237回整形外科リハビリテーション研究会報告

2016.1.16 於:国際医学技術専門学校

症例1 80歳代女性 リバース型人工肩関節置換術後の一症例

 

 症例は80歳代の女性であり、診断名は右肩腱板断裂である。5年前に転倒し、挙上困難となったが、整骨院で加療し挙上可能となったため様子を見ていた。平成275月初旬にベッドの中で体勢を変えようとして肩痛増強し、夜間痛が出現したため再度整骨院を受診し加療していたが、5月中旬に転倒して右肩打撲後に挙上不可となったため当院に紹介となった。翌月リバース型全人工肩関節置換術(以下、RSA)が施行された。既往歴、合併症に心肥大や冠動脈狭窄・石灰化等の心臓疾患と左脳梗塞(麻痺なし)、胸椎部に右凸の側弯症があった。

 術前画像所見はX線では上腕骨頭の変形を認めた。MRI所見では棘上筋、棘下筋、肩甲下筋の損傷と上腕骨頭の上方化を認め、棘上筋のGoutallier分類はgradeⅣであった。術前の右肩関節可動域(以下、ROM)は前方挙上が健側130°に対し、患側は他動120°、自動40°であった。

 手術展開はdeltopectoral aproachで行い、大胸筋と三角筋間を分けて侵入後、コンジョイントテンドンは切離せず内側に避け、肩甲下筋を切開して関節にアプローチした。人工関節を設置後、肩甲下筋は縫合した。術後1カ月間は、低ナトリウム血症となりせん妄様症状が出現した。ベッド柵を外す、ベッドから降りて転倒するなどの症状が認められた。また術後外転装具を装着していたが、装具を自分で外すことが認められたため、3週固定予定であった装具は術後10日で除去された。

 術後理学療法内容は、低ナトリウム血症の症状が認められた術後1カ月間は、起居動作への介入を中心に行い、右肩関節に対しては術創部の癒着予防のみを実施した。低ナトリウム血症の症状が軽快した術後1カ月時点での主訴は、自動挙上時の右肩前方部痛であり右肩前方挙上ROMは、他動130°に対し、自動20°であった。その後術後2カ月までの1カ月間は積極的な右肩関節への介入を行い、手術展開された周囲の筋へのグライディング操作や筋収縮、背臥位や側臥位でのプレーシング、スライディングシートを利用した肩関節の挙上・水平内外転を実施した。しかし、自宅退院となった術後2カ月時点での右肩前方挙上ROMは他動150°に対し自動60°で、挙上時の右肩前方部痛は残存した状態であった。また術後2カ月時点での下垂位外旋ROMは他動10°、自動であった。坐位姿勢は左殿部への荷重と円背を認め、胸椎部の右凸側弯は背臥位の状態より増強していた。術後6カ月時点での右肩前方挙上ROMは他動150°、自動90°、下垂位外旋ROMは他動40°、自動であり、右肩前方部痛は消失していた。

 そこで、術後に生じた挙上に伴う右肩前方部痛の解釈と自動挙上角度の回復が遅かった理由について検討を行った。

 RSAは腱板の脂肪変性が強い場合や変形性肩関節症等で選択され、2014年に日本でも導入されるようになった新しい手術法である。通常の関節窩側に丸いヘッドを設置し、上腕骨側に受け皿を設置する。肩関節回転中心を内方化、さらに下方へ引き下げることにより、三角筋のレバーアームを伸ばし、筋力を増幅させ、腱板機能を必要とすることなく自動挙上を可能とする目的で行われる。

 について、フロアからは低ナトリウム血症の症状が出現していた術後1カ月間、右肩関節への理学療法介入が遅延したことから、術創部周辺の癒着形成が生じていたとの意見が挙げられた。また下垂位外旋の他動ROMが術後2カ月時点と比較して6カ月時点で改善しており、自動挙上時の右肩前方部痛が消失していることから、大胸筋と三角筋、大胸筋と肩甲下筋の筋膜間の滑走不全が存在していたことが疼痛の原因ではないかとも挙がった。

 またRSAの適応は75歳以上で術前の自動挙上ROM90°以下であることとされている。そこでについてフロアからは、本症例も80歳と高齢であり、術前から挙上角度は低く三角筋のdisuseによる筋萎縮や、手術侵襲による損傷が加わり術後せん妄により介入が遅れたことで、自動挙上ROMの回復が遅くなったのではないかとの意見が挙がった。また、術後2カ月時点での坐位姿勢から、症例の体幹機能や肩甲胸郭関節機能の低下も考えられることから、術後早期から体幹筋力や肩甲骨固定筋(僧帽筋中・下部線維、前鋸筋)に対してアプローチすると良かったと意見が挙がった。

 今回の経験から、肩関節のみならず、肩甲帯や体幹機能、胸郭を含めて評価し、術前を含めて早期からの介入が可能であればアプローチしていく必要があると学んだ。

(文責:岡西尚人)


症例2 75歳 男性 広範囲腱板断裂を呈した自動挙上困難な症例

 

 78年前から右肩の挙上困難があったが、約2カ月前、体調不良で23日寝込んだ後に挙上困難が著明となった。単純X線画像にて上腕骨頭の上方変位、MRI画像にて棘上筋・棘下筋・肩甲下筋の断裂とLHBが脱臼していた。某市立病院でReverse Shoulder Replacement(人工逆肩関節全置換術)を勧められたが、本人の意思により保存療法で経過観察することとなり、2週間前に某整形外科クリニックを受診し運動療法開始となった。

 主訴は、自動での挙上困難、剪定で右手が挙がりにくいことである。自動での肩関節ROMは、屈曲60°、外転50°、結帯Th6であった。他動での肩関節ROM(肩甲骨固定下)は、屈曲180°(85°)、外転180°(90°)、内転0°(0°)、1st外旋60°(40°)、1st内旋80°(80°)、2nd外旋90°(80°)、2nd内旋50°(5°)、3rd外旋115°(110°)、3rd内旋40°(0°)であった。圧痛は、腱板筋群、大・小結節・烏口上腕靭帯に軽度認めた。MMTでは、1st2ndの外旋12レベル、3rdの外旋と僧帽筋下部2レベル、僧帽筋中部と前鋸筋4レベルであった。整形外科テストでは、lift off testbelly press testbear hug testが陽性であった。また体幹回旋のAFDは、左に比べ右で制限を認めた。運動療法として、小円筋のリラクゼーション、肩甲骨周囲筋のリラクゼーションとストレッチング、胸椎および胸郭の可動域訓練、僧帽筋下部の筋出力改善と筋力トレーニング、重力除去位での屈曲および外転運動を施行した。運動療法直後は、抗重力での自動での屈曲がやや行いやすい程度であった。

 検討項目として、①運動療法で不足している部分、②セルフトレーニングの具体的な方法についての2点であった。

 フロアーからは、可動性の問題として肩甲上腕関節後方から後下方支持組織の拘縮と、前鋸筋上部の圧痛と伸張性の有無を評価したほうが良いのではないかとの意見があった。自動挙上が可能になるかどうかの指標には、腱板筋群の断裂の範囲と残存している腱板機能を明確にする必要があるとのことであった。腱板筋群の状態を踏まえた上でセルフトレーニングの方法論として、a:挙上位で壁に手をつき、壁から手を浮かせる。可能であれば徐々に挙上角度を小さくしていく。bTilt tableを用いて、最初は背臥位からの挙上運動を行う。可能であればベッドの角度を徐々に高くしていく。c:座位や立位で、下垂位の状態からまず肘を屈曲させることでレバーアームを短くし、そこから肩の挙上運動を行う。d:挙上位での運動として、背臥位で挙上位からさらに挙上方向や、結髪肢位から水平外転方向など弾力性のあるボールを用いてボールを押さえるように行うなどの意見があった。また剪定を行う際は、肩の挙上を使わないように環境を設定することも必要であるとの意見があった。

 自動での挙上が困難な場合、腱板筋群の断裂の範囲を明確にし、残存している腱板とアウターマッスル、肩甲胸郭関節の協調性改善を、いかに運動療法で施行する必要性があるかを学んだ症例であった。

(文責:猪田茂生)


症例3 70代男性 
  右
TKA術後 膝蓋骨骨折 術後感染 脛骨大腿関節脱臼膝蓋靭帯再建術

 

 症例は平成274月に右TKA術後、術後2週で膝蓋骨骨折、術後感染により511週まで運動療法は中止された。術後CRPの緩解とともに伸展位ロック機構付きの装具装着下で25週まで立位、歩行訓練が施行され、退院の運びとなった。なお、既往歴として7年前に脳内出血にて左片麻痺、平成271月に左大腿骨頸部骨折に対してCCSが施行されている。

 しかし、術後30週にて後方へ転倒受傷しTKA側のFT関節脱臼が確認され、33週にて膝蓋靭帯再建術が施行された(高位に位置した膝蓋骨を遠位へ引き下げようとしたが不可能で、全てトレス人工靭帯が用いられ8の字に再建された)

 術後は大腿近位から足関節内外果の近位までギプス固定され、膝関節は伸展位固定である。

 検討項目として①今後の展望、②リハで何か工夫できないか、③現在術後8週で今後12週でギプス除去し以前使用していた膝関節伸展位ロック装具を使うが何かアドバイスいただきたいという提示をさせていただきました。

 フロアーの方より再評価事項として体幹機能(バランス機能)はどうか?感覚障害は?全身の筋力低下はどのくらいなのか。が挙げられた。

今後の展望について、右下肢機能の改善に期待がもてないので左下肢の機能回復(支持性)がポイントになる。リハの工夫点としては車いすの座面を高くする。右股関節周辺筋力の強化。前方への立ち上がりが難しそうであれば側方へ重心移動をしてから立ち上がるなどを施行しADL介助量を減らす事が挙げられ、運動のポイントは高負荷低頻度の運動より低負荷高頻度の運動より開始する。

今後、右膝関節の装具について伸展位ロックのままにするのか、ダイヤルロック式装具で軽度屈曲域を許すのかをDrと相談する必要がある。また、いずれ介護施設への入所となる事を視野に入れていかに介助量を減らせるかを考えなければならない。

また、今回のTKAPS型であれば転倒の際にコンポーネントのフック部で破損しているか、屈曲位での側方動揺性が大きかった可能性はなかったか?確認する必要がある。

さらに今後伸展位固定が除去された際に膝関節が軽度屈曲位をとった状態で大腿直筋が遠心性収縮すると再び脛骨粗面が折れる可能性があるので注意を要する。今後、装具になった時点で伸展位安定性がとれるかどうか?を再評価する事が重要である。

現在、今後ともにDr、患者さんともに方向性を話し合い、いかに膝関節安定性を考えつつADL上介助量を考え再評価、運動療法を施行する必要があると考えられる症例である。

(文責:岡西尚人)