229回整形外科リハビリテーション研究会報告

2014.11.15 於:アイ.エム.ワイ貸し会議室

症例1 70歳代女性 右TKA再置換術後、Looseningにより再々置換術を施行した一症例

 右変形性膝関節症のため、11年前に右TKAを施行した症例である。6年前に右TKAのインプラント沈下が認められ、Zimmer Nexgen LCCKを用いた右TKA再置換術が施行された。術後当初より右下腿遠位に軽度の疼痛が出現していたが、再置換術後1年経過した5年前頃より右脛骨遠位の疼痛が増強し、同じ時期より左膝関節痛も増強し始めた。その後に右TKALoosening認めるようになり、歩行による移動範囲も狭小化したことから、今回右TKA再々置換術施行に至った。手術はZimmer Nexgen LCCK抜釘後にZimmer Nexgen RHKを用い、骨セメントにて固定となっている。術中可動域は膝屈曲120°、伸展であった。

術前の可動域は、右膝関節屈曲120° 伸展10°、左膝関節屈曲105° 伸展-45°、右足関節背屈 底屈25°、左足関節背屈10° 底屈50°であった。両股関節の可動域制限は認められなかった。下肢筋力はMMTにて右膝関節伸展3-であり、lag30°であった。左膝関節伸展は4-、右股関節周囲筋群は3、左股関節周囲筋群は4であった。 FTAは右197.4°、左200.5で両側ともに高度な変形が認められた。歩行は杖を使用しており、主に屋内移動が多い状況であった。右立脚時に右膝関節のロッキングが認められた。

 検討時である術後3週での可動域は、右膝関節屈曲120° 伸展、筋力はMMTにて右膝伸展3-であり、Extension lag 2530°である。右側のFTA175.0°であり、伸展位での内外反動揺は認めなかった。棘果長は右78cm、左74㎝であった。歩行は歩行器歩行レベルであり、術前と同様に右膝関節のロッキングを認めた。長距離は車椅子、短距離は歩行器歩行にて移動している。主訴は歩行困難と歩行時左膝痛である。

 検討項目は、①膝関節のLooseningを来した要因と再発予防の方法、②Extension lagへのアプローチ方法、③現在、術後3週目、退院予定は術後6週であることを踏まえた今後の理学療法展開についてであった。

 フロアより、骨盤・腰椎の退行性変化により、骨盤後傾位、股関節外転・外旋位となった。その結果として膝関節屈曲位での荷重となったことから、膝関節の外反動揺が出現したのではないかとの意見が出た。再発予防に関しては、膝関節装具の着用、脚長差への対策としての左補高、Extension lagの改善等が有効ではないかとの意見が出た。 

 Extension lagの方法論として、腹臥位でのsettingやスリングの使用、壁を用いたSemi close下での運動療法などの提案もあったが、lagへのアプローチには時間を要し、これまでの長期経過からも支持脚となる可能性は低いため、左下肢の筋力発揮やアライメント改善によって支持脚としての機能を向上させ、右膝は装具などを検討する必要性があるのではないかとの意見でまとまった。今後、右膝のインプラント折損が起きた場合、再置換術を施行することは困難であり、膝関節固定術となることが想定される。右膝を保護する目的で杖歩行よりもWクラッチ等での歩行が望ましいのではないかとの意見が出された。自立歩行の獲得に時間がかかる場合には回復期への転院も検討する必要があるではないかとの提言があった。

 本症例のように経過が長く、機能的予後が良くない場合、移動能力の再獲得のために、患肢の機能を高めるか、代償機能を獲得するかの判断に迷うところである。術前の理学所見、手術内容などから予後を予測し、生活背景も十分考慮した上で、医師と協議しながら方針を立てる必要があると考えられた。


                (文責:猪田茂生)



症例2 50歳代 男性 手関節屈筋腱断裂(zoneⅤ)、正中神経断裂を呈した症例

 今回、手関節屈筋腱断裂(zoneⅤ)、正中神経断裂を呈した症例の運動療法を経験した。腱と神経の修復過程を考慮して治療プログラムを立案し、仕事復帰に至ったので、その過程について報告した。また、神経回復に対しての助言も頂いたので報告する。 

 症例は50歳代の男性である。某日、鋭利な鉄板をクレーンで吊ってひっくり返す作業中に誤って受傷。当院に来院し左手関節屈筋腱断裂(zoneⅤ)と診断され、緊急手術が行われた。術中所見では、檮側手根屈筋、長母指屈筋、長掌筋、小指以外の浅・深指屈筋、檮骨動脈、正中神経の断裂が確認された。檮骨動脈本幹は8-0プロリンで2針縫合され、枝はバイポーラで焼却した。正中神経は8-0プロリンで神経上膜縫合された。檮側手根屈筋(筋腱移行部)はkessler変法にて縫合された。長母指屈筋、長掌筋は水平マットレス縫合、浅・深指屈筋檮側(腱部)はkessler変法、尺側(筋部)は水平マットレス縫合された。なお、腱はすべて4-0プロリンが使用された。術後の固定は手関節掌屈位、MP関節屈曲位、IP関節伸展位にて固定された。

 zoneⅤの特徴として、①腱が表在にあるため、皮膚や周囲組織と容易に癒着を起こす。②浅指屈筋と深指屈筋腱間のグライディングを獲得し、屈筋の筋・腱単位の拘縮を予防することが必要。などが挙げられる。術後1日目にkleinertの装具を採型した。コンセプトとして広範囲な損傷、断裂があり、すべての組織を縫合していることから、癒着は必発であり、早期からの癒着予防が最重要となる。そして自動屈曲が行える3週までに癒着を最小限にするため、示指〜小指の自動伸展と他動屈曲を一括で行えるkleinertを選択した。長母指屈筋は徒手で対応できると判断し、特に浅・深指屈筋腱間のグライディングを獲得することを目標とした。フロアより、装具に関しては純粋なkleinertではなく、kleinert変法+Duran法であるとの指摘を頂いた。また、3週間は治癒のために固定して保護していくのか、癒着予防のために早期から装具療法を行うのかは、医者、セラピストの豊富な知識、患者の理解など条件をみて決定すべきとの意見を頂いた。

 術後3日目より運動療法を開始した。この時期は炎症期で縫合糸によってのみ連結性が保たれていると考え、愛護的な他動運動でIP関節の拘縮を予防した。術後11日目に装具完成したが、この時期は線維増殖瘢痕形成期で新しい瘢痕は極端に弱く断裂のリスクは高いと考え、装具療法は午前・午後の各20回ずつとした。

 術後3週では瘢痕成熟期の始まりであるが、自動屈曲をさせてみると滑らかな屈曲ができたので、縫合腱を支持しているのはごく薄い癒着であり、腱の連結は自動運動を行うには十分だが、断裂のリスクも高いと判断した。1週間自動運動の開始を延期し、他動屈曲—肢位保持エクササイズ(place-hold exercise)から開始した。術後4週で自動屈曲を開始。感覚検査(セメス)の結果、正中神経領域の感覚は脱失、筋肉の収縮は触診とエコー画像上確認できず、MMT0レベルであった。またtinel signは創の近位部に認めた。

 術後6週で瘢痕による腱の癒合は完成したと判断し、自動屈曲運動の強化、穏やかな他動伸展を開始した。術後7週瘢痕のリモデリングは進んでおり、安全と判断したため、自宅退院し、外来通院となった。その後は、伸展、屈曲、グライディングを徐々に強度を上げて行き、術後10週で仕事復帰、術後12週で最大伸展獲得した。術後20週で握力は右36kg、左29kgとなり、各筋のグライディング・伸張性は獲得した。正中神経の回復は見られておらず、感覚障害と巧緻動作が困難との訴えがあった。

 zoneⅤは他のzoneと比べ栄養が豊富な場所なので、プログラムを1週早めてもよいと言われるが、本症例は癒着が極軽度であると判断したため、通常通りのプログラムで進めた。また腱、神経の修復過程を考慮して治療プログラムを立案した結果、良好な成績を得る事ができた。

 

 神経の回復については縫合自体に問題があったか、もしくは瘢痕によって血流が遮断されているか。現在の神経の状態を神経伝導速度や、エコーで確認することで腫大やくびれなど形態変化が観察されるかもしれないとの意見を頂いた。また、今後経過を診て回復の兆しがなければ2次縫合の検討も、期間は一概には言えないが必要かもしれないとの意見を頂いた。今後も経過を追っていく必要がある。

 

 屈筋腱断裂症例の治療において、条件が整えば早期から装具などを使用して癒着を予防することで、その後の治療がスムーズにいくこと、患者の状態を注意深く観察し、治療プラグラムをその都度考慮することの重要性を感じた。

 

文責:桑名西医療センター 小牧亮介