256回整形外科リハビリテーション研究会報告

2018.5.19 於:AP名古屋 名駅6F
            


肘関節伸展時の後方部痛が残存している肘頭骨折術後の症例

症例は、50代の男性である。カーポートの掃除中に1.8mの脚立から後ろ向きに転落し受傷した。当日、A病院を受診しL2椎体骨折、右肘頭骨折と診断された。受傷3日後、右肘頭骨折に対してtension band wiring法による骨接合術が施行された。受傷31日後にオルソグラス固定を除去した。受傷33日後に某整形外科クリニックを受診し、運動療法が開始となった。
初期の理学所見より、ROMは肘関節屈曲110°、伸展‐20°であった。肘関節伸展時には肘関節後面に疼痛があり、皮膚への操作にて疼痛の増減を認めた。圧痛所見は長橈側手根伸筋、上腕三頭筋内側頭、肘関節後方脂肪体に認めた。運動療法として、術創部の滑走訓練、上腕三頭筋内側頭のリラクゼーションおよび収縮運動、長橈側手根伸筋と肘関節後方脂肪体のモビライゼーション、上腕筋の等尺性収縮を実施した。加療4ヵ月後、ADLでの支障はなくなったが、肘関節伸展時の後方部痛が残存していた。ROMは肘関節屈曲135°、伸展‐10°であった。肘関節伸展時には、肘頭近位部に疼痛を認めた。肘頭近位部の疼痛は、肘関節屈曲90°および軽度屈曲位から伸展方向への等尺性収縮でも認めた。肘関節45°屈曲位から伸展方向への等尺性収縮では疼痛が認められなかった。圧痛は上腕筋、肘頭近位外側に認めた。疼痛および圧痛部位をエコーで観察すると、キュルシュナー鋼線の先端の部分であり、周囲には血流増生像を認めた。キュルシュナー鋼線の長軸像を描出し、軽度屈曲位から他動伸展をおこなうとキュルシュナー鋼線の先端が上腕三頭筋共同腱を表層から圧迫しているかのような動態が観察された。これより、ピントラブルにより肘関節伸展時の後方部痛が出現していると考えたが、ピンの抜去の可能性およびその時期は未定であった。
検討項目は、肘関節伸展時痛の解釈と肘関節伸展制限に対する治療の2点であった。
フロアーからは、肘関節伸展時痛の部位・責任組織を明確にするため、肘関節の内外反や前腕の回内外、皮膚への操作など条件を変えることで増減するかどうかを詳細に評価する必要性があるのではないかという意見があった。また、骨折部の不安定性に伴う疼痛も否定できないため、現在の単純X線画像の把握やエコーによる観察が必要であるという指摘があった。ピントラブルにより肘関節伸展時痛が出現している場合は、異所性骨化が出現する可能性もあるため、現時点でこれ以上の伸展可動域の拡大は行わず、ピンの抜去に備えて伸展制限に関わる軟部組織の柔軟性および伸張性の維持を目的とした運動療法が必要であるとの方向性が示された。
関節可動域制限や疼痛が運動療法で改善できない原因の場合もある。原因究明を十分に行わず、可動域拡大に主眼を置いた不用意な運動療法により、疼痛を増強させたり別の病態を惹起させたりすることがないようにすべきである。医学的情報や所見に基づいた詳細な病態評価のもとに先を見据えた方法論での運動療法を実施する必要があることを再認識できた症例であった。

(校正者:猪田 茂生)




三角骨骨折と橈骨遠位端骨折を呈し手関節尺背側部痛が残存している症例

症例は74歳の男性である。某日、散歩中に尻もちをつく形で転倒した際に左手をつき受傷した。翌日某整形外科クリニックを受診し、単純X線画像にて三角骨骨折が疑われた。そのためA病院にてCTによる撮影を行い、左三角骨骨折および左橈骨遠位端骨折と診断された。保存療法が選択され、某整形外科クリニックにて前腕近位部から中手指節間関節近位部までのギプス固定が施行された。4週間後、ギプスを除去し運動療法が開始となった。初期の前腕と手関節のROM(右/左)は、回外100°/95°、回内120°/120°、背屈80°/60°、背屈(手根中央関節)45°/30°、掌屈60°/55°、掌屈(手根中央関節)30°/30°、橈屈20°/15°、尺屈40°/40°であった。圧痛は背側関節包外結合組織、TFCC、遠位橈尺関節、尺側手根伸筋、尺側手根屈筋、総指伸筋に認めた。運動療法は、手外筋の反復収縮運動とストレッチング、手関節の牽引操作、背側関節包外結合組織のモビライゼーション、TFCCのモビライゼーション、橈骨手根関節と手根中央関節の可動域訓練を実施した。加療約2か月後において、前腕と手関節のROMは、背屈が80°/75°であり、その他の動きは左右差を認めなかった。手関節のMMTは、すべて5であった。しかし、手関節背屈位での上肢荷重時や引き戸を締める動作で手関節掌尺屈が強制された際の手関節尺背側部痛が残存していた。整形外科テストはfovea sign軽度陽性、ulnocarpal stress test、DRUJ ballottment test、piano key testは陰性であった。圧痛は尺骨と三角骨間の尺側部、三角骨と有鉤骨間の尺側部に認めた。エコーでは、疼痛部位である三角骨背側部を観察した。三角骨の表層にある結合組織に、血流増生像を認めた。同部位の結合組織は、健側に比較しやや高エコー像であった。運動療法は、手関節背屈制限の改善を目的に尺側手根屈筋のストレッチング、手根中央関節と橈骨手根関節の可動域訓練を実施し、また疼痛が出現している部位の三角骨の表層にある結合組織のモビライゼーションを施行したが、手関節背屈位での上肢荷重時や引き戸の動作での疼痛に変化がなかった。
検討項目は、手関節背屈位での上肢荷重時と、引き戸を締める動作時の疼痛の解釈について、疼痛に対する治療についての2点であった。
フロアからは、三角骨の骨折部が遷延治癒もしくは偽関節になっているのではという意見があげられた。これに対する評価として、CTによる骨折部の評価や、疼痛が出現する動作において徒手的に骨折部を固定した状態で疼痛が変化するかどうかを確認することが必要であるとの意見であった。骨折部の問題による疼痛でなければ、高エコー像で描出される三角骨背側にある結合組織の拘縮が疼痛に関与している可能性がある。これに対する評価として、エコーを用いてプローブで圧迫したときや疼痛が出現する動作を再現したときの結合組織の動態を健患側で比較するとの意見が挙げられた。また、TFCCによる疼痛も意見として挙げられた。CT所見より月状骨、三角骨に骨嚢胞を認め、年齢も加味すると受傷前から無症候性の尺骨突き上げ症候群の可能性があった。今回の受傷に伴い、TFCCも損傷している可能性があり、初期の運動療法からTFCCの治療を行っていたことが、疼痛の遷延につながっている可能性も指摘された。一方で、年齢やCT所見を考慮すると、TFCCを保護する必要はないのではないかという意見も挙げられた。さらに橈骨手根関節の可動域制限が残存していることで、手根中央関節もしくは橈骨手根関節尺側部にストレスがかかり疼痛が出現している可能性もあげられた。背屈動作における手関節背側の皮膚の動きを観察すると橈骨手根関節背側の皺が少ないということを指摘された。ROMの結果においても背屈可動域が低下しているため橈骨手根関節の拘縮が残存していると考えられる。そのため橈骨手根関節の可動性を評価する目的で、リバースダーツスローでのROMを計測していく必要性が挙げられた。
関節運動に伴い疼痛が生じている場合は、当該関節の拘縮を十分に評価し治療していくことの必要性を再認識した症例であった。

(校正者:)