258回整形外科リハビリテーション研究会報告

2018.8.18 於:AP名古屋 名駅7F
            


肘関節屈曲時に肘関節遠位部痛が残存している肘関節脱臼術後症例

症例は20歳代の男性である。路上での転倒により肩関節屈曲・内旋、肘関節伸展、前腕回外、手関節背屈位で左上肢に全体重がかかり受傷した。受傷当日に他院にて左肘関節脱臼と診断、整復され肘関節屈曲20°で再脱臼してしまうため肘関節伸展位でシーネ固定となった。受傷3日後、当院受診しX線所見で肘頭の亜脱臼を認めたため再度整復し、肘関節屈曲位でシーネ固定となった。受傷13日後、透視下ストレステストで内反、外反ともに関節裂隙は開大し、PLRI testでは亜脱臼を認めたために内外側の靭帯縫合術が施行された。
運動療法は術後1日目より開始となった。主治医からは縫合した靭帯の強度を考慮して術後3週までは肘関節-45°~90°、術後7週までは-30°~freeの可動域制限の指示を受け、術後7週以降は全可動域での運動が許可された。術後24週の他動可動域は肘関節屈曲135°(健側150°)、伸展-5°(健側5°)を獲得したものの、受傷32週まで著変はなかった。手関節や肩関節、前腕肢位の変化による肘関節可動域の増減はみられなかった。圧痛所見は上腕筋遠位内側部、上腕三頭筋内側頭遠位外側部にあり、自・他動での屈曲最終域では肘関節遠位外側部に疼痛を訴えており、伸展最終域では肘頭窩に疼痛を訴えていた。屈曲最終域での疼痛は肘筋の起始部を停止部に寄せることで消失した。また、肘筋や尺側手根屈筋に圧痛所見はなかったが、肘関節伸展位で肘筋と尺側手根屈筋の間から肘筋深層に圧をかけると圧痛所見があった。
エコー所見では健側に比べて上腕筋や上腕三頭筋内側頭の肘関節近位部が高エコー像を示し、伸展最終域において肘頭窩では上腕三頭筋内側頭の柔軟性低下により後方脂肪体が近位方向に移動できずにインピンジメントが生じていた。肘筋の短軸像では肘筋深層に腕橈関節の関節包と脂肪体が描出され、その間に血管増生像がみられた。健側の屈曲最終域付近での屈伸運動では上腕骨小頭と橈骨頭の間に脂肪体が出入りする動態が描出されたが、患側では脂肪体の出入りが乏しかった。
検討項目は、①屈曲最終域での疼痛解釈と制限因子について(不足している評価や肘筋深層の脂肪体は疼痛や屈曲制限の原因となることがあるか)、②肘関節周囲の脂肪組織へのアプローチについて(術後より行っておくべきであった拘縮予防と現時点での拘縮に対する運動療法)の2点であった。
フロアからは肘筋深層の脂肪体は屈曲最終域での疼痛の原因にはなっているが可動域制限の原因にはなっておらず、断裂した靭帯やその周囲組織の縫合による関節包の肥厚や脂肪体が位置する腕頭関節や近位橈尺関節の可動性低下が屈曲最終域での制限となっているのではないかとの意見があった。屈曲最終域での腕頭関節や近位橈尺関節の必要となる可動性を評価する方法として、上腕骨小頭や上腕骨滑車、橈骨頭や肘頭それぞれの位置関係を徒手的に操作して屈曲最終域での疼痛や可動域の増減を確認する方法が示された。
屈曲最終域では弾性包帯で肘関節を固定して軟部組織を持続伸張することにより運動療法で拡大した可動域を保持する方法や弾性包帯固定下で等尺性収縮(等張性収縮含む)の伸展抵抗運動と屈曲自動介助運動を行うことにより屈曲最終域での全体的な柔軟性を改善していく方法が示された。また、屈伸運動操作時の把持はできる限り関節近位部として、鉤状突起や肘頭の動きを意識して腕橈関節および腕尺関節部の圧着と安定を得た中で回転中心を逸脱させないように操作することで可動最終域でのインピンジメントを防止することができるのではかとの助言を受けた。
本症例ではエコー所見で描出された脂肪体の動態に着目して運動療法を展開してしまったが、受傷時の軟部組織の損傷や縫合術によって生じた腕頭関節や近位橈尺関節の拘縮を取り除き、安定した肘関節屈伸運動を再現することが屈曲最終域での疼痛消失や可動域に対しても重要であると再確認できた症例であった。

(校正者:橋下 貴幸)




右股関節周囲炎と診断された症例の歩行時痛の解釈について

症例は70歳代男性である。2年前より誘因なく右股関節痛が出現し、徐々に疼痛増悪し、立位保持・連続歩行困難となり当院を受診した。単純X線にて寛骨臼形成不全と下位腰椎の変性を認め、MRIより右大腿直筋付着部に水腫を認めた。大腿直筋付着部へ局所注射を施行したが短期効果しか認めず、腰椎への硬膜外ブロックや仙腸関節ブロックでも股関節痛に変化なかった。いずれも効果を認めなかったが、股関節由来の疼痛の可能性が高いとの判断から運動療法開始となった。
主訴は立位や歩行時の右股関節痛で、立位保持は10分、連続歩行は40mでVAS 91mmの強い疼痛を訴えた。疼痛部位は大転子よりやや上前方に限局していた。圧痛は大腿直筋・腸腰筋・中小殿筋・外閉鎖筋で強く、大腿筋膜張筋・梨状筋・上下双子筋にも認めた。下肢伸展自動挙上では60°で再現痛を認め、骨頭の後方への押し込み操作で消失した。股関節の可動域は制限を認めるものの著明な左右差はなく、筋力も全体的にMMT3〜4レベルで低下していたが左右差はなかった。PLFテストも両側とも陽性であったが、角度に左右差はなかった。股関節や仙腸関節の疼痛誘発テスト、仙腸関節スコアも全て陰性だった。また、歩行時とほぼ同時に右大腿前面の痺れを訴えたが、大腿神経のtinel signは陰性だった。歩行は、全歩行周期で体幹軽度左側屈位で骨盤は後傾位であった。荷重時に不安定感を認め、下肢の振り出しに伴う骨盤回旋不足と、遊脚終期での過剰な膝伸展を認めた。
検討項目は①追加すべき評価項目、②疼痛解釈についてとした。フロアーからは、四つ這い歩行や杖歩行など、条件を変えた時の疼痛変化や、歩行時痛が出現した直後の圧痛所見の変化など、様々な外的刺激による疼痛の変化から治療の糸口が見つかるのではないかとの意見が出た。また、疼痛出現部位から大腿外側皮神経の絞扼による神経因性疼痛、腰椎疾患や既往の腎癌による関連痛、腸腰筋や大腿直筋など股関節周囲組織由来の疼痛などの可能性について、より詳細に再評価する必要性をご指摘頂いた。画像所見からはCE角が右30°左23°と明らかな寛骨臼形成不全とは言えないため、明らかな不安定性があったと判断できないこと、理学所見に一致する画像所見を認めないことから、画像所見・可動域制限・疼痛が関連しない可能性も考慮する必要があるとご指摘を頂いた。症例は股関節伸展域で疼痛が出現しやすい傾向にあるため、屈曲域や牽引操作を併用しながら加療することで徐々に伸展域へと進めていくことをご助言いただいた。

(校正者:山本 昌樹)