248回整形外科リハビリテーション研究会報告

2017.5.20 於:国際医学技術専門学校
            


橈骨遠位端骨折後に生じた回内制限の改善に難渋している症例

 症例は80歳代の女性で、3月下旬にベランダから部屋に戻る際に敷居につまずき右手をつき転倒受傷した。右橈骨遠位端骨折と診断され透視下骨整復を受け、当院に紹介受診し受傷後4W目より運動療法開始となった。疼痛は回内運動時にDRUJ付近に認めた。前腕から手指にかけて腫脹、熱感を認め、圧痛は骨折部周囲、第2.3掌側骨間筋、浅指屈筋、深指屈筋、円回内筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、斜角筋、小胸筋、肩甲挙筋、上腕内外則の筋間中隔に認めた。現在のROM制限は肘関節屈曲100°、伸展-20°、回内0°、回外70°、掌屈40°、背屈10°であり、FDP.FDSテストと手内在筋短縮テストはそれぞれ陽性であった。X-P画像所見よりRadial tilt:22° Dorsal tilt:20° Radial length:5.6mmと遠位骨片が背側に傾斜しており、尺骨はplus variantであった。また、上腕三頭筋、小指外転筋に筋力低下を認め、肘部管、ストリューザーズアーケードでのtinel signを認めた。超音波エコーにて骨折部、DRUJを短軸像で確認したところ、その周囲に血管増生像を認めた。運動療法では浮腫管理を目的とし弾性包帯と紐ラッピング法を行い浮腫の軽減を図った後、腱滑走訓練とRC関節、MC関節、MP関節、IP関節、前腕回内外の可動域訓練を行っている。その場では浮腫は軽減するが、次回来院時には浮腫、可動域制限ともにリバウンドしていた。検討項目として、現段階の病態と回内制限因子について、本症例の予後、現段階で行うべき評価と運動療法について検討が行われた。 
 
 フロアからは超音波エコー、X-P画像から得られる所見及び、骨折部周囲の腫脹、熱感などから骨折部が不安定な状態なのではないかと指摘があり、X線透視装置下や超音波エコー下にて骨折部を直接動かせて不安定性の有無を評価するとよいとの意見があった。不安定な状態であれば装具を作成し、安定性の獲得を優先しRC関節より遠位の可動域獲得を進めた方がよいという意見が上がった。安定している状態であれば、回内可動域よりもまずMP関節、IP関節、MC関節、RC関節の順に可動域制限を除去しADLでの活動量を増やすことが先決だという意見が上がった。現在の状態では7週経過していることもあり関節性拘縮が考えられ、骨萎縮も始まっているため自主トレを積極的に行ってもらうとよいという意見が上がった。また、本症例の予後予測としてはDorsal tilt20°以上の角状変形を呈しており掌屈、回旋可動域に制限が出ることが予測された。


 本症例を通して、画像所見や解剖学、運動学、生理学と照らし合わせていくことが病態考察をするために重要であることを再認識し、各症例の病態に沿った運動療法を提供することが機能改善に重要であることを実感した症例であった。

(校正者:岡西 尚人)



増悪寛解を繰り返し、疼痛の改善に難渋している膝蓋腱炎の症例

症例は10代男性でバスケットボールの練習中に左膝前面痛が生じ、約3ヶ月間の運動を休止するも疼痛が軽減せず、当院を受診したMRI像にて膝蓋腱付着部に高信号域を認め、左膝蓋腱炎と診断され、運動療法が開始となった。開始6ヶ月にて部活動の完全復帰を果たすも1年前に再燃した。再度当院を受診され、運動療法が再開となった。診時、疼痛は歩行時に左膝前面部にみられ、圧痛は膝蓋下脂肪体及び膝蓋腱の膝蓋骨付着部内側に認めた。膝蓋腱膝蓋骨付着部の圧痛は膝屈曲位では認めず、伸展位と膝蓋骨下極を突出させた際に出現した。ROMは膝関節屈伸共に左右差はないが、膝蓋下脂肪体、外側広筋、外側膝蓋支帯の柔軟性低下を認め、Ober testEly testは共に陽性であった。歩行時はknee in toe outを呈しており、下腿外旋制動テーピングの貼付にて歩行時痛の軽減を認めた。また、スクワッティングテストではknee inにて疼痛の増悪を認めた。運動療法は、柔軟性の低下を認めた組織のリラクゼーション及びストレッチを施行し、インソールにて踵骨直立化及び下腿内旋誘導を図った。さらに骨盤前傾姿勢の獲得やknee inの是正を意識させながら、動作のレベルアップを図った。再開3週で歩行時痛が消失し、2ヶ月にて部活動の部分復帰が可能となり、3ヶ月にて完全復帰を果たしたが、運動強度を上げると疼痛の再燃を繰り返しており、現在1年が経過している。現在、疼痛は運動時には出現していないが、運動量が多かった後には、安静痛及び歩行時痛が出現している。圧痛は膝蓋腱の膝蓋骨付着部内側に認めた。各組織の柔軟性低下はほぼ陰性化している。患部外は足関節・股関節ともに明らかな関節可動域制限はなかった。内側広筋の萎縮が残存しているが、膝関節・股関節周囲筋群はMMT4レベルであった。立位アライメントでは頭頸部が前方偏位し、腰椎の前彎が減少し、骨盤が後傾していた。足りない評価・治療について検討された。

 現状では拘縮性要素はほぼ改善されているため、患部外も含めた筋力からくるアライメントが原因ではないかと考えられた。まず、患部に関しては依然、内側広筋の萎縮がみられており、継続した強化が必要である。また、立位アライメントから体幹及び股関節
周囲筋群の筋力低下が指摘された。これらにより膝蓋腱膝蓋骨付着部に機械的ストレスが集中しているではないかと考えられた。そのため、体幹・股関節機能のより詳細な評価とそれに準じた治療が必要ではないかと考えられた。また、足部内在筋の評価も加えてみておく必要がある。実技では、体幹筋深層筋群の筋力評価の方法が紹介された。損傷部位と他部位との関係性を評価するには、1つのターゲットに絞って治療し、その結果をVASなどで評価し、効果が無ければまた別部位を治療し、一つ一つターゲットを絞っていくことが重要であると思われた。


(校正者:岡西 尚人)




左大腿骨頸部骨折の術後、左臀部痛を呈した症例 

症例は30代の女性で、受傷前に腰痛はなかった。自宅玄関付近での側方への転倒で受傷し、左大腿骨頸部骨折と診断された。受傷後2日で骨接合術(Hansson pin)が施行され、術後1日より運動療法が開始された。術後1週より1/2荷重、術後2週より全荷重が許可された。荷重開始となった術後1週より左殿部痛が出現し、荷重量の増加に伴い殿部痛が増悪した。股関節伸展・内転制限、大殿筋の筋力低下による仙腸関節障害と考察し、股関節の可動域改善、筋力強化、仙腸関節の安静を図ったところ、良好に回復した。

 本症例における殿部痛が出現した原因、行うべきであった評価・治療について検討した。殿部痛の主な原因として、股関節伸展可動域の低下が挙げられた。受傷により股関節周囲は炎症を起こしており、関節内圧を減少させるため、股関節は軽度屈曲位のまま保持されていた可能性がある。股関節軽度屈曲位の保持により股関節伸展制限が生じ、可動域が不十分な状態で歩行を開始したために、代償的に仙腸関節の過可動性が強要され、仙腸関節性疼痛が生じたとの見解が示された。行うべきであった評価・治療としては、早期からの股関節伸展可動域の確認および運動が挙げられた。受傷による関節内圧の変化により腸腰筋、恥骨筋、大腿筋膜張筋といった股関節伸展制限になり得る筋群が攣縮を起こしている可能性が高いため、所見による確認後にrelaxationstretchを行うとともに、歩行開始以前に立位・非荷重下で股関節屈曲-伸展運動を行わせる等して、可動域を早期に獲得していく必要があった。また、大腿骨頚部骨折後の殿部痛の出現は必発するものではないため、本症例特有の原因があった可能性があり、その1つとして、仙腸関節自体の不安定性が考えられた。本症例は受傷前に腰部疾患の既往はなく、出産経験もなかった。そのため、急激な骨量の低下、仙腸関節の不安定性を呈している可能性は考えにくく、受傷時に仙腸関節へなんらかのストレスがかかった可能性がある。その点について行うべきであった評価として仙腸関節ベルト装着下での疼痛変化の有無、仙腸関節のエコー所見が挙げられた。

 今回の症例から学ぶことは、股関節伸展制限が仙腸関節障害を引き起こす可能性があるため、股関節伸展可動域の早期獲得を目指す必要があること、動作レベルを上げていく際に、筋力・可動域が十分であるかの確認を行う必要性があることであった。