屈曲角度を変えてレントゲン画像を撮影して代用する意見も出された。また、本症例の場合pinが逸脱しており、逸脱したpinが本来固定するはずの骨片の安定性が得られていない可能性もある。その骨片がどの部位か確認する必要があり、仮に膝蓋靭帯の付着部等の膝関節伸展機構を担う部位での骨片であるならば四頭筋訓練は行なうべきではなく、外科的な対応も考慮する必要があり医師を協調して進める必要性があると意見が出された。

今回の症例を通して、術後のリハビリを行う際に画像所見、理学所見、ope方法やopeによるリスク、損傷過程を考慮した運動療法の介入が重要であると再認識させられた。

                   (文責:平針かとう整形外科  岡西尚人)



症例4 30代 男性 症例報告 両鎖骨骨折の一症例 

 2013615日開催の定例会で症例検討して頂いた『両鎖骨骨折の一症例』について、その後の経過を報告する。

 不足している評価として、左肩関節の筋力低下が外傷性クモ膜下出血による中枢性由来のものか、廃用性由来のものかの鑑別すること、烏口腕筋の損傷が疑われるため、筋皮神経障害も念頭に入れて前腕外側の知覚を評価することや、支配神経が異なる筋群と分けてMMT評価を実施していくことが挙げられた。再評価にて腱反射を評価したところ、左上下肢腱反射亢進、特に左大胸筋や左上腕二頭筋反射に亢進を認め、左肩関節筋力低下には頭部外傷の影響があることが確認できた。烏口突起骨折による筋皮神経障害に加え、第6、第7頸椎横突起骨折もあることから、腕神経叢麻痺の有無を感覚検査及びMMTを測定したが感覚障害や末梢神経由来の筋力低下を認めなかった。

また、骨折を認めた左第1、第2肋骨は肩関節屈曲運動に関与するため、これらの組織を含めた胸郭の可動性拡大を図ることが肩関節可動域改善に必要であると意見を頂き、胸郭拡張差や床‐肩峰端距離(側臥位)を追加測定した。結果は胸郭拡張差:腋窩部1p、剣状突起部1.6p、第10肋骨部1.6p、床‐肩峰端距離(側臥位)19/21p(右/左)であり、胸郭の柔軟性は不十分であった。

今後の運動療法については、まずは肩甲上腕関節の拘縮を改善するようにと説明があり、その中でも病態や画像所見から拘縮が疑われる棘上筋や肩甲下筋上方部、棘下筋上方部や肩峰下滑液包といった上方の組織や、後下関節上腕靭帯や後方関節包の拘縮をしっかりと除去するようにと意見が挙げられた。

それを踏まえ運動療法としては、1)肩甲上腕関節の拘縮除去:棘上筋や棘下筋上部や肩甲下筋上部線維の滑走や伸張運動、肩峰下滑液包の癒着剥離、後下関節上腕靭帯の伸張、2)小胸筋、前鋸筋、烏口腕筋の拘縮除去:右側臥位で肩甲骨上方回旋位とし、肩甲骨後傾や内転へ誘導し左小胸筋を伸張、背臥位で左肩関節外転位、肘屈曲位とし、水平伸展方向へ誘導し左烏口腕筋を伸張、3)体幹・胸郭柔軟性向上:ストレッチポールを使用して胸椎伸展運動や体幹回旋ストレッチ等を追加し、約3週間の入院理学療法を実施した。

結果、関節可動域(/)は肩関節複合運動として初期時屈曲170°/130°Pain、から最終時屈曲180°/170°、初期時外転170°/85°Painから最終時180°/170°、肩甲上腕関節として初期時屈曲90°/80°から最終時屈曲100°/100°、初期時外転90°/75°から100°/100°、肩下垂位外旋は初期時35°/20°から最終時60°/50°、肩外転位外旋は初期時85°/45°から最終時90°/80°、肩屈曲位外旋は初期時90°/80°から最終時90°/90°、内旋結滞動作は初期時第12胸椎/1腰椎から最終時第7胸椎/10胸椎、肩外転位内旋は初期時25°/35°から最終時40°/45°、肩屈曲位内旋は初期時5°/-5°から25°/25°へと改善がみられた。

また肩甲骨アライメントに関しても、左肩甲骨内側縁の浮き上がりは消失し、左肩甲骨下角の浮き上がりも減少を認め、左肩関節屈曲、外転時の左肩峰角付近に認めていた突っ張り感も消失した。胸郭拡張差も腋窩部初期時1pから最終時1.5p、剣状突起部初期時1.6pから最終時2.0p、第10肋骨部初期時1.6pから3.0p、床‐肩峰端距離(側臥位)も初期時19/21pから最終時17/16p(右/左)と改善を認めた。

最後に、今回の症例を通して、肩甲骨アライメント改善や肩関節可動域改善のためには、肩甲上腕関節の拘縮を除去することに加え、胸郭を含めた体幹の柔軟性向上が大切であることを再認識することができた。

 

        (文責:名古屋市総合リハビリテーションセンター 石黒 正樹)