244回整形外科リハビリテーション研究会報告

2016.11.19 於:AP名古屋.名駅ビル
            

長距離走行後に股関節前外側部痛を生じた一症例

 症例は10歳代女性である。部活動は陸上部に所属し、3000m長距離選手である。中学時代は剣道部に所属していた。既往歴は1年前に捻挫の既往がある。診断名は右股関節拘縮である。現病歴は平成286月某日、長距離を走行中に徐々に右股関節前外側部痛が出現した。その後、部活動は継続していたが疼痛は軽減されず運動療法開始となった。主訴は、走行後の右股関節前外側部痛である。

 レントゲン所見では、CE角、sharp角は正常範囲内であるが、頚体角は両側146°と外反股を認めた。また視診上で骨盤アライメントが過前傾であることが確認された。

 MRI所見では、股関節専門のDrの診察では特徴的な所見はないと判断された。

 初診時の所見では、安静時痛はなく、運動時痛は20分以上のジョギング後に右股関節前外側部痛(Vas56mm)を訴えた。圧痛所見は右ASIS 、TFLに認めた。またTFLの圧痛が強く本症例の疼痛の再現を認めた。反対側は軽度TFLに圧痛を認めた。関節可動域検査では股関節内転可動域に左右差を認めた。前捻角をみるクレイグテストでは患側で31°、健側で28°であった。股関節柔軟性テストではoberテストのみ両側陽性であった。立位アライメントはASISPSISと比較し3横指ASISが下方に位置していた。足部の評価では非荷重時の舟状骨高に左右差を認め、患側の舟状骨高が低いことが確認された。

本症例の右股関節前外側疼痛の再現動作を他動運動にて評価したところ、股関節、膝関節の肢位に関係なく、すべての肢位の内旋位にて再現痛を認めた。中でも強く疼痛を訴えた肢位は股関節屈曲・外転・内旋位であった。MMTは股関節伸展、外転、外旋筋力が健側に比べ患側は低下していた。中でも患側の股関節外旋筋力が著明に低下していた。また患側の股関節内旋位での自動外転運動で股関節前外側部に痛みを訴えた。µ‐タスを用いて股関節外旋筋力を測定したところ、患側で、三回の平均値で703N 健側で813N、最大値は患側で710N、健側で850Nであった。

歩行分析では、前額面では両側ともに、踵接地時に大腿骨が過度に内旋してくる様子がpatellaの動きから確認できたが、矢状面からは特徴的な所見は確認できなかった。 

走行分析では、前額面では両側ともにつま先接地で走行する様子が確認できた。矢状面では、体幹が前傾位で走行し、同じくつま先接地が確認された。

20cmからの片脚ジャンプスクワットの評価では、患側、健側ともに着地時にknee-inするのが特徴的であり,患側においては着地とともに股関節前外側部の痛みを訴えられた。

疼痛部位である股関節前外側部の動態をエコーで観察した。疼痛部位に位置するTFLと中殿筋を短軸像で確認し股関節内外旋運動を行ったところ、患側ではTFL、中殿筋が内旋運動とともに一塊となって動いている像が確認できた。同部位の長軸での内外旋運動、内外転運動、血管増生反応があるか確認を行ったが、特徴的な所見は確認とれなかった。

初診時から現在までの理学療法プログラムは、股関節内転制限やTFLに圧痛を認めることからTFLダイレクトストレッチ、TFLのスタティックストレッチを実施しており4回目の加療から股関節外旋筋力のトレーニングを追加している。現在加療7回目で、圧痛を強く認めたTFLは初診時に比べ軽減はしているが、主訴である走行後の股関節前外側部痛(vas26mm)は残存している。

検討項目は、①走行後の股関節前外側部痛の解釈、②内旋強制(再現痛)との関係性、③不足している評価項目④追加する運動療法プログラムを挙げた。

フロアから、本症例は20分以上のジョギング後に痛みが出現し、局所的な疼痛を訴えているため、コンパートメント症候群によっての疼痛が出現していると解釈された。そのため、より深層筋(小殿筋)の評価が重要であるとの事であった。エコー所見から患側の中殿筋はhighに描出されていることや、中殿筋と小殿筋間にlowの像が確認されており肉離れも起きている可能性があるとの意見があった。しかし、エコー評価がTFLを主に描出しており、深層筋が詳細に評価できていないため再評価をする必要があるとのご指摘を受けた。本症例は、歩行時や走行中の分析から立脚相にて股関節内旋位が過度に出現している。理学所見から、股関節外旋筋力の低下、股関節内転制限、骨盤過前傾位、非荷重時の内側縦アーチ低下から、股関節内旋位が強制され続けることでTFL,中殿筋、小殿筋は負荷がかかるとの事であった。しかし、理学所見において股関節においては再度関節可動域検査(伸展)を再確認、足部においてもテーピングの評価や、靴の評価、全体像としても身長、体重の数年間の変化量を確認することなど、より詳細な評価が必要であるとご指摘を受けた。

今回の検討より、本症例に生じていた疼痛に関しては、長時間走行することで股関節深層筋のコンパートメント症候群を生じていることが考えられた。またエコー評価に関して再評価が必要であることを学んだ。本症例のように静的、動的アライメントの障害によりコンパートメント症候群が考えられた場合、負荷がかかる要因として、局所だけの評価ではなく足部から体幹まで全身的に評価を行い、歩容、走行動作を変えていく必要があることを再認識できた。

 (校正者:赤羽根 良和)



歩行時に腰殿部痛を生じた一症例

                                               

症例は50歳代の男性である。現病歴は34年程前から腰痛を生じていたが今年5月に特に誘引なく疼痛が増悪したため当院を受診、6月中旬より運動療法開始となった。また、仕事が忙しく通院は月に12回程度であった。主訴は持続する腰殿部痛と歩行時に生じる大腿外側部痛であった。

理学所見では股関節の可動域評価において左右ともに伸展可動域が-5°、内転可動域が5°と著明な可動域制限が認められた。その他下肢の可動域は参考可動域以上であった。MMTでの筋力評価では左右ともに股関節の外転筋力が3+と低下が認められた。その他股関節、膝関節の項目はすべて5であった。圧痛所見は左L4/L5椎間関節、両側中殿筋起始部、右大転子直上に認められた。梨状筋、PSIS、後仙腸靭帯、仙結節靭帯に圧痛は認められなかった。また、歩行時に大転子から大腿外側部にかけて生じる痛みは、TFLを伸張させることで再現され、伸張位から収縮を促すことで増強した。整形外科的テストでは、Thomas testEly testOber testにて両側ともに陽性であった。PLF testでは体幹に平行な線から大腿骨軸が右125°、左120°であった。Patrick testFreiberg testGaenslen testNewton testはすべて陰性であった。その他、片脚立位保持時間は右が30秒の保持が不可能で左が10秒間の保持が不可能であった。また、本症例の歩容は歩隔が非常に狭く、股関節は常に内旋位となり、ぶん回し歩行を呈し、体幹の左右動揺も顕著といった特徴的な歩容であったため、腱反射・病的反射についても評価を行ったがいずれも正常であった。

治療内容は、股関節周囲筋のストレッチとセルフストレッチの指導、外転筋の収縮練習、多裂筋リラクセーションおよびストレッチを実施した。経過としては、疼痛の寛解はないものの徐々に改善傾向であった。

 検討項目は「不足している評価項目」、「疼痛の解釈」、「特徴的な歩容を呈する原因について」、「股関節に拘縮を生じた原因について」の4項目を挙げた。

 

 フロアーからは、不足している評価については腸腰靭帯の圧痛所見やストレステスト、上・中・下殿皮神経の圧痛、皮膚を緊張・弛緩させての所見の変化といった評価が必要であるとの意見が挙げられた。また、圧痛所見についても肢位や組織の緊張度合い等、諸条件を変えて疼痛の度合いが変化するか等、より詳細に評価を行う必要性についての意見が挙げられた。また、局所症状と考えるのであればエコーを使って評価をすべきというご指摘を受けた。

疼痛の解釈についても局所の問題なのか、腰部の病変に由来する下肢症状なのかについて鑑別するためにも前述の評価が重要であるとの意見が挙げられた。また、中殿筋の筋力低下については、上殿神経が小殿筋と中殿筋の筋間を通過することから、同部での滑走の障害についても考慮する必要があるという意見が挙げられた。

本症例の様な特徴的な歩容を呈する原因については、可動域制限や大殿筋の筋力低下、外転筋の筋力低下など機能面に関する意見に加え、歩容評価より股関節の過度な内旋や体幹の側方動揺等が左右対称であることからもリウマチや強直性脊椎炎といった原疾患の存在も考慮して適宜主治医に上申して良いのではないかというご指摘を受けた。

股関節に拘縮を生じた原因については、疼痛を生じてから長期間が経過しており、通院することができなかった期間に重労働が重なったことも要因ではないかといった意見が挙がった。

 今回の検討では腰部疾患について関連する病態を否定する意味でもより多くの所見を評価し、病態を詳細に把握する必要性を再認識した。

(校正者:林 優)




 

肩関節後方亜脱臼を訴える一症例

症例は、中学3年生の陸上部に所属する男子である。昨年秋にハンドボールの授業で右肩周囲の疼痛とともに肩関節の亜脱臼感を訴える。一年後にまた同じ授業が行われ、同様の症状を訴えたため当院へ来院し、理学療法開始となる。主訴は、右肩関節の亜脱臼感とハンドボールの投球時痛である。Needは高校進学後はテニスをしたい。である。
 X線正面像では、反対側に対し臼蓋が浅く形成されていた。初診時理学所見において、他動可動域右/左では、前方挙上180°/180°、外転挙上180°/180°、結帯Th3/Th1、下垂位外旋90°/100°、外転位外旋100°/105°、外転位内旋20°/45°、屈曲位内旋5°/15°、水平内転100°/110°であった。また水平内転動作では45°程度で後方への亜脱臼を認めた。圧痛所見は三角筋前部線維、棘下筋斜走線維、小円筋棘上筋、肩甲下筋上部線維、後方関節裂隙に認めた。MMT/左では僧帽筋中部線維・下部線維ともに5/5であり、小円筋は5/4であった。整形外科テストは。ISPテスト()Belly press test()Full can test()Empty can test()sulcus test()であった。亜脱臼を誘発する動作を確認すると、端座位にて肩関節内旋位での自動水平内転動作時に、後方に亜脱臼し、水平外転で整復される様子を確認した。また外転挙上を行うと外転90°で後方へ亜脱臼し、130°で整復される様子を確認した。また後方亜脱臼のエコー動画撮影では、Micro Convexプローブを使用し、臼蓋上腕関節後方から骨頭、後方関節唇、臼蓋が描出できるように置いた。亜脱臼動作を肩関節内旋位での自動水平内外転動作を行うと、水平内転で後方へ亜脱臼し、水平外転で整復される様子を描出した。投球動作を確認すると体幹の回旋動作が少なく、手投げの状態でのthrowであった。亜脱臼を誘発するのを嫌がりCockingでは肘下がりを呈していた。治療内容は、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の反復収縮運動と僧帽筋中下部の収縮訓練を行い、投球動作に対しては、体幹の回旋を指導し、scapla plane上でのCockingとなるよう指導した。検討内容は、不足している評価は何か、理学療法で改善できるかを検討内容とした。
 フロアーからは、CT3D-CT MRIなどを撮影し、破綻している組織を確認すべきという意見が多かった。またX線正面像から、正常な臼蓋に比べ明瞭な骨縁を形成していないという意見や、X線斜位像から、臼蓋側だけでなく骨頭の下縁も正常に比べ骨縁がやや不明瞭という意見が出され、臼蓋側の骨折の可能性が指摘された。さらにエコー動画からも亜脱臼時に関節包が後方に浮き上がっている様子が確認できることから、関節包も含めた後方支持組織が破たんしている可能性が指摘された。
 理学療法では機能改善は期待できず、専門医の受診をした方が良いという意見が多く、もし高校進学後にテニスをするならば手術適応の症例であるという意見が出された。