243回整形外科リハビリテーション研究会報告

2016.10.15 於:国際医学技術専門学校
            

肩関節挙上制限にLHBT肥厚の関与が疑われた一症例

症例は、80歳代の女性である。現病歴は、約1年前に畑で猪の罠を仕掛けようと左肩関節外転・外旋位・前腕回外した際に、肩関節周囲にプチッと音が聞こえ、その後から疼痛が出現した。疼痛は継続していたが、畑仕事を継続せざるを得ず、受傷から約一年が経過しても動作時痛に変化がなく、夜間痛は増強してきたため、某整形外科クリニックを受診し、運動療法開始となった。主訴は、夜間痛(23/)および肩関節の運動時痛であった。
 初診時(受傷日+1年)の肩関節自動ROM(右非固定・左非固定)は、屈曲130°・65°p、外転130°・50°p、伸展60°・20°p結帯は上位腰椎・腸骨稜pであった。疼痛はすべて肩関節外側部に認めた。
 圧痛所見は、棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋、大円筋、上腕二頭筋長頭腱(以下:LHBTと略す)、腱板疎部、肩峰下滑液包、三角筋前部線維、および大結節のsuperior facetmiddle facetに認めた。整形外科テストはNeer impingement testHawkins-Kennedy impingement testが陽性で、SSP testISP testLift off testの際に疼痛と筋力低下を認めた。エコー所見では、Bモード法で棘上筋の損傷および著明なLHBTの肥厚を認めた。またカラードップラ法では、LHBT周囲に血流分布の増加を認めた。以上の所見から症例の病態は、LHBTの炎症による疼痛増加と判断した。そのため治療は、肩甲上腕関節へのストレスを避け、圧痛を認めた筋を中心にリラクセーションを行い、肩甲骨の可動域訓練と肩甲骨固定筋群の収縮訓練にとどめた。

加療約2ヵ月経過し、肩関節の自動挙上が可能な範囲での疼痛や夜間痛は消失した。しかし、少し高い所へ手を伸ばす際の疼痛は残存した。肩関節他動ROM(右非固定/固定・左非固定/固定)は、屈曲130°/90110°/80°p、伸展65°/60°・65°/50°外転130°/85°・80°/75°p、内転0°/0°・0°/0°、各ポジションでの肩甲骨固定下の肩甲上腕関節他動回旋ROMは患側で低下していた。圧痛は、棘下筋、小円筋、LHBT、腱板疎部、肩峰下滑液包に依然として認めた。MMTは、三角筋3、前鋸筋4、僧帽筋上部線維5・中部線維3+・下部線維3、菱形筋3であった。エコー所見では、初期と同様にLHBTは肥厚し、同部位の血流分布は依然として増加していた。また肩関節外転時にLHBTがインピンジメントを呈しているかのような画像が描出された。
 検討項目は、LHBTの肥厚が肩関節他動ROMに与える影響についてであった。
 フロアーからは、疼痛部位が肩関節外側部であることから、別の疼痛を生じている可能性がある事、そして、肩甲上腕関節の
ROM制限が残存しているため、現段階では、LHBTの肥厚がROM制限に関与しているかの判断は困難であるとの事であった。LHBTの肥厚が他動挙上時の原因であるかを判断するためには、同部位にinjectionを施行して疼痛の軽減を確認する事や、肩甲上腕関節のROM制限を除去してから疼痛の変化を確認する事が必要であるという意見が出された。また肩甲上腕関節の拘縮を適切に判断するには、各ポジションでの回旋ROMを丁寧に計測する必要があった。前述した評価を行う事で、LHBTの肥厚が肩ROM制限に関与しているのか、拘縮により結果的に肥厚しているのかの判断ができるのではないかとの意見でまとめられた。

今回の検討から、LHBTの肥厚自体が自動ROMの原因なのか結果なのかの判断は、injectionを施行するか、関節可動域を改善させてから再度評価する必要がある事を学んだ。理学療法を行う際は、症例の病態を明確に把握することで適切な治療が可能となる。症例の病態把握に必要な評価方法を学ぶことができた症例であった。

(校正者:篠田 光俊)



距骨下関節脱臼後に歩行時痛が生じた一症例

症例は40歳代女性である。診断名は右距骨下関節脱臼、右踵骨骨折、左舟状骨骨折、左第4肋骨骨折、肺挫傷、左乳房内血腫、腹直筋内血腫であり、既往歴は特にない。主訴は、歩行時に足関節部が浮いたような感じがする、疼痛の除去、杖・サポーターの除去である。
現病歴は平成284月某日、車×車の正面衝突にて受傷し、K病院へ搬送。距骨下関節脱臼は麻酔下にて整復術施行。整復後4週間の外固定後、アンクルサポーター装着。受傷後7週でT病院へ転院し、受傷後8週で1/3荷重、10週後に2/3荷重、12週後に全荷重開始となった。受傷後16週に当院受診し、現在は受傷後26週である。
 受傷
2日後よりリハビリ開始となり、当初は全身打撲の影響で疼痛が強く、なかなか離床できず、左胸部硬結に対してマッサージ、足関節ROM訓練、筋力強化、歩行訓練を中心に行っていた。受傷後7週の時点で背屈10°、足関節柔軟性低下、アキレス腱伸張性低下、総腓骨神経領域の痺れ、前脛骨筋の収縮不全、松葉杖歩行で免荷であった。T病院転院後、全荷重に連れて右立脚初期に「踵のぐらぐら感」があり、足関節周囲に疼痛が出現し、痺れに対しては低周波施行。当院受診(受傷後16週)時点では、サポーター装着下にて杖歩行であり、MS~TOにかけて足関節周辺部痛が残存していた。現在(受傷後26週)はMS~TOにかけて足関節前方から外果周辺部痛が残存している。
 現在、足関節の
ROM制限はなく、MMTは前脛骨筋、長・短腓骨筋が4レベルである。痺れは浅腓骨神経領域にありtinel sign 陽性であった。圧痛は外側側副靭帯、足根洞、伸筋支帯部、長・短腓骨筋にある。内反制動のテーピングやウェッジシートによる踵骨の安定化を試みたが、疼痛に変化はなかった。
  
検討項目は、①足りない評価項目、②痛みの解釈、③今後の運動療法の展開を挙げた。
 
評価項目としては、伸筋支帯部、足根洞、距骨下関節、前足部の詳細な評価、ハイカットの靴を試して安定性や疼痛の変化を診る、長・短腓骨筋や伸筋支帯部のエコー評価などが挙げられた。痛みの解釈としては、筋力が十分にも関わらず歩行時の足趾が使えていないのは感覚鈍麻や痺れの影響が強いためとの意見や、受傷肢位から骨間距踵靭帯や二分靭帯の損傷、長母趾屈筋(以下:FHL)の拘縮、滑走性低下が現在の痛みにつながっているとの意見が挙げられた。今後の運動療法では、距骨と踵骨の動きをとめるための靴の選択、インソールは後足部だけでなく前足部までしっかりと評価し作成すること、FHLの機能改善などのご指摘を受けた。
 距骨下関節脱臼は予後が良いといわれているが、今回の症例では歩行時痛が残存し、足関節の不安定感も強かった。評価としてテーピングや後足部安定化のためにウェッジシートを装着したが、疼痛の変化は見られなかった。その理由として固定が不十分とのご指摘を受けた。今回のように足関節の拘縮がない症例に関しては、ROM以外の詳細な評価や神経症状、靴の選択、インソールが重要であると再認識できた。

(校正者:松本 正知)



転倒後左肘外側部痛を呈した一症例

 症例は20歳代男性のラクロス部である。約1か月前、自転車走行中に左上肢を下敷きにする形で転倒した。3日後某整形外科を受診し、左内側側副靱帯損傷と診断され、創傷処置と投薬にて経過観察となった。疼痛が持続するため、約1か月後から運動療法開始となった。初診時の所見では、単純X線画像上特異的な所見はなく、エコー所見より、上腕三頭筋停止部周囲にlow echo像と血流の増加が確認された。また、肘関節内外側側副靭帯の損傷はなかったとのことであった。理学所見では、肘関節屈曲時痛と圧痛所見が上腕三頭筋停止部周囲に確認できたため、運動療法としては上腕三頭筋のリラクゼーションを主体に実施した。1週間後には、上腕三頭筋停止部での疼痛は消失したが、肘関節外側部痛の訴えがあった。疼痛部位は、肘関節外側で橈骨頭より遠位の部分であり、同部位に圧痛所見を認めた。内外反ストレステストは共に陰性であり、外側側副靭帯の付着する上腕骨外側上顆、橈骨頭に圧痛所見を認めなかった。再現痛は、肘関節伸展位・手関節掌屈位・手指屈曲位で出現した。手指屈曲位に関しては示指において特に再現痛が得られ、さらに示指伸展の等尺性収縮でも同様に再現痛が得られた。またこれらのうち一つでも条件が欠けると再現痛は得られなかった。現在、この疼痛を総指伸筋由来のものと考え運動療法を実施している。
 検討項目は①疼痛の病態についてと不足している評価②今後の運動療法プログラムについてであった。
 疼痛の病態は、総指伸筋であるとの意見でフロアーは一致していた。その他の意見としては、受傷肢位から回外筋の損傷の可能性が高いとのことであった。そのため周囲に位置する尺側手根伸筋、短頭側手根伸筋などの修復不全が疼痛発生の原因である可能性が高いとの意見が挙げられた。また回外筋が損傷すると、橈骨神経の損傷や絞扼による神経の疼痛も出現する可能性がある。これらを踏まえ不足している評価は、エコーにて総指伸筋の長軸像を描出しfibrillar patternの確認と短軸像にて前腕回内外時の筋の滑走動態を観察する必要があるとの意見や、疼痛部位でのcompression testを行い組織の硬さを評価してみるとの意見が挙げられた。神経に関しては、tinel徴候を詳細に評価するべきとの指摘があった。今後の運動療法プログラムは、総指伸筋に対するストレッチングとリラクセーションを継続しつつ、激しい運動を控え安静を保ちながら経過観察していく必要があるとの意見があった。併行して、総指伸筋周囲との滑走性改善やテーピング指導なども有用でないかとの意見が挙げられた。
 今回の検討より、本症例に生じていた疼痛に関しては肘関節外側の組織に何らかの損傷が生じていることが原因であると考えられた。また神経障害に関しても詳細な再評価が必要である事を学んだ。病態解釈に難渋している症例ではあるが、様々な可能性を考慮しながら詳細に評価をしていく必要性を再認識することができた。

(校正者:山本 紘之)



変形性肩関節症による挙上制限を主訴とした一症例 
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肩甲上腕関節に対する治療の可能性の検討-

 症例は70歳代の女性である.主訴は,多少の疼痛があるものの,肩を挙げられるようになりたいであった.現病歴は,40歳代に肩関節周囲炎を発症し,他院にて服薬と注射で完治した.しかし,一昨年より両肩に痛みが生じ,服薬と頻回にわたる注射治療により痛みは軽減したが,この頃から肩関節の挙上ができない事を自覚していた.さらに今年に入って,挙上制限により日常生活動作の制限が気になりだした為,当院を受診し運動療法開始となった.
 レントゲン所見では,両肩関節に骨の脆弱化,肩峰・肩甲骨関節窩・烏口突起・上腕骨頭の変形,上腕骨頭の上方偏位,関節裂隙の狭小化,上腕骨頭と肩甲骨関節窩における関節面の骨硬化などを認めた.
 右肩関節のMR所見は,関節水腫の増加,棘上筋の腱断裂と脂肪変性,棘下筋・肩甲下筋の脂肪変性を認めた.また,小円筋が正常に存在する事を確認できた.さらに骨頭内に内軟骨腫と思われる高吸収像を認めた.
 理学所見は,挙上時の疼痛(肩関節前上方 VAS:30)を認め,圧痛を大胸筋鎖骨部線維・上腕二頭筋長頭腱と筋腹・肩峰下・小円筋に認めた.整形外科テストは,Neer impingement test及びHawkins-Kennedy impingement testが陰性,Speed testYergason testは陽性であり,またFull can testEmpty can testBelly press testISP testといった腱板筋に対するストレステストは全て陽性であった.挙上時の再現痛を,Speed testYergason testFull canEmpty can test時に認めた.また,炎症所見はすべて陰性であった.
 肩甲骨非固定での関節可動域は,座位にて自動屈曲(右/左) 65/74°他動屈曲74/133°であり,側臥位では屈曲自動(右/左)120/129 他動128/140であり,側臥位では座位と比較して関節可動域が著明に良好であった.自動による屈曲及び外転動作で肩甲骨挙上・体幹での代償が見られた.さらに肩甲骨固定下での関節可動域では,著明な回旋制限を認めた.
 他動屈曲・外転などの挙上運動における可動域検査では,最終域で軋轢音や引っかかり認めた.
 前述した症例に対して,肩甲帯の可動性改善と筋力増強を中心とした治療プログラムを立案した.
 検討項目は,他動屈曲可動域測定が側臥位は座位と比較して著明に大きくなることから,座位と側臥位で上腕骨頭の位置が変化する事があり得るのかという点と,肩甲上腕関節に対する治療による挙上可動域の改善の可能性であった.
 フロアからは, 座位と側臥位での可動域の差が上腕骨頭位置の変化によるものだと仮定するのであれば,その原因と思われる三角筋の作用を除去するために上肢支持により上肢の重みを除いた時に,座位でも関節可動域の改善が得られるのかどうかを確認すべきであるという意見が出された.
 変形性肩関節症では,骨の変形により挙上可能なタイプと,不可能なタイプが存在する.挙上が可能なタイプは,肩甲骨関節窩が股関節臼蓋様な変形を呈している.しかし本症例は, レントゲン上,臼蓋様の変形を呈しておらず,著明な骨吸収を認める為,挙上不可能なタイプであると思われる.さらに腱板断裂を小円筋以外の腱板に認めることから運動療法により挙上を獲得するのは困難であるとの意見が上がった.
 本症例は,運動療法による挙上機能の改善は不可能であると思われる.理学療法士として運動療法の適応を明確に見極めて医者と相談し,肩関節専門医への紹介を行うべきであった.理学療法士は,医者と協議の上,運動療法適応・不適応を適切に判断する必要がある事を再認識することができた.

(校正者:篠田 光俊)