226回整形外科リハビリテーション研究会報告

2014.05.17

症例1 

症例 50歳代 男性 左肩甲骨背側に鈍痛と鋭痛を訴える一症例

 症例は50歳代前半の男性である。平成2512月頃より特に誘因なく、左肩関節周辺の鈍痛および鋭痛を自覚していた。疼痛が増悪したことで当院を受診し、運動療法が開始となった。既往に胃癌があり、平成252月に摘出術を施行されている。胃癌全摘出時の皮切は、腹部の右下方から左上方にまで渡り、腹部を横断する比較的大きなものであった。座位姿勢は腰椎の前弯は消失し、胸椎過後彎・肩甲骨外転・下方回旋位を呈し、いわゆる不良姿勢であった。肩関節、頸部のレントゲンおよびMRIは多少の変性変化を認めるものの、特異的な所見はなかった。主訴は就寝時頃の安静時痛であった。圧痛を棘下筋下部線維に限局的に認め、体を仰け反らすほどの鋭痛であった。鈍痛は肩甲帯周囲に認め、頸部から肩関節外側に及ぶものであった。棘下筋、棘上筋をはじめとして患側の肩関節周囲筋は萎縮していた。肩関節関節可動域は屈曲(170°/165°)(健側/患側)GH屈曲(110°/105°) 、伸展(40°/35°)1stER(80°/75°)2ndER(100°/90°)2ndIR(70°/60°)3rdIR(10°/5°)、結帯(Th9/Th9) であり、若干の左右差を認めるものの、拘縮の要素はそれほど強くはなかった。2ndERと結帯時に棘下筋部の疼痛を訴えた。腋窩神経領域に健側に比べて7/10の感覚鈍麻、MMTにて健側5に対して患側上肢においてMMT4と筋力低下を認めたが、上肢のしびれや腱反射の異常は無かった。上腕・前腕周径にて健側に比べ患側で小さく、0.5cm2.5cmの周径差を生じていた。AFDは左右ともに3横指であったが、Tr-AFD(前胸部柔軟性テスト)にて明らかに左の制限を認めた。整形外科的テストとしてJackson compression testSpurling testWright testEden testAdson testMorely test、上肢下方牽引テスト、肩甲帯挙上テストは全て陰性であった。四辺形間隙部へのブロック注射は一時的に効果を認めた。以上の所見から特異的なものは得られなかったが、ブロック注射が一時的に奏功したこともあり、不良姿勢に伴う胸郭出口症候群と四辺形間隙部症候群のdouble lesionと推察した。1b抑制を用いた棘下筋・小円筋のrelaxation、前胸部tightness 除去、肩甲骨周囲筋収縮誘導、姿勢保持練習を行った。加療後に一時的に改善を認めるものの、次回来院時には同様の症状を呈していた。これらの経過を繰り返したため、今回検討する運びとなった。また翌週にMRIを撮影する予定であった。フロアでは棘下筋に限局した鋭痛の解釈および病態を把握するために足りない評価について検討された。画像としては、何が疼痛を出しているのかを詳細に判別すべくエコーを用いたり、具体的にどのレベルの頸部の可動性の低下があるのかを頸部の機能写にて確認したりしてはどうかとの意見があがった。また肩甲上神経由来の鋭痛の推察の元、その限局した部位をエコーにて撮影すべきとの意見もあった。肩甲帯の位置を変えて圧痛がどのように変化するのかをみる評価の方法も提示された。さらに頸部、胸郭、肩関節への運動療法の無効、胃癌の既往からも、癌の転移による疼痛の可能性もあり、癌の転移の場合、転移性か原発性なのか、ステージはいくつなのか等確認すべきとの指摘があった。肩甲上神経麻痺にしては疼痛が鋭く、筋の限局した疼痛であれば、筋の収縮時痛があるべきである。これらのことからもやはりneuromaや癌の転移の可能性が考えられた。

 患者の訴えから考えられ得る疾患を予測し、既往歴を含め全体像を把握することの重要性を再確認させられる症例であった。また今回検討して頂いた所見を含め、細かく評価をし、治療を行っても効果が現れない場合(もちろん理論的で正確な技術の施行のもと)、他の病変を考えることも重要であると考えられた。

(文責:森戸剛史)