260回整形外科リハビリテーション研究会報告

2018.11.17 於:IMY 6F
            


上腕骨骨幹部骨折に対し髄内釘による骨接合術後挙上制限が残存している一症例

症例は、80歳代の女性である。犬の散歩中、リードを持っていた手が引っ張られて転倒した際に受傷した。救急搬送され、某病院にて左上腕骨骨幹部骨折と診断され、翌日、順行性髄内釘による骨接合術が施行された。約2カ月後、リハビリ目的で某クリニックを紹介受診され、運動療法が開始となった。主訴は、左肩の挙上困難と疼痛である。手術記事と執刀医からの情報より、Deltoid Split approachにて髄内釘を用いた骨接合術が行われた。上腕骨の単純X線画像より、髄内釘が上方に突出しているように見えるが、関節軟骨があるため、実際の突出はわずかであり、問題がないとのことであった。また固定力は良好だが、関節可動域の改善が不良とのことであった。特にリハビリ時の運動制限やADLにおける使用制限はすでに解除されている。理学所見より、肩の自動運動時に上腕骨中央前面に疼痛が出現していた。圧痛は骨折部に認めたが、骨折部より近位の上腕骨に対して遠位の上腕骨を徒手的に動かした際に疼痛が無く、エコーにて自他動挙上時の骨折部の動態を観察したところ、不安定性がなかった。また他動挙上より自動挙上で疼痛が強く、骨折部位が三角筋粗面周囲であったため、三角筋付着部での疼痛が出現していると考えた。左肩関節複合体のROMは、屈曲60°、外転45°であった。肩甲上腕関節のROMは、屈曲30°、外転40°、伸展40°、内転0°、下垂位外旋30°、下垂位内旋80°であった。圧痛は、三角筋前部および中部線維、棘下筋、小円筋、大円筋、烏口上腕靭帯、肩甲下筋、大結節上面および後面、烏口肩峰靭帯肩峰付着部、菱形筋、肩甲挙筋、小胸筋に認めた。運動療法は挙上可動域の改善を目的に、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション、僧帽筋のトレーニング、腱板筋のリラクゼーション(骨折部より近位の上腕骨を操作して)、肩甲上腕関節後方および下方関節包の伸張操作(骨折部より近位の上腕骨もしくは肩甲骨を操作)を実施した。自主トレーニングでは、肩甲骨の挙上および下制運動、肩甲骨の内転および外転運動、座位姿勢からお辞儀をして上肢を下垂させる運動を実施した。また骨癒合促進を目的にセーフスによる治療を行った。術後約4ヵ月では、ROMに明らかな変化を認めないが、掌を上に向けた状態では挙上が行いにくくなり、掌を下に向けた状態では挙上が行いやすいという所見があった。エコーより髄内釘の上方突出部を観察した際、関節軟骨より約3mm上方に突出していた。単純X線画像では、仮骨が依然としてみられず、挙上約45°で髄内釘突出部と臼蓋上縁とがインピンジメントする可能性があった。そのため抜釘を施行するまでは、過度な挙上可動域訓練は行わない方針としたが、エコーを用いて髄内釘の上方突出部もしくは横止めスクリューを描出した状態での他動挙上運動では約10°しか動いてないことがわかった。医師からのゴール設定は、左で洗髪動作が可能になるようにとのことであった。
検討項目は、髄内釘の上方突出部もしくは横止めスクリューがインピンジメントするまでの他動挙上可動域の獲得は積極的に目指す必要があるのか、自動挙上可動域を拡大するために必要なことは何か、抜釘を施行してから自他動の挙上可動域の獲得を目指す方針でよいのかの3点であった。
肩関節の他動挙上可動域制限に対しての過度な可動域訓練は、髄内釘の上方突出部と臼蓋上縁とのインピンジメントを起こし、関節上結節部での損傷や腱板損傷を来たす可能性がある。そのため、インピンジメントを生じさせない肩関節内転、外旋位での屈曲方向の可動域訓練が可能ではないかとの意見があった。またインピンジメントの評価としてエコーで確認する際、肩峰と髄内釘の上方突出部もしくは横止めスクリューを同一画面上に描出し、lateral、neutral、anterior pathそれぞれの面で挙上時の動態を観察する必要性が挙げられた。ただし、エコー画像上、インピンジメントをしている像が観察されても、拘縮の要素も否定できないため、その際は骨頭のtranslationも併せて評価する必要がある。次に骨折部での回旋変形の可能性もあるため、理学所見では外側上顆と大結節が同一面上にあるかを確認し、 回旋変形の評価をするのがいいのではとの意見があった。その他の回旋変形の評価として、エコーやCTによる評価も挙げられた。骨折部より遠位の上腕骨が外旋位に転位していれば三角筋前部の緊張が高まるため、自動挙上時の疼痛につながる可能性がある。三角筋前部線維は、肩関節内旋位で緊張が減り、外旋位で緊張が高くなるため、掌の向きによる挙上可動域の変化は肩の回旋肢位の違いによる影響が考えられた。また、肩周囲筋の出力が低下している挙上動態であるため、受傷時の骨転位による三角筋の損傷もしくは三角筋周囲の損傷、一過性の肩甲上神経や腋窩神経の麻痺が出現していた可能性がある。一過性の神経麻痺なら外傷後約1ヶ月を目処に回復するが、症例は術後2ヵ月の時点であるため筋の損傷や神経麻痺というよりは三角筋周囲の滑走性低下により自動挙上時の疼痛が出現している可能性があった。しかし骨折部が斜骨折であるため三角筋が収縮することで骨折部由来の疼痛も否定できない。加えて受傷機転が不明であるため、頚部由来の筋出力低下も否定できないことからこれらを踏まえて再評価する必要性が挙げられた。また、髄内釘挿入位置がセントラルポイントよりもやや前方に位置しているため、肩関節外旋位では髄内釘突出部が肩峰の下、内旋位では烏口肩峰靭帯の下に位置することで、外旋位で挙げにくく内旋位で挙げやすくなる可能性がある。現段階では骨癒合が確認できないため、インピンジメントさせないように挙上ROM訓練を行っていく必要があり、骨癒合が得られた時点でインピンジメントによる可動域制限が出現していれば抜釘の必要性を検討すれば良いのではないかとの意見があった。また結帯方向や下垂位での回旋運動は、インピンジメントをしないため、現時点から十分に関節可動域を獲得しておく必要性が挙げられた。
今回の症例を通して、外傷および手術後の運動療法では、詳細に手術方法を把握することが重要であると再認識できた。また、可動域制限が軟部組織によるものだけでなく、インプラントや骨の変形など療法士が直接改善することが難しい原因となっている可能性があり、詳細な情報収集および臨床所見による確認を行い、現時点でできる運動療法を実施していく必要性を再認識した。

(校正者:)