228回整形外科リハビリテーション研究会報告

2014.10.18 於:国際医学技術専門学校

症例1

16歳 女性 腰痛と下肢痛を呈する体操競技者の一症例

 

1年前より慢性的な腰痛があり、症状の程度を確認しながら器械体操を続けていたが、前日の練習で、突然今までと異なる疼痛が出現したため、某整形外科クリニックを受診し、運動療法開始となった。単純X線画像では、特異的な所見は認められなかった。

 主訴は運動時および座位時の疼痛であり、時に安静時痛を認めるとのことであった。運動時痛は、体幹の前屈約30°で出現し始め、指尖が下腿遠位レベルまで達すると増強する。また後屈時痛も認められた。疼痛部位は、右下位腰部から殿部である。圧痛は、右L4/5L5/Sの椎間関節および同レベルの多裂筋、後仙腸靭帯、仙結節靭帯、腸腰靭帯、梨状筋に認められた。整形外科テストでは、右の股関節深屈曲、Friberg testPatrick testで疼痛が出現し、それぞれ骨盤固定下では軽減した。PLF testは、右120°左145°で制限と疼痛が出現した。Ober testは両側とも陽性、SLRは両側とも約110°であった。運動療法として、多裂筋のリラクゼーション、L4/5L5/Sの椎間関節の可動域訓練、大腿筋膜張筋のストレッチングを施行し、仙腸関節ベルトの使用方法の指導を行なった。また、医師よりスポーツの中止が指示された。

運動療法開始2週間後には、前屈時痛は消失したが後屈時痛は残存していた。疼痛部位は初期と同様で、圧痛は右L4/5L5/Sに認められた。

運動療法開始3週間後、誘因なく腰痛の増強とL5領域に沿った疼痛としびれが出現した。MRIでは、L4/5において、やや右よりの後方正中に椎間板の突出を認めるが、髄核の分離と転位は生じていない。後縦靭帯の破綻や分離症を疑う所見は認められなかったとのことである。

徐々に腰部痛と下肢痛は増強し、運動療法開始5週間後では、安静時痛(NRS下位腰部6、右下肢7、左下肢2)や夜間痛(2回程目覚める)があり、どの肢位においても疼痛が強い状態であった。疼痛部位は、下位腰部全体とL5領域に沿った下肢(右>左)であった。疼痛は、体幹の前屈約30°、後屈、両側屈で増強した。ROM測定時は、股関節屈曲右125°、伸展15°、内転5°左伸展10°で疼痛が増強し、骨盤固定下では疼痛は出現しなかった。また、SLRは右50°左80°で疼痛が増強した。 整形外科テストでは、PLF test115°、Ober test両側とも陽性、大腿直筋短縮テスト両側とも陽性であり、疼痛が増強した。圧痛は、右がL5/S椎間関節、梨状筋、左がL4/5椎間関節、後仙腸靭帯、梨状筋に認められた。また、足関節と足趾のMMT、大腿四頭筋腱とアキレス腱の反射、感覚に異常は認められなかった。

現在、疼痛軽減を目的に内服を使用し、運動療法では、楽な姿勢の探索、筋のリラクゼーション、神経の滑走を行なっているが、改善が得られていない状態である。今後、脊椎専門医が在籍する病院を紹介し、ブロック療法などを検討予定である。

検討項目として、①なぜ椎間板ヘルニアの症状が出現してきたのか②現在は椎間関節・椎間板・神経根由来の疼痛でよいか③疼痛が強い時期に、最優先にすべき治療はなにか④運動療法で行うべき事、行っておいたほうが良い事、という点を検討していただいた。

フロアーからは、突然腰痛の増強が認められたこと、腰椎椎間板ヘルニアの症状が比較的軽度で痛みの強さが一定しないこと、MRIにて椎間板突出が比較的軽度であることに加えて、T2強調像でL5椎弓に高輝度信号を認めたことから、症状の原因が分離症による可能性があるとの意見が挙げられた。分離症の初期の場合、体幹の前屈時痛を伴うことや、分離部での炎症が波及し神経根の刺激になっている可能性がある。この機序によりL5神経根症状が出現している可能性が考えられるとのことであった。またMRIで終板障害も疑われるため、再評価が必要であるとの意見があった。分離症であることを確認する方法として、症状および棘突起の圧迫痛の確認後、分離症の診断に適した断面でのMRI撮影をしてみてはどうか、との提案があった。これらは、医師とよく協議して進めていくことが重要であり、確認した画像や理学所見を医師に説明できることが大切であるとの提言があった。分離症の初期であれば安静、固定によって分離部分の治癒を促すことが治療となる。今後、運動療法によって前後屈動作の改善を行なう際は、これまでのように股関節による代償ではなく、腰椎の可動性を獲得する必要があるとの意見があった。

今回のように診断名と主訴とする症状とが一致しない場合、MRI等の画像所見、症状の出現条件などをよく確認し、病態に合った対処方法を医師とともに考えていくことが重要であると再確認できた症例であった。

 (文責:山本紘之)

 

症例2

44歳 女性 石灰沈着を呈した右肩関節周囲炎の一症例

 

約半年前から右肩関節に疼痛が出現し、約1か月前から増悪してきたため、某整形外科クリニックを受診し、運動療法開始となった症例である。

 主訴は結帯動作困難であり、痛みのために結帯から上肢を体側に戻すことができないとのことであった。単純X線画像にて、肩峰下に石灰沈着が認められた。肩関節のROM(右非固定・固定/左非固定・固定)は、屈曲150°・85°/155°・95°、外転150°・70°/160°・85°と制限を認めたが、疼痛は生じなかった。また、結帯は第4腰椎棘突起レベル/7胸椎棘突起レベルであった。伸展0°5°/55°・40°、内転-5°・-20°/0°・-10°と制限を認め、肩関節外側から後方にかけて疼痛が出現していた。圧痛は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋、大結節、小胸筋、烏口肩峰靭帯とその周囲に認めた。また、棘上筋と棘下筋に筋萎縮が認められた。肩甲骨アライメントは健側に比べ下方回旋、外転位を呈しており、翼状肩甲も認められた。MMTでは、右側の棘上筋、棘下筋、肩甲下筋が3+であり、各筋の付着部に疼痛が出現していた。僧帽筋中部・下部線維3、前鋸筋4レベルであった。エコー所見では、棘上筋内に石灰沈着を認めた。またカラードップラ法では、石灰沈着より近位部の棘上筋と烏口肩峰靭帯周囲に血流増加を認めた。

以上のことから、結帯動作時の疼痛は、棘下筋、小円筋、IGHLCなどの後方から後下方にかけての伸張性低下が肩峰下圧の上昇を惹起し、 棘上筋の石灰沈着、SABなどの上方支持組織の滑走障害が生じたものと考えられた。運動療法は肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節に対して行った。肩甲上腕関節に対しては、烏口肩峰靭帯と上方支持組織との滑走訓練、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋のリラクゼーションとストレッチング、IGHLCの伸張操作を行った。肩甲胸郭関節に対しては、小胸筋のリラクゼーション、肩甲骨の可動域訓練、僧帽筋筋力トレーニングを行った。運動療法開始4週後、運動時の疼痛は軽減したが、結帯制限は著明であり、またそこから上肢を戻す際の疼痛は残存していた。

 検討項目は、①疼痛の解釈が正しいのかどうか、②治療方針についての2点であった。

フロアーからは、結帯から上肢を戻してくる際の動作が一度、肩甲骨を下方回旋方向に動かし疼痛を回避しているのではないかとの意見があり、石灰沈着部分の病態解釈と動作への影響について考える必要があった。エコー画像にて、石灰沈着はsuperior facetからmiddle facetにかけて存在し、石灰の深層部は無エコーの為、石灰は骨化してきていると判断できるとのことであった。また、石灰沈着腱板炎の初期にみられるような石灰周囲での強いドップラー反応は認められないとのことであった。以上の点から、本症例の疼痛は、運動療法が無効な石灰沈着を伴う強い炎症ではなく、棘上筋から棘下筋での石灰沈着により、肩峰下でのインピンジメントを起こした結果として生じたものと推察された。肩甲上腕関節後方・後下方のtightnessにより、上腕骨頭が前方・前上方へ偏位し、前上方組織にはストレスが生じていることが考えられるため、エコーにてLHBや肩甲下筋最頭側部の停止腱にあたる舌部の評価が必要であるとの指摘があった。石灰部の摘出手術の必要性については意見が分かれるところである。摘出により肩峰下圧の軽減が得られ、インピンジメントによる疼痛を回避できる可能性が高い。しかし、動作困難が結帯に限定されており、運動療法で疼痛が軽減しているため、保存療法を継続してはどうかとの意見があった。筋攣縮や軟部組織の短縮を改善しても症状が残存する場合には検討してもよいのではないかとの意見にまとまった。

 方針としてはこれまで通りでよいと考えられるが、インピンジメントを起こさずに治療することが容易ではなく、具体的な方法論を模索する必要がある。その一例として、肩甲骨面挙上45°での軸回旋を用いる方法が紹介され、石灰化部分を含む大結節のインピンジメントを回避した状態で棘下筋を伸張することができ、結帯動作が獲得できるのではないかとのことであった。実演を交えて紹介された。

 石灰沈着などセラピストによる改善が難しい問題が存在する場合も、運動療法での効果が期待できる病態が主な原因となっていないかどうかを適切に判断する必要があり、エコーを含めた詳細な評価が大切であることを学んだ症例であった。

(文責:井坂晴志)

症例3 50歳代 男性 左肩甲骨背側に鈍痛と鋭痛を訴える一症例

 症例は50歳代前半の男性である。平成2512月頃より特に誘因なく、左肩関節周辺の鈍痛および鋭痛を自覚していた。疼痛が増悪したことで当院を受診し、運動療法が開始となった。既往に胃癌があり、平成252月に摘出術を施行されている。胃癌全摘出時の皮切は、腹部の右下方から左上方にまで渡り、腹部を横断する比較的大きなものであった。座位姿勢は腰椎の前弯は消失し、胸椎過後彎・肩甲骨外転・下方回旋位を呈し、いわゆる不良姿勢であった。肩関節、頸部のレントゲンおよびMRIは多少の変性変化を認めるものの、特異的な所見はなかった。主訴は就寝時頃の安静時痛であった。圧痛を棘下筋下部線維に限局的に認め、体を仰け反らすほどの鋭痛であった。鈍痛は肩甲帯周囲に認め、頸部から肩関節外側に及ぶものであった。棘下筋、棘上筋をはじめとして患側の肩関節周囲筋は萎縮していた。肩関節関節可動域は屈曲(170°/165°)(健側/患側)GH屈曲(110°/105°) 、伸展(40°/35°)1stER(80°/75°)2ndER(100°/90°)2ndIR(70°/60°)3rdIR(10°/5°)、結帯(Th9/Th9) であり、若干の左右差を認めるものの、拘縮の要素はそれほど強くはなかった。2ndERと結帯時に棘下筋部の疼痛を訴えた。腋窩神経領域に健側に比べて7/10の感覚鈍麻、MMTにて健側5に対して患側上肢においてMMT4と筋力低下を認めたが、上肢のしびれや腱反射の異常は無かった。上腕・前腕周径にて健側に比べ患側で小さく、0.5cm2.5cmの周径差を生じていた。AFDは左右ともに3横指であったが、Tr-AFD(前胸部柔軟性テスト)にて明らかに左の制限を認めた。整形外科的テストとしてJackson compression testSpurling testWright testEden testAdson testMorely test、上肢下方牽引テスト、肩甲帯挙上テストは全て陰性であった。四辺形間隙部へのブロック注射は一時的に効果を認めた。以上の所見から特異的なものは得られなかったが、ブロック注射が一時的に奏功したこともあり、不良姿勢に伴う胸郭出口症候群と四辺形間隙部症候群のdouble lesionと推察し、1b抑制を用いた棘下筋・小円筋のrelaxation、前胸部tightness 除去、肩甲骨周囲筋収縮誘導、姿勢保持練習を行った。加療後に一時的に改善を認めるものの、次回来院時には同様の症状を呈していた。これらの経過を繰り返したため、今回検討する運びとなった。また翌週にMRIを撮影する予定であった。フロアでは棘下筋に限局した鋭痛の解釈および病態を把握するために足りない評価について検討された。画像としては、何が疼痛を出しているのかを詳細に判別すべくエコーを用いたり、具体的にどのレベルの頸部の可動性の低下があるのかを頸部の機能写にて確認したりしてはどうかとの意見があがった。また肩甲上神経由来の鋭痛の推察の元、その限局した部位をエコーにて撮影すべきとの意見もあった。肩甲帯の位置を変えて圧痛がどのように変化するのかをみる評価の方法も提示された。さらに頸部、胸郭、肩関節への運動療法の無効、胃癌の既往からも、癌の転移による疼痛の可能性もあり、癌の転移の場合、転移性か原発性なのか、ステージはいくつなのか等確認すべきとの指摘があった。肩甲上神経麻痺にしては疼痛が鋭く、筋の限局した疼痛であれば、筋の収縮時痛があるべきである。これらのことからもやはりneuromaや癌の転移の可能性が考えられた。

 これらの検討をもとに患者に胃癌について伺うと、胃癌の摘出時には食道も一部摘出し、癌が転移していた3個のリンパを含む50個のリンパを同時に摘出していたとのことであった。また胃癌のステージは3であった。MRIの結果、肩甲骨の周辺にT1lowT2isoで周囲にT2highの炎症像を伴う占拠性病変を認め、経過からも腫瘍性病変の拡大に伴う肩甲上神経および腋窩神経障害の症状が出現したものと考えられた。これらの情報をもとに専門病院へ紹介となった。おそらく骨腫瘍であろうとの専門医からの返答であった。肩甲骨の前後方向に軟部病変があることから、リンパ腫または骨髄腫、さらに転移性骨腫瘍も考えられ、ここまで転移していると、おそらく予後は悪く、余命も短いだろうとのことであった。他院への紹介の後の経過は不明である。

 当然のことではあるが、既往歴の重要性を再確認した症例であった。また考えられ得るだけの理学所見をとり、治療を行っても効果が現れない場合(もちろん理論的で正確な技術の施行のもと)、他の病変を考えることも重要であると考えられた。

 

(文責:森戸剛史)