227回整形外科リハビリテーション研究会報告

2014.08.23

症例2

72歳 男性 症候性腱板断裂により職場復帰が困難な一症例

 約半年前にトラックの荷下ろしの際、左肩を捻り受傷した。某総合病院を受診し、投薬と安静の指示を受けて経過観察となったが、疼痛とROMに変化は認められなかった。その後MRIを撮影し、腱板断裂と診断され、翌日より某整形外科にて運動療法開始となった。

 主訴は挙上困難、運動時痛、夜間痛であった。MRI画像では、棘上筋の完全断裂と棘下筋の不全断裂が認められた。肩関節のROM(右/左)は、屈曲180°/20°p、外転180°/20°p1st外旋65°/10°p1st内旋90°/15°pで疼痛による制限を認めた。疼痛はすべて肩峰下に出現していた。圧痛は棘上筋、棘下筋、大結節、肩甲下筋腱、小結節、結節間溝、肩甲挙筋、僧帽筋上部線維に認められた。視診・触診にて、棘上筋、棘下筋に筋萎縮が認められ、筋収縮がわずかに確認できる程度であった。腱板筋群のMMTは疼痛により、測定不可能であった。運動療法として、僧帽筋上部線維、菱形筋、肩甲挙筋のリラクゼーション、肩甲骨可動域訓練、僧帽筋中部・下部線維の筋力トレーニング、棘下筋のリラクゼーション、小円筋と大円筋のストレッチング、肩甲上腕関節後方・後下方関節包の伸張操作、腱板筋の収縮訓練を行った。

運動療法開始4週後、肩甲骨は右に比べ左で軽度外転位であり、翼状肩甲を呈していた。またAFD(背臥位)は右4.5横指、左2.5横指であった。肩関節のROM(右非固定・固定/左非固定・固定)は屈曲180°・90°/175°・85°、外転180°・85/170°・702nd外旋90°・80/85°・70°、2nd内旋90°・80°/65°・30°、水平伸展135°・85/105°・80°と左右差が残存しており、可動最終域で肩峰下に疼痛が生じていた。圧痛は、棘下筋横走線維と斜走線維、小結節、肩甲下筋腱、結節間溝に認められた。MMTは棘上筋、棘下筋、肩甲下筋が2レベルで、エコー所見からも棘上筋、棘下筋に筋萎縮と滑走性低下が認められた。以上のことより、肩甲上腕関節の可動域および肩甲骨周囲筋の筋力は改善傾向であったが、腱板筋の筋力発揮が難しく、職場復帰に必要となる2nd内旋位での動作獲得は困難であった。運動療法として、僧帽筋中部・下部線維の筋力トレーニング、腱板筋の筋力トレーニング、肩甲上腕関節後方・後下方関節包の伸張操作を行った。

検討項目は、@他に運動療法でできることはないか、A保存療法で改善が期待できるのか、手術が必要なのかの2点であった。

 フロアーからは、受傷から約半年経過し、MRI画像より棘上筋断端の退縮や脂肪変性が認められることから、Patch法等による手術を行っても、筋力は改善しない可能性が高いのではないかとの意見があった。術後に仕事復帰しても、力仕事は困難となることが予想されることに加え、運動療法により疼痛が軽減していることから、手術の絶対的適応ではなく、保存療法で良いのではないかとの見解に至った。

職場復帰には2nd内旋位での物品の挙上・運搬動作が必要とのことである。2nd内旋の可動域制限が残存しており、上腕骨頭の前上方への偏位を防ぐためにも棘下筋、小円筋を含む、肩甲上腕関節後方から後下方にかけての柔軟性を改善する必要があるとのことであった。一方で、2nd内旋では肩峰下圧が上昇し疼痛が生じやすいため、動作の変更が必要ではないかとの意見があった。肩甲帯の挙上等で代償することで、仕事が可能かどうかを確認してはどうかとの提案があった。

症候性腱板断裂例は、残存腱板筋の筋機能、肩甲帯の機能、肩甲上腕関節の可動域を改善することで、疼痛なく上肢の運動を行うことが期待される。特に、肩甲上腕関節の後方から後下方にかけての柔軟性を十分に改善することが重要である。断裂した筋の筋力改善には運動療法のみでは限界があり、手術の必要度を判断するためにも、運動療法で改善が期待できる点とできない点についての詳細な評価が重要であることを学んだ症例であった。

 

                (文責:井坂晴志)