224回整形外科リハビリテーション研究会報告

2014.2.15 於:国際医学技術専門学校 4F 講堂









症例
1 30歳代 女性 肩関節前方脱臼の一症例

 

 症例は30代女性、診断名は肩関節前方脱臼で画像所見にて大結節骨折と骨性バンカート損傷が疑われた症例である。受傷機転は、自宅の庭でバドミントンをしていたときに近寄って来た犬をよけようとしてバランスを崩し転倒、その際に右手をついて受傷した。

 治療経過は、受傷直後に救急病院へ搬送され徒手整復を実施、その後は三角筋とバストバンドにて固定して4週間経過観察をし、その間運動療法は一切行っていない。

 画像所見では、単純X線にて大腿骨頭の前下方への脱臼を確認、同時に大結節部分の骨折が確認された。整復後、6週経過した時点で特に転位はなく大結節部分に化骨形成が認められるものの、完全には治癒していない状態であった。

 初回理学所見(4週経過時点)は、圧痛については著明なものは無し、可動域及び動作時痛については自動屈曲30°、自動外転30°で大結節付近に疼痛の訴えが有り、他動屈曲80°他動外転60°で大結節前上方(肩峰下)に疼痛の訴えが確認された。

 その後患者事情により2週間空いて、6週経過時点より運動療法開始。初回の運動療法は後方(棘下筋)と後下方(小円筋)のストレッチングから開始し、効果はGH関節の可動域が510°改善する程度であった。6週経過時点での医師からの修復状況の見解としては、骨折した大結節は化骨形成は進んでいるもののまだ修復は完全ではない、バンカートリージョンによる骨片もまだ完全な修復ではないであろうという状況であった。

 検討項目としては、まだ骨片の修復が完全ではなくGH関節の後方〜後下方における拘縮が強い状況で、どのように運動療法を進めていけば良いか?治療のメインとして考えられるのは後方〜後下方のストレッチングに加えて、大結節のpull outcuffの等尺性収縮を用いた肩峰下滑液包へのアプローチであるが、骨片がまだ完全に修復しきっていない状況で骨棘形成などのリスクは無いか?また伸展動作(水平伸展含む)動作はまだ行わせない方が良いか?いつから行わせるべきか?というところが検討内容の主であった。

 フロアの方から挙がった意見としては、まず受傷機転の確認と受傷部位の詳細な確認が必要ということが挙げられた。本症例の単純X線画像を再確認すると、大結節は後方がavulsion fractureしており関節窩の方は骨折していない、いわゆるヒルサック・リージョンでバンカートリージョン(ボニー・バンカート)ではないということであった。ただし、あくまでX線画像上での情報のためMRICTCTのほうがスライスが細かく詳細な評価が出来る)での診断が必要であろうとのことであった。また、合わせて軟部組織の損傷も確認すれば、外旋や伸展動作の開始時期も決定しやすいとのことであった。しかし、軟部組織に損傷があったとしてもすでに6週経過しているので、徐々にストッレッチ・収縮等も行っても良いのではという意見も挙がった。

 これらの意見に加えて、後方〜後下方のストレッチングから開始し前方へのoblique translationによるストレスを軽減させ、同時に肩甲帯へのアプローチを行うべきとの意見も多数挙がった

 理事の先生方から挙がった意見としては、まず受傷直後〜4週までにすべきこととして、①大結節骨折がavulsion fractureのため固定は外転位固定が望ましかった、②初期は肩甲帯のリラクゼーションやstooping exを行った方が良い、③エコーにて骨片の修復状況(不安定性)を確認する、等が必要であると意見をいただいた。現状では、今までの経過から骨片は動いておらず安定しているため、転位の心配はそれほど無い、6週も経過しているので特に気にせず運動療法を進めてよいのでは?もし心配なようであればCTMRIの確認、またエコーにてドップラー反応をみる等の確認をすべきではないかと意見をいただいた。また、アプリヘンションテストを行い前方動揺性や疼痛の確認を行い、現状確認や修復状況の確認をすべきとの意見もいただいた。

 これらの意見をまとめると、本症例は前方脱臼に伴うヒルサック・リージョンを合併した6週経過の症例であり、骨片は安定して軟部組織の修復も進んでいるので、運動療法は特にリスクを恐れず後方〜後下方のストレッチングから開始し、徐々にcuffや肩峰下のアプローチを行って、最終的に2ndの外旋がきれいに入る状況を目指すのが妥当ではないかと考える。また運動療法の期間の目安としては3ヶ月くらいが妥当ではないかというところが今後の展望である。

                 (文責:千葉おとなとこどもの整形外科 源裕介)











症例2 60歳代 女性 烏口鎖骨間に著明な圧痛と肩挙上制限を認めた一症例

 症例は肩凝りを主訴として来院された60歳代の女性である。問診で2年前に交通事故で肩鎖関節脱臼をし、二か月後にフックプレートを施行した。その半年後に抜釘した際cadenat法を行っていたことが分かった。肩関節の可動域は挙上95度、結帯は殿裂部で烏口鎖骨靭帯周囲に疼痛を認めた。烏口鎖骨靭帯周囲を軽く触れるだけで強い痛みを訴えたが、同部をエコーでみたところ血管新生は認めなかった。初回の治療では圧痛が強かったため、肩甲帯を動かすことで疼痛が増悪することを懸念し治療は胸椎の伸展可動域改善を行った。しかし、症状に変化はなく主たる肩関節可動域制限因子は肩甲胸郭関節由来と判断し、23回目の治療では①肩甲上腕関節の可動域が比較的保たれており、②手術から長期経過していたこと③安静時痛がなかったこと④超音波エコーでは血管新生を認めなかったことから疼痛自制内で肩甲胸郭関節の運動を選択し行った。具体的な方法は背臥位で左右の肩甲骨を交互に下制し、肩甲胸郭関節の可動性を改善していった。これを数分程行った後に可動域を測定したところ、挙上155度、結帯L1と著明な可動域改善と烏口鎖骨靭帯周囲の圧痛軽減を認めた。その後は、僧帽筋、三角筋の筋力強化や肩甲上腕関節の上方組織の癒着剥離を中心に行っていき現在屈曲165度、結帯Th7まで改善した。

 

検討項目は①病態の解釈②損傷靭帯の修復過程における圧痛所見の解釈とした。

     術創部での鎖骨上神経の癒着の可能性を指摘された。肩甲帯下制エクササイズで神経の滑走が改善されたことで、挙上、結帯の可動域の拡大と疼痛の軽減に至ったのではないかと意見がなされた。

     一般に靭帯損傷後の理学療法は、修復がある程度落ち着くまではストレスを加えない配慮が必要となり、その指標に損傷靭帯の圧痛所見や期間が用いられる。今回は圧痛を認めるものの1年以上経過しており、腫脹、発熱、安静時痛がないことなどから炎症ではないとされ総合的に判断していくことを示された。

以上のことから、一見わかりづらい症例であっても、解剖学や生理学と照らし合わせていくことで病態の理解に繋がることを今回の症例を通し再確認できた。

現在はまだ圧痛及び可動域制限が残存しているので今後経過を追って報告していきたい。

                    (文責:平針かとう整形外科 水野弘道)