221回整形外科リハビリテーション研究会報告

2013.11.16 於:国際医学技術専門学校 4F 講堂


症例1 60歳代 女性 
      前脛骨筋断裂を呈した症例の治療経験~筋の修復過程に着目して~

今回、開放性の前脛骨筋断裂が治癒していく過程を一年にわたって超音波診断装置(以下、エコー)にて観察する事が出来たので、以下に報告する。

症例は60歳代の女性で、草刈り機にて過って右下腿を切り受傷された。診断名は右前脛骨筋断裂である。職業は飲食店経営で、Needsは職場復帰である。

断裂した前脛骨筋に対してKessler変法に準じて、内側・中央・外側の3箇所が縫合された。筋膜はCross-stitch法に準じて縫合され、固定性は良好であった。術中、前脛骨筋は約80%程度断裂しており、深層線維の一部のみ残存していた。

経過として術後4週間のギプス固定後に足関節の可動域・筋力訓練と全荷重を指示された。

理学療法評価として術後1週の理学療法開始時では疼痛、感覚検査で異常な所見は認められなかった。CRP0.3/dlと正常範囲内であり、MMTFHLFDLEHLEDL4であった。術後4週のギプス除去時では、ROMは背屈20°(健側:30°)、底屈25°(50°)、MMTは背屈3以上(5)、底屈2以上(2+以上)であった。ギプス除去と同時に全荷重を開始され、翌日より杖歩行、翌々日より独歩を獲得されていた。術後6週のリハ終了時では、ROMは背屈30°(30°)、底屈40°(50°)、MMTは背屈55)、底屈2+2+以上)であった。独歩、階段昇降共に問題なく行われていた。

エコー所見では術後6週の時点では、瘢痕と思われる組織が認められ、連続性はあったが滑走性は乏しかった。術後3ヶ月では、瘢痕組織は認められるが、前脛骨筋の滑走が得られていた。術後6ヶ月で、ほぼ瘢痕組織を認めず、筋線維は正常に見えるようになっていた。術後1年では健側とほぼ同程度まで回復しており、良好な成績が得られていた。

フロアーからの質問は、エコー所見と視診・触診による表面的な硬さは同時期に変化が得られていたか(1)、遠心性収縮の開始時期はいつからか(2)、日常生活での注意点(3)などが挙げられた。(1)に対しては、3ヶ月の時点では健側に比べ創部の硬さは確認できたが、術後6ヶ月では健側とほぼ同程度になっていた。(2)に対しては創部が起始部に近くストレスはかかりにくいと考えられるため痛みに応じて行っていた。(3)に対しては、痛みのない範囲で仕事や日常生活を送っていただくように説明した。  

その他、短軸でのエコー画像も撮影し3次元的な動きの評価をした方が良いという指摘があった。

筋損傷の予後は比較的良好とされているが、損傷が大きい場合には筋線維の陥凹や瘢痕を残すとされている。本症例は開放性の筋断裂であるが、骨折、皮膚や筋の挫滅がほとんどなかったため瘢痕治癒とならず、受傷1年後には健側と同程度まで回復している様子を確認する事が出来たと考えられた。

今後は、短軸も含めた3次元的な動きを観察していきたい。


                        (文責:桑名西医療センター 和田満成)


症例2 10代前半 女性 足関節周囲炎により歩行困難を呈した一症例

 症例は14歳女子の中学生で、診断名は左足関節周囲炎である。現病歴は、平成254月に部活(剣道部)の練習がハードになったのを起因に左足関節痛が出現、5月には疼痛により歩行困難な状況となったため当院を受診した。その時の主な状況として、背屈−10°、荷重時痛著明で特に蹴り出しが困難であった。既往歴としては、2年前にも同様の症状で来院し治療、その時は緩解に至っている。

 治療経過は、治療を開始して約2週間(5月下旬)経過しても疼痛の変化はなく、歩行困難が強いため松葉杖にて免荷を指示した。しかし6月中旬になっても著明な変化は見られないため、ギプス固定をして完全に足関節が動かない様に固定し2週間経過を見た。ギプスカット直後は歩行時痛軽減と一時的な背屈角度の改善を認めたが、歩行開始後すぐに治療開始時程度まで戻ってしまった。7月上旬に何とか背屈角度を維持しようと短下肢装具を装着して角度維持を試みたが状況は変わらず、8月下旬にはむしろ装具をつけていた方が痛いという状況であったため、装具は外して経過を見ることになった。

 9月上旬での主な評価内容は、背屈−5°で回外操作と距骨を前方に残したまま背屈という操作を加えると疼痛が増強するという状態であった。圧痛は足関節の前面広範囲で確認され、特定した軟部組織というより距骨滑車及び脛骨前面遠位で圧痛が確認された。後方ではFHLKFPに圧痛が確認され、同部位のstiffnessも確認された。歩行は蹴り出し動作にて最も疼痛が強く跛行が強い状況であった。また、テーピングを用いて評価を実施したところ、回外制動のテープに加え、距骨を後方へ誘導する目的のテーピングと補高を行ったところ歩行時痛が軽減する傾向が見られた。

 評価内容を基に治療は、①インソール作成(回外制動+後足部ニュートラル保持+1cmの補高)、②TSストラップの装着、③FHLKFPの柔軟性改善をそれぞれ行った。治療経過は、インソール作成後即時的に歩行時痛は減少、その後圧痛範囲と背屈角度についても徐々に改善が見られてきており、11月の時点で背屈角度10°、圧痛範囲は距骨滑車前面内側と距腿関節内側に限局されていた。歩行については左下肢を引きずる形であれば痛みは少ないが、蹴り出しを行って遊脚期の膝屈曲を作ろうとすると疼痛が強くなってしまう状態であり、今もなおこの状況は続いている。

 検討項目としては、経過が長くここ最近の改善も少し乏しくなってきているため、治療プログラムの変更は必要かというところを検討していただくとともに、この症状を解釈するために画像所見を確認して何か分かる部分はないかというところを合わせて検討していただいた。

 フロアの方と理事・評議委員の先生から出た重複する意見として、①根本的には関節内の問題が関与している可能性が高いので、血液検査・キシロカイン等の注射を実施するとともに、もう少し視野を広げてより客観的な情報を得るべきである。②恐らくOCDなどの軟骨損傷が疑われるが、現状のMRIではスライスの数が少なく、軟骨はX線とMRIには写らないなど、得られる情報が限られているため診断が難しい状況である。CTを利用してスライスをより細かくし、また3DCTにて脛骨のみ撮影すれば軟骨損傷の有無を確認することができるため、可能であれば行うべきである。③距骨回外による距腿関節内側への圧集積が問題となるため、FHLの伸張性が改善されれば、背屈時の前内足部への圧集積は回避されると考えられる。しかし、蹴り出しの際母趾側が安定していなければ内反位となりやすいため、腓骨筋・母趾球筋群・長母趾屈筋の機能改善にて母趾側荷重を促進するアプローチを実施することが必要であると考えられる。④歩行時に距腿関節内側へ負担をかけてしまう要因を、足部(ショパール関節・リスフラン関節)・足関節(遠位脛腓関節)はもちろんのこと、股関節や体幹の要素からも評価を行いその要因を探ることも必要である。これらが主な意見であった。

 また理事の先生より重複しない意見として、単純X線から見ると脛骨遠位関節面の形状から変形性足関節症が疑われるが、14歳という年齢を考えると関節の変性が起きているとは考えにくい年齢である。今回の痛みは恐らく不安定性によるものと推測されるため、もう一度不安定性の検査を実施するとともに脛腓間を閉めるテーピングを試すのも良いのではないか、という意見も頂いた。

 全体的なまとめとして、まず他の関節の評価や不安定性の確認についてはPTですぐに対応可能なため、実施すべきであると考える。しかし、画像(CT)や血液検査、注射などの精密検査は、得られる情報が多く、実施する価値が高いと考えられるが、これらの検査については医師との相談が必要なため、医師とカンファレンスをした上で可能な検査から実施していきたいと考える。

                   (文責:千葉こともとおとなの整形外科 源裕介)

症例3 50歳代男性 
    
胸郭の可動域制限により肩最大拳上が制限されていた一症例

左肩関節周囲を呈した症例について報告がなされた。肩甲上腕関節(以下、GH jt)の可動域制限は消失したものの依然として肩最大拳上制限が残存していた症例であった。50歳代前半の事務職の男性で、左肩関節周囲炎と診断されて理学療法(以下、PT)が開始となった。特にエピソードなく左肩痛と運動制限を呈していた。圧痛は、結節間溝を中心に大結節や小結節に認めていた。当初は、GH jtの可動域訓練を中心に治療を実施し、加療10か月後にはGH jtの可動域制限は消失したが、肩最大拳上は他動、自動ともに制限されていた。問診にて、常日頃から左脇腹痛が出現しやすいことが判明した。その時点での理学所見として、頸部や体幹の左回旋動作が右回旋動作に比べてやりづらさを自他ともに確認でき、第45の肋骨間には鋭い圧痛を認めた。さらに、肋鎖靭帯や肩鎖関節周辺には運動時痛はないものの鋭敏な圧痛を認めていた。PTでは、胸鎖関節、肩鎖関節、胸椎の可動域改善を徒手操作で行ったり、Drでは胸鎖関節、肩鎖関節にブロック注射を施行したりし、同部の圧痛は軽減したものの、肩最大拳上制限は半年以上も持続したままであった。ある時、坐位にて左殿部を拳上させた状態では、左肩最大拳上制限が消失するという現象が確認でき、坐位での体幹立直り動作を確認した。すると、左への立ち直り動作は右への立ち直り動作よりやりにくさを自他ともに確認した。よって、坐位での体幹の左への立ち直り運動を数回繰り返した。体幹の左への立ち直り運動直後に、頸部や体幹の左回旋動作のやりやすさとともに、左殿部を床面につけた状態でも左肩最大拳上は獲得されていた。セルフエクササイズとして同様の運動を仕事中に何度か行うよう指導した。その後4週間経過した時点でも肩最大拳上は維持されておりPTを終了した。

胸郭の可動性が肩甲骨の可動性に影響を与える可能性はあるが、具体的に胸郭のどんな動きが制限されると、肩甲骨の動態にどういった影響が生じるかについては、詳細になってはおらず不明な点が残った。しかし、肩甲骨の可動性を制限する因子として胸郭の可動性が関与する場合が示唆された一例であり、肩関節複合体を治療していく際には、胸鎖関節、肩鎖関節、GH jt、脊柱のみならず、胸郭の可動性にも配慮する重要性を感じる報告であった。

                        (文責:平針かとう整形外科 岡西尚人)