235回整形外科リハビリテーション研究会報告

2015.10.17 於:ナカトウ丸の内ビル

20代男性 Grip動作時痛に第3掌側骨間筋の関与が疑われる症例

 

 第234回の報告書に記載してある症例の経過報告である。

 

前回の検討会の結果を踏まえて、考えられる再評価を行った。左小指MP関節屈曲外反ストレステスト陽性(左小指MP関節屈曲・回内・外反ストレスにて疼痛増強)、左小指MP関節屈曲制限(65°)があった。これらの評価結果より、運動療法では左小指MP関節牽引・回旋操作、左小指内転運動、サージカルテープを用いた夜間持続伸張を施行した。

左小指MP屈曲可動域は、左小指MP関節牽引・回旋操作を施行した翌週に可動域が改善した。サージカルテープを用いた夜間持続伸張を施行することでも可動域が改善した。さらに初期評価にて小指内転運動を施行することで可動域が改善したため、小指内転運動も施行することで可動域が改善し、日常生活上の疼痛も消失した。また、症例の事情により2週間持続伸張を施行していなかったが、可動域が悪化することはなかった。小指内転筋力に左右差があったため、自主トレとして小指内転運動を追加したことで、さらに可動域が改善した。

左小指MP関節屈曲外反ストレステスト陽性だったこと、左小指MP関節牽引・回旋操作を積極的に施行することで、可動域が改善したことから、関節包・橈側側副靭帯の拘縮による疼痛ではないかと考えた。小指内転運動にて疼痛が再現したのは、文献を見つけることができなかったが、ネッター解剖アトラスにて、小指についてではないが、掌側骨間筋の一部が関節包との結合を認めると記載されていることから、小指でも同じことが言えるのではないかと考え、掌側骨間筋の張力が関節包に伝わることで疼痛が生じていたと考えた。

小指内転筋力の左右差は残存してしまったが、小指MP屈曲可動域は左右差なくリハビリを終了した。

今回の症例を通して、詳細な評価と解剖学的裏付けがあっての治療ということを再確認できた。

(文責:田中美有)



頚椎症性筋萎縮症の一症例

 

 第232回定例会にて症例検討をした「上腕二頭筋損傷疑いの一症例」の経過報告である。

 

 平成265月に卓球中スマッシュをしたことがきっかけで、肘関節自動屈曲困難の症状が出現した61歳男性の症例である。

 腱板損傷の所見はなく、三角筋および上腕二頭筋の萎縮が著明であったため、医師より筋力強化の指示をいただいた。運動療法では、EMSを用いて、収縮が入るのをフィードバックしながら自動屈曲運動(上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋)を行ったり、肩関節伸展位での自動回外運動のセルフエクササイズなどを行ったが、著明な変化はもたらされなかった。

 PTを継続中、自動屈曲は可能であったが、自動屈曲を続けていると突然屈曲困難な状況に陥る現象が度々見られ、それが端座位・上肢下垂位では症状が顕著に表れていた。

 症例検討では、現状の所見をまとめると筋萎縮が著名に出現している部位があり、表在感覚の低下がそこまで顕著ではないというところから、頸椎症性筋萎縮症(keegan型)の可能性が高いという意見を多くいただいた。

 この時点で頚椎の評価はほとんどなく、不足している評価も多く存在したため、まずは理学療法士の方でできる限りの評価を行い、医師の方へ情報伝達を行った。

 追加して行った評価項目としては、MMT、握力、深部腱反射、頸部の圧痛所見、頸部の整形外科的テスト、前腕部での周径測定をそれぞれ実施した。

 MMTに関しては、肩関節屈曲3、肩関節外転3、僧帽筋中部3、僧帽筋下部3と肩甲上腕関節と肩甲骨固定筋に関しては3レベルを保っている状況であった。深部腱反射は、上腕二頭筋の患側でやや減弱しており、それ以外の筋では左右差は見られなかった。頸部の圧痛は、患側のC4-5 C5-6の椎間関節で明らかな圧痛が確認された。整形外科的テストでは、Spurling testJackson testともに患側で陽性が確認された。また、Forearm以遠での評価は、周径に左右差は無く、握力も患側35kg、健側50kgと著明な差は見られなかった。

 以上の情報を医師へ伝達し、医師の方でMRIを撮影して確認したところ、C5-6で脊髄圧迫、C5-6右側椎間孔狭窄、C4-5右側椎間孔狭窄(椎間孔狭窄はC4-5C5-6)などの所見が確認され、「頚椎症性神経根症で間違いないでしょう。」との診断をいただいた。

 主治医の方針で、手術を前提とした治療方針に転換され、当院での運動療法は終了し、他院(主治医の所属病院)にて検査と手術を行うこととなった。その間理学療法士による運動療法は実施されないため、せめて自主エクササイズとして上腕二頭筋の筋力維持エクササイズを指導してご自宅で行っていただいた。

 その後の経過として、平成274月に大学病院にて、筋電図検査実施したが運動ニューロン疾患を疑う所見は得られなかった。平成275月に頚椎ミエロを実施し、狭窄はC5-6C4-5であることが再確認された。そして平成277月に入院し、C4-5C5-6椎弓形成、C4-5C5-6椎間孔拡大術を実施した。術後3日目より病棟でのリハビリテーションが開始され、リハビリテーション開始2週経過時点で退院となり、同時にリハビリテーションも終了となった。

 その後の状態としては、以前のような肘屈曲困難の現象は消失し、通常通り勤務できる状態にまで改善が見られた。もしリハビリテーションが必要な状況であれば、主治医より当院の理学療法士へ運動療法を依頼する予定であったが、運動療法が必要のない状態にまで改善してしまったため、当院での術後のフォローは一切行わなかった。

 このように、術後早期に良好な状態へと改善が見られた要因としては、本症例はMMT3レベルを維持していたため、このような良好な経過を得られたのであろうという意見をフロアの方よりいただいた。

 今回の経験より、まず今回のような現象とMRI所見を確認することができたなら、頚椎症性神経根症を疑うべきであるということを学んだ。また、手術に至るまでに肩関節におけるMMT3レベル以上を維持しておくことが、術後早期に良好な機能を獲得することができるポイントとなるこということを学んだ。

(文責:源 裕介)



症例3 40歳代女性 腰椎椎間板症

 症例は40歳代の女性であり、診断名は腰椎椎間板症である。9月頃より特に誘因なく腰痛を発症し当院を受診した。椎間関節性腰痛としての運動療法を開始したが、加療2回目頃から特に誘因なく左上・下肢の自動運動困難感を訴えるようになった。既往に卵巣嚢腫があり、現在は逆流性食道炎・萎縮性胃炎に対して治療中である。現在の主訴は自動運動困難とそれに伴うADL障害である。

 腰椎レントゲンにおいてはL5/S椎間板高が減少しており、MRI矢状断にて同高位の椎間板の変性がみられた。頸部のMRIにおいては特異的な所見は得られなかった。他院にて脳のMRIを撮られたが異常無しとのことだった。

 外観評価として著明な萎縮等は見られず、関節可動域にも制限は無かった。MMTは、上肢健側5、患側23、下肢健側5患側2であり、握力は、健側33kg・患側19kgであった。評価時には全筋に収縮が触れられ、また前腕を回外させると左肩関節の屈曲がしやすくなるとのことであった。感覚においては左膝遠位下腿後外側のしびれ(5/10)(患/健)、左肘遠位尺側部から小指・環指のしびれ(5/10)で同部位に冷感を訴えた。深部腱反射に左右差はなく、亢進や減弱等異常と思われる所見は無かった。腕神経叢・坐骨神経・大腿神経・腓骨神経には圧痛やtinel signを認めず、尺骨神経のみ左右差があった。仙腸関節ストレステストは全て陰性で仙腸関節へのキシロカインテストは未実施である。SLR85° /85°(患/健)、Ober変法(++/++)、Thomas+/+)であった。Kemp test を行うも疼痛しびれの増悪等の所見は得られなかった。

 動画にて歩行、段差昇降、起き上がり、各関節の自動運動の様子が提示された。歩容は患側股関節屈曲が不十分であるSwingであり、患側の立脚時間は短縮していた。段差昇段では患側を挙上させる際に困難感を見せたが降段は可能であった。起き上がりに関しては不可能であり、介助もしくは手すりを要した。

 検討項目として、①この症例の病態は何か?②病態を把握するうえでの必要な評価は何か?の2点が挙げられた。

 フロアからは脊髄小脳変性症や筋萎縮性側索硬化症などの初期病変や自己免疫疾患ではないか、頚椎症性筋萎縮症のKeeganタイプ(上肢帯の麻痺を呈する近位型)ではないかとの考えが挙げられた。それらの評価のため、脳神経学的な検査、詳細な問診や体幹筋の評価を行うべきではないかとの意見もあった。理学所見と動作の整合性が得られないこと、自動運動困難のはずが反射は正常であるということ、既往や現在治療中の疾患の関与もあり、心療内科の受診も検討すべきではないかとの提案があった。

 主治医と今回提示した所見・動画を共有し、協議した上で本症状に対する治療方針を再考いく必要がある。症状と理学所見から考えられる疾患の整合性を求めることも重要であると考えられた症例であった。

 
(文責:森戸剛史)