232回整形外科リハビリテーション研究会報告

2015.3.21 於:アイ.エム.ワイ貸し会議室

症例1 上腕二頭筋腱損傷疑いの一症例

 

 症例は61歳男性で、職業は倉庫内作業(現在は事務職)である。

 現病歴は、平成26年5月に卓球中スマッシュをしてから右手が重くなり、同時に音と疼痛が確認された。当初は特に病院には行かずしばらく様子を見たが、肘関節自動屈曲困難の症状が一向に改善の兆しが無く、平成27年1月中旬に当院を受診し加療が開始された。

 医師情報では、圧痛は特に見られず、jackson testspurling testは共に陰性であったため、神経症状は現時点では確認されなかった。またpainful arc signdrop arm signも見られず、腱板損傷の所見も確認されなかった。肝心な上腕二頭筋腱については、自動屈曲が困難なためspeed testMMTともに精査困難な状況であった。MRI所見は、明らかな筋損傷なし、結節間溝付近の水腫も無く、ただLHBの走行が若干近位側で追えにくいと言う状況であった。

 平成271月下旬よりPT開始が開始された。開始当初は自動屈曲困難な状況が続いており、上腕二頭筋の萎縮も激しかったため、上腕二頭筋の筋力強化を行うよう医師から指示が出た。そのまま筋力改善を中心にPTを進めていたが特に変化はなく、約1ヶ月が経過し著明な変化はみられなかった。

 PTを継続中、自動屈曲は可能であったが、自動屈曲を続けていると突然屈曲困難な状況に陥る現象が度々見られ、それが端座位・上肢下垂位では症状が顕著に表れていた。前腕回内位・中間位・回外位で運動を区別して上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋のそれぞれの優位な状況を作ったが、結局同じ現象が起きてしまうことは変わらなかった。烏口腕筋、上腕三頭筋は比較的出力良好であり、sensoryの著名な低下も特に見られなかったため、神経症状としての所見が合致せず、この時点での神経症状は考えることはできなかった。また肘関節屈曲が患側130°、健側145°(passive)と可動域に差が見られたが、運動療法によって130°から140°まで改善をしても、自動屈曲運動の変化をもたらすことはできなかった。収縮時の腱性部(遠位・近位ともに)緊張は触れられ、力の伝導が途切れている感じはなく、エコー所見でも健側比はあるものの機能していないようには見えなかったため、断裂の可能性も低かった。唯一、肩関節伸展位での肘屈曲・回外は、多少やりやすい感じはみられた。

 運動療法では、EMSを用いて、収縮が入るのをフィードバックしながら自動屈曲運動(上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋)を行ったり、肩関節伸展位での自動回外運動のセルフエクササイズなどを行ったが、著明な変化はもたらされなかった。

 そこで検討項目として、これは単に筋萎縮による症状と捉えるべきなのか、またきっかけがあるので、外傷による症状であるとは考えられるが、他に考えられる損傷部位はあるのか、それともこのまま不変ならCTなど依頼した方が良いのだろうかというところを挙げさせてもらった。

 フロアから上がった意見では、末梢神経由来のものか、頸椎症性筋萎縮症(keegan型)が疑われるとの意見が多く上がった。MRI画像所見では、著名な損傷部位は見当たらず、腱板の状態も比較的良好な状態であったが、上腕二頭筋に加えて三角筋の萎縮が非常に目立つという状況であった。そのため、本症例は断裂や肉離れなどの外傷による症状ではないであろうということが考えられた。現状の所見をまとめると、筋萎縮が著名に出現している部位があり、表在感覚の低下がそこまで顕著ではないというところから、頸椎症性筋萎縮症の可能性が高いと考えられた。しかしながら、現状で頚椎のMRI所見がまだなく、深部腱反射の確認や握力検査、神経伝達速度の計測など、頸椎症性筋萎縮症であるという確証を得るための評価がまだ未実施なので、今後行う必要があるとフロアより指摘を受けた。また、どの領域のmotorがやられているかを確認するため、肘関節屈曲運動に限らず肩関節挙上や前腕回内外の連続運動を行わせ、どの運動で著名に運動困難となるか評価を実施し、「この筋は問題ない、この筋は出力が弱い」など原因を絞っていく作業も必要であると指摘を受けた。頸椎症性筋萎縮症以外で疑われるとしたら、あとは腫瘍などの病変も疑われるので、その辺も含めて医師と相談し、今後の治療方針を決めていくべきであると考えられる。

 最後に、本症例のような病態は非常に珍しいケースと考えられるので、今回の検討内容をもとに再評価を実施し、新たに加療を加えた上でその後の経過をまた報告していきたい。

(文責:源裕介)

症例2

40歳代 女性 石灰沈着を呈した肩関節周囲炎の一症例

 

228回報告書に記載してある症例の経過報告である。

前回の検討結果を踏まえて、再評価を行なった。肩甲上腕関節の可動域は、伸展、内転、内旋(1st2nd3rd)に制限が残存しており、圧痛が棘上筋、棘下筋に認められた。また肩甲骨の可動域も制限されており、肋骨間・前鋸筋にも強い圧痛を認めた。LHBや舌部のエコー画像は特異的な所見を認めなかった。運動療法として、僧帽筋と菱形筋のストレッチング、肋間筋と前鋸筋のリラクゼーション、肩甲骨上方回旋の可動域訓練を行い、自主練習でも肩甲骨内外転運動と体幹の側屈運動を指導し、肩甲胸郭関節の機能改善を図った。そのうえで、肩甲上腕関節に対しては棘上筋と棘下筋の治療を行った。具体的には、棘上筋下を走行する肩甲上神経周囲の脂肪組織の柔軟性改善目的に、鎖骨遠位端と肩甲棘の間に指を深く入れマッサージを図った。同部位の圧痛が軽減したのを確認し、その後同部位より棘上筋を末梢側へと引き込み、筋腹レベルでのストレッチングを行い伸展可動域の拡大を図った。伸展可動域の拡大に伴い、伸展域でのSlip内旋による棘下筋のストレッチングを行った。

治療約3ヶ月後、肩甲上腕関節の可動域は、伸展40°、内転-10°、1st内旋85°、2nd内旋55°、3rd内旋20°と拡大し、主訴である結帯時および結帯から腕を戻す際の疼痛が消失した。エコー所見では初期と比べ石灰のサイズは縮小しており、カラードップラ法では、石灰周囲に血流の増加を認めたが、烏口肩峰靭帯周囲の血流は減少していた。また単純X線画像では、石灰は消失していた。

フロアーからは、疼痛の消失が石灰の性状変化によるものか、肩関節の機能改善によるものかを判断することは現時点では困難であるとのことであった。石灰の性状の評価には、石灰の深層の無エコー像やプローブの圧迫により形状が変化しないという所見だけで石灰が骨化していると判断するには評価が不十分であるとの指摘があった。石灰の性状がどの程度なら自然吸収されるのかもしくは運動療法により吸収を促せるのかを記載した報告は見当たらないため、今後、症例を重ね検討していきたいと考える。

(文責:井坂晴志)

症例3 30歳代の女性

-寛骨臼回転骨切り術の術後早期から可動域制限が生じた一症例-

 

 数年前より左股関節痛が出現し、左変形性股関節症の診断名の下、左寛骨臼回転骨切り術が施行された術後75日が経過している症例です。

手術によりCE角はから32°へと改善した。経過は、術後1週より股関節他動屈曲時に殿部外側から大転子後面にかけての疼痛が出現し、以後屈曲最終可動域で同部の疼痛が続いている。患側の術前可動域は屈曲120°、伸展10°、外転35°、内転20°、股関節伸展位外旋20°、内旋55°であったが、術後7週時点での関節可動域(/)は屈曲110/90°、伸展15/8°、外転35/30°、内20/8°、股関節伸展位外旋45/20°、内旋40/35°、股関節屈曲位外旋40/20°、内旋35/35°であり股関節外旋位での内転は−10°、内旋位の内転は5°であった。圧痛は、中殿筋・小殿筋・上殿皮神経・仙腸関節に認めた。上殿皮神経は、皮膚を伸張させると圧痛は増悪するが、皮膚を寄せると軽減し、放散痛や再現痛は認めなかった。また、仙腸関節ストレステストは陰性であり、再現痛も得られなかった。創部の滑走は、股関節伸展位より屈曲位で乏しく、股関節外転運動にて殿部外側部痛と同部位に触診にて硬い組織が確認された。また、股関節屈曲時に創部を寄せる操作にて疼痛が軽減した。

 疼痛・可動域制限の原因として中殿筋および大殿筋と創部との癒着・深層筋の梨状筋や中殿筋の柔軟性低下と考察した。訓練として創部とそれらの筋の滑走を高めるよう創部を把持し筋収縮を促した。また、腹臥位にて梨状筋含めた深層外旋六筋に対しⅠb抑制を用いて筋のリラクセーションを行った。

 検討項目としては、殿部外側から大転子後面にかけての疼痛の解釈と制限因子はなにか、またその制限を特定するために必要な所見はなにか、さらに癒着とするならばどのような方法で訓練すべきか、という3点が挙げられた。

 フロアーより、疼痛の解釈と制限因子については、股関節屈曲・外旋制限が著明であることから表層は手術侵襲部位より大転子後面にある創部、皮下組織、筋膜が挙げられ、深層は梨状筋・中殿筋・大腿筋膜張筋の滑走性や柔軟性の低下が考えられた。さらにCE角が変化したことからも、股関節構成体の相対的な位置変化も考えられるため、関節包靱帯へのアプローチも必要との指摘があった。具体的な訓練として大殿筋と皮下は滑走性が乏しいため、大殿筋と中殿筋との滑走を得る際には、大殿筋と皮膚を一塊にして遠位滑走させることや、創部に対して単軸のみならず長軸にも創部を持ち上げたうえで収縮させると有効ではないかとの意見が出された。

 本症例の現在の疼痛・可動域制限については創部、皮下組織、筋膜、筋と幅広く考えられ、一つずつアプローチし制限因子を絞り込む必要がある。運動療法においては骨癒合を阻害せず、いかに癒着を予防できるかが重要であり、手術侵襲による影響を確認し訓練を行うことの重要性を再認識した症例であった。

 (文責:矢野沙耶香)