240回整形外科リハビリテーション研究会報告

2016.5.21 於:国際医学技術専門学校
            

非若年者の膝前面部痛を呈した一症例 

症例は30代後半の女性で、主訴は長時間座位時に出現する右膝前面部痛である。7年前より助手席に乗車中に右膝痛が突然生じ、その後激痛は消失したが疼痛は残存していた。当院受診前に他院にてMRICT等の膝関節検査を行い特異的所見は否定されていた。現在、長距離歩行時、階段昇降時、しゃがみ込み動作時には右膝前面痛は出現しない。レントゲン所見ではQ-angle8.9°、Sulcus angle: 128°であった。理学所見ではStatic alignment, Dynamic alignmentでは異常所見は認めず、関節可動域では膝関節 Heel hip distance 0㎝、大腿直筋短縮テスト屈曲125°であった。圧痛所見は、内外側膝蓋支帯、内外側膝蓋大腿靱帯に認めた。それぞれ、起始から停止にかけては認めず膝蓋骨上部も含めた膝蓋骨周囲部に認めた。その他、膝半月板、内外側裂隙、膝蓋下脂肪体等の周辺組織の圧痛は認めなかった。整形外科テストではMcMurray test、強制伸展テスト、Patellar Compression Testで陰性であった。IFPの硬さに左右差はなかったが、膝伸展位でのPatella 浮き上がりでは、内外側、内外側上方の浮き上がりに左右差を認めていた。

検討項目として今後の必要な評価について検討が行われた。フロアーからは、実際の乗車中の姿勢を観察し各関節のアライメントを明確にすべきであると意見が挙がった。特に、膝関節の屈曲角度には注意を要する。膝蓋支帯は屈曲60°で一番緊張が高まるため、今回の膝前面痛との関連性が指摘された。まずは、膝関節の治療を徹底的に実施し、それでも症状の変化を認めなかった場合には、膠原病等の内科的疾患を疑い血液検査などを依頼することも提案された。また、理学療法とは、症状、現病歴や既往歴、理学所見などから病態を考察し、治療行為を行った上で、症状の変化を検証しさらに病態を明確にしていく作業を行うものであり、その意味では今回は検討を行うには情報が不十分であると指摘があった。今後、診療を継続していくことで病態解明を期待したい。

(校正者:岡西 尚人)




 鎖骨遠位端骨折 術後早期の疼痛により運動療法が困難であった一症例

 症例は70歳代男性で1月上旬に孫とテニス中に転倒受傷し、同日に当院受診した。受傷日より1週間後に鎖骨遠位端骨折に対する人工靭帯による烏口鎖骨靭帯(円錐靭帯)再建術を施行した。この際術中所見として、骨折部に対しては徒手にて整復を加え良肢位を保持した。また、三角筋、僧帽筋の筋損傷は認められないとのことであった。手術後~5日はベルポー固定を行い、術後5日後~術後9週まで鎖骨バンドを使用した。

 X-P所見にて、Drより田久保分類typeⅥとの報告であったが第3骨片の存在を疑い、骨癒合状態や転位の有無などを継時的に観察した。

 運動療法開始時(術後5日後)の理学所見は、術創部・肩峰・肩関節周囲~上腕外側にかけて広範囲の痛みを認めた。運動療法は、肩甲上腕関節のみの運動となるように疼痛のない範囲で実施したが、疼痛が強く肩甲帯の固定が困難であった。術後6週が経過し肩甲上腕関節の制限角度がフリーとなったが、疼痛が残存していたため可動域運動が困難であった。術後13週にてX-Pより骨癒合が良好になったとの報告があり、肩甲骨可動域運動を実施したが、肩甲骨上方回旋に伴い再建靭帯部に疼痛が出現し、肩甲帯可動域運動の実施が困難であった。術後18週では、肩甲骨上方回旋時痛が消失し、再建靭帯部、肩鎖関節、肩峰下~大結節にかけての圧痛が存在していた。ROMは、肩甲上腕関節屈曲90°、外転75°、下垂位外旋20°、外転位外旋45°、屈曲位外旋75°、下垂位内旋90°、外転位内旋55°、屈曲位内旋―15°と制限されており広範囲に拘縮が残存した。エコー所見ではCHLCAL周囲にかけて癒着に起因した滑走障害を認めた。動作では、拳上動作時に肩甲骨上方回旋が不足し、肩甲上腕関節の可動域制限とともに肩鎖関節、肩甲胸郭関節の柔軟性低下、肩甲胸郭関節筋の筋出力低下が疑われた。

 検討項目としては、X線画像所見における第3骨片の有無、術後早期の疼痛が強い時期での運動療法における気を付ける点や工夫する点、疼痛を解釈するための足りない評価、現在の肩甲骨上回旋困難をどのように治療していくかの議論が行われた。

 フロアからの意見として、第3骨片は認められるのではないかとの意見が大半であった。また、骨折部に対しては観血的に整復が施されたものの骨接合を行っていないため、保存的治療に準じたリスク管理が必要であったと指摘された。術後早期の痛みは、骨癒合が十分でない状態での可動域運動に伴うストレスが疼痛の要因ではないかと指摘された。術後早期の運動療法では、骨折部の骨癒合が十分ではないため上肢の重さによる牽引ストレスを軽減するためにベルポー固定だけでなく、三角巾を併用した上での実施が勧められた。術後早期の疼痛が強い時期での運動療法における気を付ける点や工夫する点では、まず、受傷機転の推察により転倒した際に、鎖骨を地面に強打するとともに頭部が反対側へ側屈するようになり腕神経叢が伸張ストレスを受けていたのではないかとの意見をいただいた。腕神経叢の症状の確認や疼痛所見を詳しくとることが必要であると指摘された。腕神経叢の症状が認められた場合、鎖骨バンドでは鎖骨が伸展方向へ牽引されるため、より症状を惹起してしまう可能性が示唆された。疼痛の評価を詳しく行うことで病態の把握を行うことの重要性が再認識させられた。また、前述した骨折部は保存的処置になっている状態なので、骨折部が動かないように肩甲骨を固定する臨床的技術が必要ということであった。現在の肩甲骨上方回旋困難に対する治療としては、第一に肩甲上腕関節の拘縮をとりきることが重要であると指摘がなされた。再建靭帯が円錐靭帯の走行に再建されているため、棘鎖角が増加しないように外転域での拘縮除去が疼痛を回避するうえで有効とことであった。さらに、PIGHLRI部の拘縮除去へと段階的に進めていき肩甲上腕関節の拘縮除去を図るように指導していただいた。

 今回の症例を通して、骨折部を固定し運動療法を実施する難しさを痛感した。また、受傷機転の推察、早期での疼痛所見の不足など、病態を理解する能力が不足しており、的確な評価を実施することの重要性が再認識させられた。加えて、エコー等で骨折部の修復状態を把握しつつ、手術の目的、病態の理解を行い運動療法の展開していくことの重要性を再認識することができた。

(校正者:赤羽根 良和)



脛骨高原骨折再手術後のPLC拘縮に難渋した一症例

症例は40歳代の女性である。交通事故にて脛骨高原骨折し、Houl分類は分裂陥没骨折だった。他院にて骨接合術施行したが、歩行は松葉杖使用、立ち上がりで外反し膝崩れが生じるため当院を受診した。脛骨プラトー外側に20×28×17の陥凹を認めたため、再手術を施行した。手術方法は、陥没部分をブロックとして一塊に摘出。前後内外側を遠位より打ち上げた。骨盤より採骨し骨移植術を施行した。関節面を合わせて、ロッキングプレートで固定した。

術後1年経過し、独歩で30分歩けるようになったが、主訴は歩行3分以降で下腿外側の痛みと痺れを訴えた。アライメントは、膝伸展位で膝外反・外旋しており、膝関節屈曲位では後外側に偏位していた。圧痛部位は、大腿二頭筋、膝窩筋、腓腹筋外側頭、外側関節裂隙の前後だった。関節可動域は、膝関節伸展-3°屈曲140°足関節背屈5°だった。歩容は、Heel contactで距骨下関節回外、Mid stanceToe offで膝外反していた。

膝関節後外側複合体(Posterolateral complex:以下PLC)の拘縮により膝伸展位で膝外反外旋していた。総腓骨神経は過度に伸張され、外側下膝動脈は圧迫ストレスを受けることにより、主訴を誘発していると考えた。検討項目として、「下腿外側の痛みと痺れについての解釈」、PLCの拘縮に対する治療」を挙げた。

「下腿外側の痛みと痺れについての解釈」としては、感覚障害がなく、歩行時における痺れであれば、PLCの拘縮に伴った総腓骨神経の圧迫、伸張ストレスによるものと考えられる。3分程度で症状が出現することから、膝窩筋の筋内圧上昇によるものではないかと意見を頂いた。本症例は、膝が後外側に落ち込んで外反外旋しているため、下腿外旋制動として膝窩筋が過剰に働くことで、筋内圧が上昇することは十分に考えられた。

PLCの拘縮に対する治療」としては、大腿二頭筋と腓腹筋外側頭、腓腹筋外側頭と膝窩筋、膝窩筋と関節包の膝窩筋下陥凹との滑走障害の改善が必要である。PLCの伸張を目的に、徒手的に膝伸展・下腿内旋方向にストレッチングを行った。膝窩筋のリラクゼーション目的に、膝深屈曲・下腿内旋位で等尺性収縮を繰り返した。脛骨高原骨折は関節包内骨折であることから、関節包性の拘縮が生じていると考えられ、長軸方向に持続牽引をすることが有用であると指導を受けた。膝窩筋の負荷を軽減する目的として、踵骨の直立化・下腿内旋を誘導するインソールが適当ではないかと意見を頂いた。

今後の課題としては、菲薄化した関節軟骨が、急速に変形性膝関節症に進行し、人工膝関節置換術に至る可能性が高い。長期的なフォローアップが必要である。

(校正者 八木茂典)