257回整形外科リハビリテーション研究会報告

2018.7.21 於:AP名古屋 名駅6F
            


人工骨頭置換術後に下肢の神経症状を呈した一症例

症例は70代の女性である。自宅にて段差につまずき後方に転倒した。翌日、某病院を受診し左大腿骨頸部骨折と診断され、受傷5日後に後外側アプローチにて左人工骨頭置換術を施行された。手術時に深層外旋六筋は大転子付着部で縫合された。術後翌日より運動療法開始となった。
運動療法開始時の主訴は、安静坐位時の足底から下腿全域にかけて痺れであった。痺れの再現としては、仙腸関節のnutation,counter-nutation操作やSLR位での足関節背屈、SLR位での股関節外旋内転操作時に足部の痺れの再現を認めた。圧痛評価としては、梨状筋・仙腸関節・仙結節靭帯・上後腸骨棘・坐骨神経に認め、これらの圧痛に伴い足部に痺れの再現を認めた。仙腸関節スコアは4点であったが骨盤ベルト・仙腸関節ブロックは無効であった。また痺れは骨盤前傾、左殿部への荷重時に増悪し、骨盤後傾、膝関節他動屈曲、左殿部の免荷によって消失した。
股関節可動域は、屈曲45°、伸展5°、外転20°、内転5°、外旋30°、内旋5°と健側に比べ減少していたが、関節操作に伴う痺れの再現は認めなかった。筋力は下肢全域で健側に比べ低下していたが、より足趾の屈筋及び伸筋に著明な低下を認めた。感覚は足部に7/10程度の限局的な感覚鈍磨を認め、反射は膝蓋腱反射・アキレス腱反射ともに正常であった。Tinel’s signは梨状筋下孔・坐骨結節外側部・膝窩部・足根管で認めた。
これらの所見と痺れの再現から、仙腸関節性障害、梨状筋症候群、坐骨神経障害の3つの要素を疑ったが、それぞれ病態に一致しない理学所見があり痺れの解釈に難渋していた。
検討項目は、神経症状に対する病態解釈と不足している評価項目についての2点であった。
フロアーからは、病態は1つではなく3つの病態が混在しているものではないかという意見や、殿部からの転倒であれば坐骨周囲のトラブルが生じる可能性があるため、CTでの詳細な評価も行うべきであるという意見があった。また、手術侵襲による深層外旋筋群の緊張や血腫による坐骨神経の絞扼による症状の可能性があるという意見もあり、坐骨神経に対してより詳細な評価を行ったうえで原因を追求し、加療による効果判定をする必要性が示された。
本症例において、更なる理学療法評価を詳細に行い、治療対象を明確にすることの重要性を再確認した。また、術後早期の時点では手術侵襲による影響も考えられるため、十分に経過観察を行う必要があることを再認識できた症例であった。

(校正者:鵜飼 建志)




肘関節脱臼骨折後に橈骨神経麻痺様症状を合併した一症例

症例は、30歳代の女性である。ローラースケート中に転倒し左手を後方につき、結帯のような姿勢で巻き込まれ受傷した。当日、他院にて肘関節脱臼骨折と診断され、腕尺関節の脱臼を整復した。左上腕骨外顆骨折に対しては、受傷4日後、当院にてtention band wiring法による骨接合術が施行された。術後3週間のギプス固定後、術後5週目から運動療法開始となった。主訴は家事動作の困難感と手指の伸ばしにくさであった。
術後5週目の初診時理学所見では、ROMは肘関節屈曲75°、伸展−55°、前腕回内60°と制限を認めた。圧痛所見は長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋(ECRB)、回外筋に認めた。手指の伸展不全を認めた。橈骨神経浅枝の感覚領域に左右差は認めなかった。筋力検査では、手内筋の筋力はMMT5レベルであり、手指伸展筋力、母指伸展、橈側外転にMMT2レベルの筋力低下を認めた。
これらの所見より後骨間神経のトラブルと考え、エコーにて回外筋部を通過する橈骨神経深枝を描出すると、患側の橈骨神経深枝が回外筋中1/2部で腫れている像が確認された。
検討項目は、①橈骨神経症状が出現した理由②橈骨神経損傷と考える場合どのくらいの期間で修復してくるか③エコー上での橈骨神経深枝が腫れている原因④運動療法で橈骨神経症状に対し行うことはあるかの4点とした。
フロアーからは、受傷時に結帯肢位であったため、肘関節軽度屈曲、前腕回内、肘関節内反ストレスが生じていたと考えられ、これにより回外筋の遠心生収縮が強いられたことで、橈骨神経深枝が圧迫を受けたのではないかとの意見が出された。加えて腕尺関節が脱臼したことにより、橈骨神経深枝が牽引され橈骨神経損傷が起きたのではないかとの意見もあった。現在までの手指伸展運動の改善度からすると橈骨神経の回復は良好との指摘があり、エコーで得られた橈骨神経深枝の腫れが改善すれば神経症状は回復するのか、今後経時的にエコーにて観察する必要があるとの意見があった。また、エコーで回内外運動時の動態からECRBと回外筋との癒着が確認できるとの意見もあり、橈骨神経損傷だけでなく二次的に生じた拘縮が橈骨神経症状を助長している可能性が指摘された。橈骨神経症状に行う運動療法として、ECRBと回外筋との癒着に対する加療も行う必要があると指摘があった。受傷機転から推察される橈骨神経損傷や理学所見に基づいた詳細な病態評価を行うことで、運動療法を実施する必要があることを再認識できた症例であった。

(校正者:岸田 敏嗣)