261回整形外科リハビリテーション研究会報告

2018.1.19 於:名古屋コンベンションホール
            


橈骨遠位端骨折後の拘縮改善に難渋している一症例

症例は80歳代の女性である。自宅にて転倒し受傷した。翌日、A病院を受診し左橈骨遠位端骨折と診断され、2ヶ月間ギプス固定をしていたが、その間に運動療法は実施していなかった。受傷より2カ月後、リハビリ目的に某整形外科病院を受診し、理学療法開始となった。
X線画像より本症例の骨折はColles骨折であり、AO分類A2であった。Radial lengthは5mm、radial tiltは11°、ulnar varianceは2mm、volar tiltは-29°であった。初期理学療法評価より背屈30°,掌屈40°,回内30°,回外65°であり、手指の分離運動は不可能であった。手指MP関節とDIP関節の拘縮が強く、MP関節の過伸展や手内筋拘縮テストは実施不可能であった。TAMはⅠ指96%、Ⅱ指79%、Ⅲ指63%、Ⅳ指51%、Ⅴ指40%であった。
加療開始5週時点での手関節の可動域は初診時と比較し改善傾向であったが、手指MP関節の拘縮とMP関節他動屈曲最終域でのVAS80~90mmの疼痛を手指背側に訴えられ、加療に難渋していた。
検討項目は、疼痛が強い場合の加療方法について、2ヶ月間の不動に伴う拘縮改善の限界について、動的スプリントの適応についての3点であった。
フロアーからは、まずは浮腫除去を徹底させた上で自動運動での運動療法を増やすという意見や、手関節可動域の制限因子や手関節肢位による手指の可動域変化の評価を詳細に行うこと、他関節で代償せずにMP関節を使えるようなセルフ指導や手内筋の機能を向上させる必要があるという意見があった。動的スプリントに関しては、運動療法の内容をより詳細な評価の元に吟味した上で、検討しても良いという方向性が示された。
本症例においては、手指関節可動域の制限因子や疼痛の要因について、手外筋を含めた筋・腱の癒着や短縮などの軟部組織性であるのか、また関節性であるかを判断することが必要であると再確認した。また手指拘縮のみに捉われず骨折後の転位を含めた手関節の機能評価をより詳細に行い、各方向への制限因子を特定したうえで運動療法を実施する必要性を再確認した。

(校正者:猪田 茂生)




三角骨骨折(保存療法)後に手関節背屈可動域制限を起こした1症例

症例は60歳代男性である。某日、チェーンに足を引っかけて前方に転倒して右手をつき受傷した。受傷時のCT画像において、三角骨背側にやや転位した骨片および転位のない小骨片が認められた。他に特異的な所見は認められなかった。右三角骨骨折と診断され、外固定となった。受傷3週間後、禁止されていたスクーター運転中に転倒し、左鎖骨骨幹部粉砕骨折と診断された。同部位にロッキングプレートによる観血的骨接合術が施行された。1回目の受傷より4週間後に手関節の外固定が除去され、理学療法が開始された。
開始時の可動域は、右手関節背屈45°(左は70°)、掌屈40°、回外60°であった。背屈最終域にて手関節背側中央に鋭い疼痛が認められた。手関節背屈可動域の制限因子を推察するためには、どのような所見を確認する必要があるかを検討した。特に、①どのような病態が予想され、その病態を確認するためには、どのような所見を得る必要があるか? ②背側の損傷・炎症か、掌側の伸張・滑走障害かを鑑別するためにはどのような確認が必要か? ③「滑走障害」である場合、その部位を特定するにはどのような所見を得る必要があるか?をポイントに挙げた。
フロアより、骨折部の不安定性による疼痛が原因となっている可能性があり、背屈時の痛みの部位と骨折部が一致するかどうか、エコーにて異常可動性を認めるかどうかなどを確認する必要があるとの意見が出た。また、背側の靭帯等の損傷が原因の場合、靭帯部分の圧痛を認めるかどうか、ダーツスロー運動での疼痛の増減(増加すれば手根中央関節、軽減すれば橈骨手根関節など部位の特定につながる)が認められるかどうかなどを確認する必要があるとの意見があった。さらに、掌側の軟部組織による拘縮であれば、手指の肢位での手関節背屈角度の変化が認められるかどうかなどを確認する必要があるとの意見が出された。
本症例は、すでに理学療法を終了しており、発表者より実際に行った評価・治療について実技を交えて解説された。背屈角度は45°であり、抵抗感の増加とともに手関節背側中央に疼痛が出現して制限されていた。背屈に伴う近位手根列の背側への偏位を徒手的に抑え、正常な運動軌跡となるように操作しながら背屈すると背側部痛は出現せず、掌側の伸張と抵抗にて制限され、角度は30°へと減少した。この操作により、背側部痛は、掌側の軟部組織の伸張・滑走障害にて近位手根列が背側へ偏位しながら背屈したことで生じたインピンジメントであったと推察され、制限因子のさらなる確認を進めた。制限と同時に緊張する組織を確認したところ、手関節近位レベルで橈側・尺側の中央で緊張を触知でき、さらに近位へと確認したところ、前腕掌側の遠位1/4レベルまでこの緊張を触知でき、それより近位では明らかな緊張の増加を触知できなかった。同部位は起始と停止とを近づけると緊張が低下する所見が認められた。MP・PIP・DIP関節伸展角度を減らすと手関節背屈角度がその分増加し、MP・PIP・DIP関節伸展角度を増やすと手関節背屈角度がその分減少した。前腕回外角度を増やすと背屈角度の減少が認められ、回外角度を減らすと背屈角度の増加が認められた。さらに、徒手的に手関節近位にて深指屈筋腱への徒手的伸張操作にて背屈角度の減少が認められた。以上のことから、手関節掌側面~方形回内筋に対する深指屈筋腱の滑走障害により手関節背屈が制限されていると推察され、深指屈筋腱下の滑動機構(脂肪体)の柔軟性を改善しつつ、深指屈筋腱の近位滑走・遠位滑走距離を段階的に増やすように収縮と伸張を行うことで改善を図った。週2回の外来理学療法を実施し、理学療法開始後約2ヵ月で背屈70°まで改善した。
制限因子の特定には、責任組織と病態、その病態に至った要因などについて機能解剖学的触診技術を用いた原因究明のための評価にて明らかにする必要がある。「触れて硬い」「動かしてみて動きが少ない」などの主観的な判断ではなく、条件変化による角度・症状・緊張状態・圧痛の違いを確認し、客観的事実となる複数の所見を比較・統合して推察することが大切であることを再確認できた症例であった。

(校正者:熊谷 匡晃)