241回整形外科リハビリテーション研究会報告

2016.6.18 於:IMY会議場
            

肩挙上動作において肩前上方部に疼痛を訴える腱板断裂した症例 

 症例は80歳代女性で、日本舞踊の師範である。主訴は、右肩挙上時における肩前面の疼痛と可動域制限である。MRIにおけるGoutallier分類はSSP2ISP3と高度の脂肪変性を認めた。圧痛は小結節と上腕二頭筋長頭腱に認めた。肩関節の自動ROMは屈曲60度、外転80度であった。他動ROMは屈曲145度、外転150度であった。肩甲骨を固定した他動ROM(肩甲上腕関節のROM)は屈曲85度、外転85度であった。また健側と比して、内旋可動域が肩外転位および屈曲位で減少していた。特に90度屈曲位での内旋は-15度と著明に制限されていた。MMTSSP 2ISP 2SSCは上部/中部/下部で3だった。インピンジメントテストは、Yocum test:陽性、Neer testHawkins test:陰性であった。挙上時の疼痛は軽度外旋させると減少した。SSCの収縮力不足によるanterosuperior impingementが生じていると考え、SSCの等尺性収縮、求心性収縮のエクササイズを実施した。

 治療開始から4ヶ月後の評価では、主訴は依然として挙上時の疼痛であったが初期評価時と疼痛部位が異なり肩外側および後面に訴えた。小結節と上腕二頭筋長頭腱の圧痛は消失した。自動ROM屈曲120度、外転105度、肩甲骨を固定したROMは屈曲90度、外転90度と拡大が見られた。肩90度屈曲位での内旋は-5度だった。MMTSSCにおいて上部から下部まで全て4と改善していた。初期評価と比較し可動域は改善したが、挙上時の肩外側および後面の疼痛は残存していた。

 検討項目としては①「SSCの詳細な評価・エクササイズについて」と、もうひとつは②「SSPISPが断裂している状態での予後予測(どの程度まで挙上できるのか)」を挙げフロアで検討していただいた。フロアの意見として、①についてはSSCの収縮力よりも後方・後下方の拘縮に伴うobligate translationがインピンジメントに影響しているのではないかとの指摘があった。そのため後方・後下方の拘縮に対する治療を優先すべきとの意見が出た。anterosuperior impingementが生じている部位の詳細は不明確であり烏口突起下でのインピンジメントの可能性もあるため、超音波画像も用いて詳細に評価するのはどうかとの意見もあった。②の予後については、断裂した腱板の位置や数により推察できるためMRIだけでなく超音波などを用いて評価する必要性もあるとのことだった。残存機能で代償する意味では、腱板だけに目を向けるのでなく、胸椎・肩甲帯へのアプローチも必要であるとの意見を頂いた。
 本症例は、棘上筋、棘下筋の大断裂が存在する。本来ならばRSAも含めた手術適応であるが、年齢や症例が保存療法を希望されている背景がある。完全な自動屈曲ROMの獲得は困難かもしれないが前上方のインピンジメントは、後方および後下方の拘縮によるobligate translationの結果だと考えられ、同部位の拘縮に対する治療が重要と考えられた。今後は、後方・後下方の拘縮に対する治療に加え、胸椎を含め肩甲帯へのアプローチを行うことで現状よりも自動屈曲ROMの獲得が可能と考えられる症例だった。

(校正者:永井 教生)




 

大腿骨顆部骨折にACL損傷と内側・外側半月板損傷を合併した一例

症例は50代男性で、フォークリフトを運転中の事故で受傷した。左膝関節が深屈曲に近い状態でknee inし軸圧がかかったと思われる。左大腿骨内顆骨折、膝蓋骨骨折、ACL完全断裂、外側半月板断裂、内側半月板損傷と診断された。レントゲン画像より大腿骨内顆前方に骨片と膝蓋骨内側に縦割れ骨折を認めた。CTより大腿骨内顆後方の陥没とやや内側部に骨欠損部を認めた。MRIよりACL断裂と内側半月板損傷と外側半月板断裂を認めた。関節鏡視下外側半月板縫合術(後節部)と骨片摘出(大きさ25mm×25mm)術が施行された。荷重および可動域の制限は、術後2週間は12荷重、屈曲90度まで、術後2週以降より全荷重、屈曲120度まで、術後4週以降屈曲制限なし、屈曲位での荷重は2ヶ月間禁止の予定である。

  術後2日目からリハビリを開始した。 歩行は1/2部分荷重での松葉杖歩行が可能であった。 可動域は左膝関節屈曲が80° 、伸展が−10°であった。 疼痛は左膝関節屈伸時と収縮時に認め、NRS7-8/10であった。部位は左膝関節内側深部(骨折部周辺)であった。筋力はQuad settingの収縮が弱く、膝関節伸展ラグを30°認めた。腫脹は健側との差が膝蓋骨中央の部位で+5cm認めた。問題点としては腫脹、疼痛、可動域制限、筋力低下、荷重制限が挙げられた。術後17日の可動域は左膝関節屈曲95°、伸展0 °と改善した。受傷肢位から膝蓋上下部軟部組織に損傷があると想定したが、疼痛は膝関節完全伸展位でも90°屈曲位でも左膝関節周囲に圧痛所見は認めなかった。大腿骨顆部後方やや内側の骨欠損部周辺にも圧痛所見を認めなかった。内転筋結節深部の屈曲時痛は残存していた。 腫脹は健側との差が膝蓋骨中央の部位で+2cm であった。超音波検査では関節包内の水腫が残存し、内側膝蓋支帯の張りは健側よりも少ないように見えた。

現在の機能低下は、ACLと半月板損傷による影響が強いのか?長期的な問題点となり得るACLと半月板損傷のリハビリに準じて進行していく形で良いのか? 骨折部の影響は屈曲可動域拡大時や屈曲位荷重時以外にも生じるのか?以上の3点について検討がなされた。

フロアーからは、ACL損傷による関節内の血腫や滑膜炎があり、遷延化させると可動域制限を作るため早期の消退を図るべきで、その上で、内側半月板、内側側副靭帯及びMPFLの疼痛の有無、膝関節屈筋の機能低下の有無、内側広筋の疼痛や滑走性(関節鏡侵入部の疼痛や癒着を含め)の問題の有無、関節不安定性の有無を確認する必要性を指摘された。また、仕事や私生活においてどこまでの膝関節屈曲可動域が必要になるかに関して聴取する必要性も指摘された。

 運動療法としては、骨欠損部に拘らず、大腿骨前脂肪体を含めた膝関節伸展機構に対する治療が重要となる。その際、関節水腫を利用して膝蓋上嚢の癒着を防止する方法(水腫を動かしながら癒着がある部位に移動させ、剥離する方法)について説明があった。また、縫合術を行った外側半月板にストレスを掛けないために、90°以上の屈曲では下腿の内旋を誘導することが必要であると指摘された。靭帯や半月板の損傷があり長期的にはOA changeが必発と思われるが、TKAへの移行を抑制するためにも関節拘縮を残さないことが重要であると思われる症例であった。

(校正者:岡西 尚人)



立ち上がり及び歩行時に鼠径部から大腿前面部痛を訴える症例

症例は60歳代の女性である。主訴は座位から立ち上がりの際の鼠径部から大腿前面への痛みと脱力症状である。既往歴としては二年前に脚立から転落しその後右股関節周辺に疼痛が出現している。X-P上とくに異常所見が認められなかったが半年間は強い疼痛が持続していた。平成285月某日より誘因なく鼠径部および大腿前面痛を感じるようになり徐々に増悪したため当院受診し運動療法開始となった。
 X-Pで二年前と比較して右の股関節の裂隙は狭小化しており変形が進んでいることが確認できた。CE角は右39°左24°であった。
 感覚障害などの神経学的所見は認めなかった。安静時痛は訴えず、座位から立ち上がり時に疼痛を生じた。歩容は、骨盤前傾、股関節軽度屈曲、内旋位での逃避性跛行を認めた、しかし10m程度の歩行を行うことで症状が軽減していき逃避性の跛行も改善していく特徴を呈していた。
 股関節可動域は屈曲90°、伸展5°、外転30°、内転20°、屈曲90°での内旋10°、外旋0°と制限を認めている。FABER testは強い制限を認め、Thomus testEly testは陰性であった。転子下長は左右差を認めず、棘下長は右83㎝左85㎝と脚長差は認められた。仙腸関節へのストレステストや骨盤ベルト着用での症状の変化は認めなかった。圧痛所見は股関節周囲、殿部、腰部と確認したが認めなかった。超音波画像診断装置を用い、股関節を描出したところ関節包靭帯と思われる組織に肥厚像と血流反応を認めた。長軸上にAIISと大腿骨頭を描出したところAIISの不正像を認めた。
 本症例の病態についてどのようなものが考えられるかとそれに対しての評価法、今後行うべき運動療法について検討がなされた。

 フロアからは、AIISの不正像や関節包の肥厚からFAIのようなimpingementが基盤にある可能性を指摘された。また、歩行時痛が短時間で改善することから関節唇や関節包靱帯由来の可能性は低いのではないかという意見や股関節外旋制限を認めるため大腿直筋や大腿筋膜張筋、小殿筋などの再評価の必要性について意見が出され病態に応じたアプローチが提案された。
 大腿前面痛に関しては、大腿神経筋枝の影響が考えられるとの意見があがった。大腿神経は鼠径管を出て大腿直筋の深部を筋枝が走行し外側広筋、中間広筋に枝をだしているため大腿直筋と関節包との滑走性低下が起こることにより大腿神経由来の症状が出現しているとの意見が上がった。同部での神経症状には感覚枝は関与しないため感覚障害が出現せず、VLVIの筋力を評価するよう意見が出され、大腿直筋下の大腿神経の滑走性改善を目的としたアプローチが提案された。

 本症例は歩行において短期間で症状が消失することや大腿前面部への疼痛を呈するが筋などの圧痛所見を認めず疼痛の解釈に難渋していた。今回の症例提示を終え、症例の動作分析や症状の特徴を踏まえた上で機能解剖と理学所見を照らし合わせ病態解釈を行う必要性を感じた。

(校正者:神山 卓也)